Q9.なぜ学園モノに出てくるおもしれー女っていう男は自分の方が100倍おもしれーことに気付かないのでしょうか?

 あんなに楽しく幸せそうにしていた幼女は、大切にしていた人を火葬したせいで街から浮いてしまった。みんなのために、街のために嫌な役割を担ったのに、こんな扱いを受けることになるなんて、本当にかわいそうだ。この街の住民には人の心がないのか。焼き払ってしまいたくなるな、そんなひどいことは私はできないけど。


 しょんぼり、というよりも本気で落ち込んだ様子の幼女、私の前ではいつも元気に落ち込んでたから、こんな姿を見るのはなかなかに新鮮だ。でも大丈夫、幼女には心強い仲間がいるからね。ちょっとやそっとじゃへっちゃらさ。お友達が賢者教団ベリーライト勢でよかったね。


 おかげで幼女は一人きりにならず、学園に向かうことができた。冒険者とか研究者とかの連中は、そこまで信仰心が強くないものが多いので、賢者街から出ればここまで露骨な扱いは受けないし、学園に至っては火の魔法を専門的に扱っている集団もいるので、そこについてしまえばもう何も気にする必要はなくなる。はやくつけるといいね。


 そんなことを考えながら見守っていると幼女たちは順調に旅を続けて、特に何事もなく学園街に着いた。基本的には都市と都市をつなぐ大規模な道だし、そうそう何かが起きる方がおかしいのだけどね。今回は私も何もしなかったし至極当然の話だ。唯一起きたハプニングが、幼女の体が少年たちにお披露目されたくらいである。幼女で興奮するな少年、ロリコンにになるぞ。


 しかしまあ、幼女の乙女心にはあまり興味がないのでその話はいいか。保護者とはいえ、年頃の子供のそういう話に首を突っ込むのはよくないからね。私はそんなデリカシーのない人間ではないのだよ。幼女は無事に学園街に着けました。それでいいじゃないか。


 さて、そんな幼女の近況はほどほどにしておいて、それ以外の面白い話をしよう。何を隠そう、私の近況話だ。


 シーちゃんが帰ってくるまでの間暇だった私は、他の妹たちのお世話をすっぽかして、面白いものがないかいろいろなところを探して回っていたのだが、なかなかにいいおもちゃを拾ったんだ。


 エルフたちが住んでいた森よりもだいぶ環境が厳しい南の方の森に、ぽつんと存在した小さな集落。トロピカルフルーツが食べたくなって作った農場の跡地にひっそりと暮らしていたのは肌が黒いエルフ、ダークエルフの生き残りだった。エルフにたくさん私を食べさせたらどうなるか実験した時のなれの果てだね。通常種とは違ってやけに火への適性が高まったから遠くに追いやったのだが、まさかまだ生きていたとは思わなかった。


 もともとは小麦色くらいだったのに、暗褐色になってしまうとは、一体どれだけの共食い、濃縮を繰り返してきたのだろうね。わかんないや。


 さて、集落、とは言ったものの、正しく言えば私が見つけたのは集落の跡と、その中に一人だけ生き残っていた少女だった。仲間のことを、必死に食べ続ける一人の少女。少女は突然空から降ってきた私に警戒していたが、叩きのめして話を聞かせてもらうと快く事情を教えてくれた。


 何でも、集落のしきたりで賢者様への生贄として崖の下に落とされることになり、それに抵抗して返り討ちにしてしまったらしい。生贄の目的は雨乞いだったとか。生贄なんてささげそんなことをしても私には届かないのに、馬鹿な子たちだ。


 自己紹介して試しに雨を降らせて見せたら、少女、セレンちゃんは親の仇でも見るような目で私のことを睨みつけて、お前がもっと早く来てくれれば集落のみんなはと口汚く罵った。本当に面白いことをいう子だ。その大事な集落のみんなよりも自分のことを選んで、みんなを殺したのはほかならぬ自分だろうに。


 愉快な気持ちになったので、心を読みながらぐちゃぐちゃにしてやる。そのまま思考を捻じ曲げれば、私のことを神様みたいに信仰するペットの完成だ。もともと邪神くらいの認識とは言え、信仰の下地があったこともあり、結構自然な感じで仕上がった。ただ信仰するだけじゃつまらないので恐怖による信仰だが、死ぬほど嫌って怖がっている相手に服従するしかできない少女はいいものだな。


 そんな風に、新しいおもちゃを一つ手に入れたので、お気に入りの印をつけて学園に送り込んでみる。アリウムちゃんと年が近いこともあるし、だいぶ昔に派生したとはいえ数少ない同類、家族が死んでしまったと共通点も多いから、きっといいお友達になってくれるだろう。資質の方も、先にこの子とあっていればアリウムちゃんは使わなかったくらいには優れている。二人の関係がどう進むにしても、私としてはありだ。


 本当はこのポジションにはシーちゃんをつけられれば良かったんだけど、あの子は私が目を離したら何をするかわからないし、最悪幼女に危害を加えかねないのでダメだ。その点セレンちゃんは従順だし余計なことはしなさそうだし、本当にいいものを拾った。定期的にメンテすれば壊れにくそうなのも素晴らしい。


 セレンちゃんの頭に目的地を流し込んで、向かうようにしたら早めに施設に帰る。三日間放置されていた妹ちゃんたちは空腹で倒れそうになっていたので、くじ引きを作って二人一組で食い合わせた。強いもの、容赦のないものだけが生き延びれる。これもまた弱肉強食の理である。


 減った分を早速補給しつつ、暫く待っているとシーちゃんが帰ってきた。初めて外に出たのにちゃんと帰ってこれるのは、お勉強をしっかりやっていた成果だね。今回の働きが素晴らしかったから、もしもの時は回収しに行くつもりだったが、そうならなくてよかった。


 早速頑張ったことを褒めてあげて、ご褒美にこの日は一日だけ添い寝をしてやる。これだけで心底嬉しそうにしてやる気をますます上げていくんだから、この子は本当にチョロい。将来が心配になるよ、まともな将来なんて用意していいないけどさ。


 他の子たちと一緒に訓練させても周りを壊すだけになってしまったシーちゃんを一人で自主訓練という体で厄介払いして、他の子たちの育成に力を入れる。シーちゃん、基本性能は高いけど、使いまわしはよくないからね。もっといろんな用途で使える子が欲しい。だから多様性って大事なんだね。


 出来ればもっと、最後の最後で幼女の心をぐちゃぐちゃにできるような子が欲しい。完全に私側でありつつそれを隠して幼女の近くにいられる狂った精神性と、アリウムちゃんを貶めることに罪悪感を抱かないゴミみたいな性格、最終的に自分を殺させることを楽しむような終わった性癖を持ち合わせていてほしい。仕方がない、選別作業ガチャがんばるか。


 そんなふうに私がいろいろやっているうちに、幼女たちは入学できたらしい。お金と実力かコネがないと入れないところで、幼女たちにはコネなんて便利なものはないから、自然と頼れるものは実力だけだった。その実力も、合格確実というレベルではなかったので、みんなが合格できたのはラッキーだったね。


 落ちたとしても幼女だけなら、賢者の寵児の立場を使えば半分モルモット枠ではあるものの入学できたのだが、やっぱり仲間はみんな揃っていられるのが一番である。そうじゃないと、なんで女騎士さんを犠牲にしてまで出発を速めさせたのかわからなくなってしまうからね。おじさんも応援してよかったよ。


 そんな後方師匠面はともかく、セレンちゃんも無事に到着できたようだ。もともとは無一文だったのでそのままでは入学なんてできなかったのだが、そこは私の力でちょちょいのちょい、おじさんとタノシクおしゃべりをしてくれたお礼にかなりお金を握らせておいたので、卒業まで困ることはないだろう。これが話題のパパ活というものか、金銭感覚がばがばになっちゃうな。



 残念なことに幼女とセレンちゃんはまだ出会っていないが、幼女の方ではなかなか面白いものが見れた。学園街がある国の王子様が偶然にも同じクラスだったのだ。そして学園が王子を特別扱いしないことに腹を立てたその側近が幼女に八つ当たりして、喧嘩が勃発。


 決闘騒ぎに発展して、そのまま一方的に側近をボコった幼女と、使っている魔法が現行のどれとも合わないことに驚く教師陣。俺なんかやっちゃいました?する幼女と、くくく、おもしれー女する王子。お前の方がおもしれー男だよ。


 まるで学園ものチーコメの導入みたいなやり取りを本当にしてくれるとは思わなかったので、久しぶりに笑わせてもらった。他の魔法系統を一切教えず、昔のものだけ仕込んだ甲斐があったというものだ。


 笑うことの健康に対する有意義性を実感しつつ、無心でいろいろな条件の妹ちゃんたちを作る。ガチャはいらないものもたくさん出るから、とにかく数をこなさないといけないのだ。幼女たちの日常風景を垂れ流しにしながら作って作って、失敗作からみんなのご飯に変えていく。私は人工的に作った肉なんて食べたくないので、一部設備維持に回している妹ちゃんたち、雑務班に毎食作らせているけどね。何が悲しくてエルフの肉なんか食わないといけないのか。


 間違ってできてしまった化け物をシーちゃんの訓練相手にしてみたり、幼女のことを狙う不埒物を再起不能にしたり、初めて異性に興味を持った王子が幼女にアプローチして断られているのをみたり。


 やはり青春というのは素晴らしいな。見ているだけでも楽しい。というか、大体の青春は自分が実際におくるよりも安全から見て笑っている方が楽しいのではないだろうか。だって私なら、こんなクソ面倒なおもしれー男に付きまとわれ続けるのはごめんだし。それでも楽しめるからこそ傍観者はいいのだ。


 そんな私の意見はともかく、幼女はあまり普通のお友達ができずに過ごしていた。まあ、見た目が幼女で、使える人がいないはずの魔法を使って、一国の王子から言い寄られても冷たくあしらい続けているのだから、周囲からすれば近寄っていい人間なのかすらも微妙だ。


 かなしい理由で知り合いがまともに増えない幼女は、寂しく思いながら仲間たちと一緒にダンジョンに潜る。ダンジョンって言うのは、何故か魔物が無限湧きする上に、倒すと死体が消えて何故か素材の1部や加工済みのアイテムが落ちる不思議空間である。当然、私がつくりました。


 正体が全く解明されていないダンジョンの正体は、ずばり魔物無限湧き製造機の放置場にして、私が作った沢山の要らない魔物たちの処分場である。ここに入れておくだけで人間くんたちが勝手に処分してくれるので、かなり使い勝手のいいゴミ箱である。ドロップアイテムや宝箱の中身はその働きに対するお礼だな。たまに素材を拾う時にもここから拾ってくる。人間くんはいくらでも入ってくるし、ここなら数人消えても珍しいことじゃないからね。


 そんなところで楽しそうにわちゃわちゃしている幼女たち。この子、学園で青春()している時よりもこっちで金策している時の方が楽しそうだな。多分九割くらい王子のせいだけど。


 普段の私なら幼女のためを思って、この辺で王子を退場させることくらいならするのだが、いかんせんこの王子はおもしれー男すぎるので消す気になれない。私の邪魔をしながら生きていられるなんて、こいつは才能の塊だ。殺すのはつまらなくなってからにしてやろう。私はベタなキャラに弱いのだ。


 誰にも助けてもらえない不憫な幼女を見ながらせっせとガチャを回し、定期的にシーちゃんをあしらっているうちに、学園生活を始めてからの最初の一年が過ぎた。セレンちゃんが全く幼女と関わろうとしてくれないので、そろそろテコ入れが必要だろうか。そう思い、私はおもちゃの脳に直接話しかけることにした。

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