A9-1.人間って自分の主観でしか物事を見れないからね。彼らにとってはごくありふれたつまらないもの=自分だから、なかなか気付けないものなのさ

 キャラ増えると自分で分からなくなるのに積極的に増やしていく向上心の塊(╹◡╹)


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 モニカさんのことを弔ったら、もうわたしに話しかけてくれる人はいなくなった。仕方がない。この街はそういう街で、平穏に暮らしていたければたとえ使えたとしても火の魔法なんて使うべきじゃなかったのだ。その事を理解した上で魔法を使ったのだから、たとえそれが街のみんなのためだったとしても、この扱いは仕方がない。


 そうわかっていても、悲しいものは悲しいし、辛いものは辛かった。今まで仲良くしていたお店の人に無愛想に接客されて、おまけをつけてくれた人は割高に料金を伝えるようになった。わたしのことをちっちゃいお姉ちゃんと慕ってくれた子供たちは、わたしの姿を見ると逃げ出す。わたしは何も変わっていないのに、いままで通りのわたしのままなのに、みんなはわたしのことを汚いものを見る目で見てくる。


 変わらないでいてくれたのは、仲間たちだけだった。わたしは何も悪いことをしていないのに、こんなふうに接するなんて酷いと怒ってくれた。街のためにやった事なのに、その結果がこれかと怒ってくれた。


 仲間だけは、わたしのことを変わらずわたしとしてみてくれた。街の人に嫌われたわたしを、変わらず仲間と呼んでくれた。そのことに救われた。



 だから、わたしは街を出る決心が着いた。元々出る予定で、唯一の心残りもなくなってしまったのだから、当然と言えば当然だ。けど、本当はもう少し前もって用意しておかなきゃ行けないはずで、こんなふうに数日前に突然決めるようなことではない。


 それでも仲間たちが何も文句を言わずに出発してくれたのは、わたしのためだろう。本当に優しい人たちだ。わたしは、いつも優しい人たちに囲まれている。


「学園街は賢者教団の影響が小さい場所だから、あそこに着いちゃえば問題はないんだ。そうだったよな、マイク」


「ああ。火を専門に研究する集団がいると、先生が嘆いていたから間違いないはずだ。その集団がいるからなかなか教えが定着しないらしい」


 出発前に、リーダーで前衛のリックと頼りになる盾職のマイクがそう話している。マイクはしっかりしているから、忘れっぽいリックの確認作業によく手伝わされているのだ。


「確認はその辺にして、早く出発しませんか?たとえ何もされないとわかっていても、この視線の中に留まるのは気分が良くありません」


「そーだよお兄ちゃん、確認なんて後でいくらでもできるでしょ?そんなことばっかしてたら明日になっちゃうよ」


 そうやって2人を急かすのは、元貴族の令嬢で魔法使いのハンナと、マイクの双子の妹で斥候のミケ。この4人が、わたしが今唯一信じられる大切な仲間だ。わたしの身長のことをよくからかってくることを除けば、なんの不満もない最高の仲間たちである。


 そんなみんなと一緒に歩いて、学園街を目指している間にわたしの気はだいぶ晴れた。そのことにお礼を言って、暗くなっちゃってごめんねと謝ると、4人は仕方の無いことだからあまり気にするなと言ってくれた。やさしい。


 そのまま一緒に旅……旅?を続けて、その途中で水浴びを覗かれるハプニングもあったけれど、その優しさがあったから広い心で許すことが出来た。そもそもわたしみたいなちんちくりんの裸を見たところで、まともな感性を持つ男の子ならなんとも思わないだろう。……思わないよね?膨らみかけてすらいないぺったんこなこのからだで興奮したりしないよね?リック、なぜお前は顔を赤くしている。顔色変えずに紳士的に目を逸らしたマイクを見習え。


 仲間の性癖が少し良くない方向に行きつつあることを危惧しつつ、その現場を見た女性陣2人がリックをタコ殴りにしているのを眺める。二人はリックに淡い恋心を抱いているので、性癖が狂ってしまうと困るのだろう。多分内心、赤くなるなら自分で赤くなれとか思っているはずだ。モテ男ってすごい。


 ちょっとやりすぎていたので二人を止めて、リックのことを回復魔法で治す。わたしが回復魔法を使うようになってから、2人のリックに対する折檻が遠慮のないものになっているのは気の所為だろうか。本人は骨折しても、日頃から痛みに慣れておくことでもしもの時に動くことが出来る時にしていないのだが、日頃から骨を折るのはかなりやりすぎな気もする。


 そんなことがありながら移動を続けて、しばらくすると学園街に着いた。通行税を払って街に入り、学園に着いたら試験料と授業料を払う。試験料は合格の可否に関わらず無くなるお金で、授業料は初年度の一年分の学費だ。試験に落ちたら戻ってくる。わざわざ1度回収するなんてことはしなければいいのにとも思ったが、以前授業料を用意せずに合格した学生が問題を起こしたらしく、再発防止のためらしい。


 試験内容は座学と実技。学園自体は魔法使いの育成をメインにしているが、それ以外にも貴族教育や冒険者の育成などにも手を出している。貴族教育は魔法を習いたがる貴族が多かったことが理由で、冒険者の教育は魔法使いに近接や雑技を習わせているうちに、そちらの需要が増えたため分派したらしい。今では魔術課程と貴族課程、冒険者課程に別れてカリキュラムがあり、わたしたちが受けるのは比較的難易度の低い冒険者課程だ。と言うよりも、魔術課程は要求される基準が高すぎるし、貴族課程はそもそも受験要件を満たしていない。


 貴族籍があって、座学が出来れば貴族課程、実技である程度以上のパフォーマンスを見せれば冒険者課程に合格できる。その両方が合格ラインを超えて、さらに成績上位者に含まれれば入れるエリートな魔術課程。たくさんの人たちがこぞって入りたがる魔術課程の授業内容に興味が無いと言えば嘘になるが、さすがのわたしも師匠から少し勉強を教えてもらっただけの自分がそんなところに入れるとは思っていない。


 だいぶ年がいって、おじさんに見える受験生がブツブツ呟きながら本を読んでいるのを横目で眺めながら、みんなと一緒に受験会場に向かう。入学には年齢制限がないので、色々な年齢層の人たちがいるが、いちばん多いのはみんなと同じくらい、10代中盤くらいの人達だった。貴族たちの風習に合わせるとこれくらいの年齢で入学しておかないと問題があるらしく、その影響らしい。わたしにはよくわからない世界だ。


 試験官の言うことを聞いて、まずは座学の試験。先にこっちを済ませるのは、実技でやる気を出しすぎて怪我をする人がいるかららしい。せっかく優秀な成績なのに座学の試験を受けられず失格になることがあり、そういう子への配慮としてこの形になったのだと、試験官が教えてくれた。いい人かと思ったが、この話で直前に勉強した内容は飛んだなと言っていたので、ただの性格が悪い人だった。直前の勉強なんてしていないわたしには関係の無い話だったが。


 配られた試験問題は、半分ほどが一般常識、残りのうちの半分が魔術の記述問題で、残りが魔法やそれ以外についての問題だった。魔術については習ったことがなかったのでなんとなくでしか答えられなかったから、きっとそれほどいい点ではないだろう。みんなも難しかったと言っていたし、きっとだめだ。


 元々そんなに期待していなかった座学のことは忘れて、次は本命の実技試験だ。試験内容は簡単で、複数の教官の前でそのうちの一人と戦うだけ。その時の戦い方などをそれぞれが評価して、その合計が点数になるらしい。


 試験用に貸し出された木の短剣で担当の試験官に襲いかかっていたら、すばしっこい小動物みたいだと褒められた。小動物の部分はわたしのサイズが大いに影響している気がするが、たぶん褒められているのだろう。チビってバカにされている訳では無いはずだ。


 たぶん好感触。試験官の表情なんかを見ているに、わたしの評価はそれなりに高そうだし、みんなの方もそれほど悪くはなかったはずなので、基準はわからないが合格できるのではないだろうか。誰か一人だけ不合格とかになると、とても気まずいのでできればみんな合格していてほしい。リックとかは少しおバカだから、特に心配だ。


 この日は試験を受けるだけで終わって、そのあと合格発表の日までは暇になるので、新しく来た街の冒険者組合に行って、移籍の手続きをする。本当なら合格が決まってからするべきことなのだが、わたしのことがあってもう賢者街には戻れないのと、誰かが落ちても二年くらいは挑戦するつもりだから問題ない。もしみんなで落ちたら、その時はここでお金をためながら考えよう。



 ちょうどいい雑用依頼があったので何件かこなしてお小遣いをためているうちに時間は経って、合格発表日になった。一番自信なさそうに緊張しているリックに、たとえ一人だけ入学できなくてもパーティーのリーダーはリックだよと言って励ましつつダメだった時に落ち込み過ぎないように予防線を張って、現地に向かう。


 発表会場は、たくさんの受験生であふれていた。自信満々に見える人や、顔色が悪くて心配になる人、賢者様どうかと祈りを捧げている人。最後の人は気持ちはわかるけど、いくら祈っても何も変わらないと思う。だって師匠は祈られたくらいで何かをしてっくれるような人じゃないし。


 どこもかしこもざわついていた会場だったが、それも学園の教師がその場に来るまでのことだった。丸められた大きな紙が、何人もの人によって運ばれてくる。誰かに聞くまでもなく、それに合格者が書かれているのだと、その場の空気だけで分かった。


 誰も声を出さなくなった空間で、一人手ぶらで来た人が腰から下げた何かを覗いて、待つ。きっと見ている物は時計だろう。そしてしばらくすると、紙を持っている人たちに合図を送った。


 一斉に広げられた紙。そこに書かれているのは、たくさんの番号。わたしたちの一人一人に割り当てられた受験番号だ。辺りからところどころ喜びの声が聞こえてくる。きっと自分の番号を見つけたのだろう。わたしも負けじと探して、見つけた。これで一安心。なので今度は、仲間の分の番号を探す。


 一つ目、二つ目、三つ目。ひとつ足りない。しかもそれはリックのものじゃなくて、ハンナのもの。リックならともかく、強くて賢いハンナが不合格なんて、信じられない。もう一度しっかり確認する。


 幸いなことに、わたしがただ見落としていただけだったようで、ハンナの番号は他のみんなとはちがう紙に書かれていた。ハンナだけが貴族課程合格だったので、見落としてしまったらしい。頭がよくないと入れないのに貴族課程にはいれるなんてさすがハンナだねと褒めると、ハンナは少し複雑そうな顔になった。


「ありがとうございます。でも、アリウムさんに言われてしまうと困ってしまいますね。だってアリウムさんは、魔術課程に合格されているのですから」


 言われて初めてわたしの試験番号を見直すと、そこには確かに魔術課程合格者と書かれていた。でも、わたしは自分の座学のテストの結果には自信がなかった。突然合格なんて言われても何かの間違いとしか思えなかったので、合格者が呼び出されている場所に向かって、そこにいた試験官の一人に何かの間違いじゃないかと確認する。


 いきなり聞かれた試験官は、なんで合格したのに不満そうなんだと怪訝そうにしていたが、わたしが魔術を使ったことがないのだと説明するとようやく納得してくれたらしく、試験の点数を確認する方法を教えてくれた。


 急いでその場に向かうと、そこにいたのはとても厳しそうなおばあさん。少し怖かったけど事情を話して点数と他の基準点を教えてもらったら、確かにその条件は満たしていたし、順位的にも上の方だったから間違いないらしい。魔術が使えないことをに関しては、それこそこの学園で学べばいいのだと言われた。なんでも、魔術が使えないのにこの点数を取れるのならむしろ期待できるとのこと。


 みんなと一緒に勉強できないのは少し寂しかったけれども、予想外とはいえ気になっていた課程ではある。辞退して冒険者課程に移ろうかとも思ったが、みんなにももったいないからと止められてしまった。


「アリウムさんまで冒険者課程に入ってしまったら、私だけが仲間はずれになってしまうじゃありませんか。それだと私、寂しいです」


 ハンナにそう言われたこともあり、わたしは魔術課程に進むことにした。そうと決めたらそのまま入寮手続きをして、オリエンテーションに向かう。もっとゆっくりしてもいいと思ったが、時間は有限だから効率的に使うべしというのがこの学園のモットーらしい。


 入学式は時間の無駄だと言ってカットされ、分厚い教科書を何冊も持って帰らされる。今日渡された分は必修科目のものだけで、自分で選ぶ科目についてはまた後日らしい。


 初日にしてどっと疲れてしまったので、みんなに会おうと思ったら入学式の途中だと言われた。魔術過程に進むと、レベルの高い授業を受けられる代わりに、学園で行われる楽しいイベントの多くに参加できなくなるらしい。こんなことなら冒険者課程に進むべきだったと、初日にしてわたしは泣きたくなった。

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