Q4.なぜ修行という名目があれば大抵の無茶は通ってしまうのでしょうか?……ばかだからとか?

 書いてたらステーキが食べたくなったのでアリウムちゃんにかわいそうなことして八つ当たりします(╹◡╹)


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 心苦しい思いをしながらアリウムちゃんを育てあげることを決め、とはいえ特にやらせなきゃ行けないことはまだないので、首から下を地面に埋めたり、エンドレスフリーフォールをさせたり、息だけできる状態にして滝つぼの中に突っ込んだりしておく。


 本当は私が用意するご飯を食べているだけで簡単に強くなれるとはいえ、今のアリウムちゃんにそのことを伝えることはまだできないからね。エルフを適切に食べればその力をある程度取り込めるだなんて、私以外の誰も知らないのだから。


 さて、初日からずっとアリウムちゃんに食べさせていたレアのステーキも、今日でそろそろなくなる頃だ。ところでアリウムちゃんのお母さん、あの子の名前はレアだったんだよね。与えられたあらゆる名前に願いがあるって言うし、きっと素敵な理由があったのだろう。確かあの名前をつけた時は、肉汁溢れる分厚いステーキが食べたかったんだっけ。エルフの里は動物性タンパク質中々取れないからね。


 アリウムちゃんを放置している間に、次にやる修行暇つぶしを考えつつ、今後の予定を考える。土台を作るためにある程度のエルフを食べさせたら、あとは単純かつ単調な繰り返し作業をさせるくらいしかないんだよね。センスや応用なんてものは弱いうちに磨いた方が効率がいいし、最初から力押しで何とかするのは美しくない。私だって最初は貧弱なところから始めたのだから、みんなそうするべきだ。異論は認めない。死にゲーだって二発攻撃くらったら即死くらいが緊張感があっていいでしょ?つまりはそういうことだよ。本当の強さってのは攻撃力じゃなくて、攻撃をかいくぐりながら倒し切れることなんだ。


 しかしそうなると困ったことに、私が教えられることなんてほとんどないのだ。せいぜいが基礎中の基礎、みんながあやふやなまま感覚で済ませてしまっているところをガチガチに固めるくらい。そんなことを教えられても、外の世界で喜ぶのは一部の学者連中だけである。もちろん知っているのと知らないのではそれからの成長が段違いだが。


 さてさて、そうなると魔法に関しては適当に済ませることになるから、これからは体術なんかを教えてみようか。そもそも現時点で全部適当とか言っちゃいけない。私だって涙を流す人の子なのだ、正論はたやすく心を傷つける。まあ実際適当なんだけどね。


 前後左右どころか上下の感覚まで失いながら滝つぼぐるぐるで遊んでいたアリウムちゃんを回収して、濡れ鼠な幼女をポイッと投げる。かったい地面の上でボールみたいに跳ねる小さい体。背中を打った時に肺の中の空気を全部出してしまったのか、少し、いや結構苦しそうにゼーゼーしている。かわいいね。


 信じられないものを見るように、非難するかのように細められたかわいいかわいいサファイアブルー。もう一度捕まえて放り投げる。今日はこれから受け身の練習だ。なるべく痛くない着地の仕方を自分で見つけると良い。それだけ伝えて、ポイポイ投げる。こんな風にしていると当然骨の十や二十くらいはぽっきぽっき折れて二十や四十になってしまうが、そんなときは魔法の出番だ。ちょっと首がゴキッといっても、ちょっと頭から中身が出てきてしまっても、私であればちちんぷいぷいであっという間に戻る。教科書通りの受け身を教えてもいいけど、この子は全身ボロボロの状態でも生きれるようになってもらわなくてはいけない。そのためなら命の一つや二つ、安いものさ。


 アリウムちゃんが泣いても、もうやめてと言ってもポイポイ投げ続けて、涙が枯れた頃には見事な五点着地を披露してくれたので、エルフの物覚えの良さには脱帽する。被造物の分際で創造主よりも優秀になりやがって。その性能が生意気だったので締めに数十メートルの高さまで投げ上げて、枯れた大地にトマトを咲かせる。エンドレスフリーフォールの経験を生かして姿勢の制御をしやがったので、風で干渉して頭から落としてやった。ふん、大人を甘く見るからだ。



 さっき君が、こんな訓練に何の意味があるのかと聞いたから教えてあげたのさなんて、急な凶行に理由をつけつつ、いくら技術を身に着けても死ぬときはすぐ死んでしまうから気を付けるように伝える。適当にそれっぽいことを抜かしているだけだが、案外うまくごまかせるものだ。


 濡れたまま土の上でコロコロして遊んだせいでドロドロに汚れていたアリウムちゃんをもう一回滝つぼに突っ込んで洗濯したら、今度はそれから何かを見出そうとしていた。君のようなチョr……素直な子は大好きだよ。



 洗濯が終わったら、次は楽しい楽しいご飯の時間だ。今日の晩御飯もステーキとスープだよ。こらこら、口に合わないからって、そんなにいやそうな顔をしないの。君の大好きな大好きなお母さんなのに、まずいなんて言ったら草木の陰で泣いちゃうよ。ああ、ごめんごめん、君の目の前とお腹の中にいるんだから、草木の陰じゃあ泣けないね。私としたことがうっかりさんだ。てへっ。


 ちゃんと美味しくできているだろう?いったい何をそんなに嫌がるのか。食べるとお腹の中が気持ち悪い?そういうもなんだから諦めなさい。レアのステーキがなくなったって言ったらよろこんでいたけど君、そのお肉はね……まあ、思うところがないわけではないがいいか。


 しかしまあ、まだ始めたばかりだけど、毎日毎日意味の無いことばかりやらされているのに、よくもまあこの子はこんなにも真っすぐな目で頑張れるものだ。私なんかだと、意味がないとわかっているからできないが、この子はそうではない。やはり、無知は力だ。無限の可能性を秘めている。無限であってもそのほぼすべて無駄に終わるものばかりだが。



 さて、ほどほどにお腹が膨れたら、もうそろそろ寝る時間……ではなく、魔法の練習の時間だ。私が本当に教えてあげられるのはまだこれくらいしかないなのだから、できることはできるうちにやっておきたい。最終的にはもっとすごいことも教えるが、子供にミサイルを持たせたところでまともに使えないのだから無駄だ。まずはあんよの仕方から教えないと。




 さて、ここからは私としては面白くもなんともない説明が長々と続くことになるのだが、この世界における魔法とは、不思議で便利なもの、そんな程度の認識でしかない。不思議な規則の上に存在する、未知の現象の集まり。しかるべき方法さえ知っていれば、何でも引き起こせる奇跡。そんなものとして知られている。


 世界中にあまねく存在する精霊たちに魔力を捧げて、それを対価にして何かを起こしてもらう精霊魔法。魔物や一部の人類が先天的に継承している固有魔法。そして、それらの現象を模して、再現して、知識があればだれでも使えるように作り出された現代魔法。この三つが現存する魔法体系で、最後のものは知識によって発展するものだからと一部の者たちは魔術と呼んで差別化している。まあ、一般的には三種類存在すると伝わればいい。後はもうすでに技術を継承しているものが存在しない原初魔法なんかもある。


 これらの体系は、現代人用に例えるのなら演算アプリみたいなものだ。AIにデータを突っ込んで勝手に計算してもらう精霊魔法と、最初から一つしかない代わりに一瞬で目的の魔法一つだけを出してくれる固有魔法、面倒だしある程度の知識はいるけれども、幅広い活用が可能なエクセルみたいな魔術。原初魔法?全部自力で手計算。簡単なのならすぐできるけど、中学以降の内容ならエクセル使った方が早くて確実でしょ?だから廃れたんだよ。


 しかしそこ廃れたことが原因で、要は今の世界には、まともに計算できる人がいないのである。なぜかわからないけど使えるものの使い方を研究している学者こそいるも、そんなのは誰にも教えてもらわずに関数の使い方を一つ一つ調べているようなもの。なんか悲しくなってくるね、廃れたのは私が知識を持っている連中消しちゃったからだけど。


 さて、そうなるともちろんだがアリウムちゃんに私が教えるものは原初魔法だ。あるいは、原初魔法を使うためのお勉強からだ。イメージ的には、数学の勉強を教えるために足し算から教えるようなものである。関係ないけど中学数学で引っかかる子って大体式変形のルールを覚えていないよね。そんな子には等式をシーソーとして教えるといいって私知ってる。必殺、1+1=2の意味ってわかる?攻撃だ。




 と、この辺まで話したところで、私は話疲れてしまったので、あとは自分で練習してみるように伝えていったん休憩する。他人とまともに話すことがなくなっていたせいか、思ったよりも喉が貧弱になっているね。明日は筋肉痛になっていそうだ。


 たまにまともに過ごすと疲れるので、明日はのんびりしよう、そうしよう。


 そう思って、次の日は一日中アリウムちゃんを空中か水中か地中に放置していた。どうせだから火中にも放置させたかったが、火にトラウマが残っているだろう幼女を生きたまま丸焼きにし続けたら、きっと気が狂ってしまうだろう。それに、いくら死なせないとはいえそれじゃあただの拷問だ。いつかはやらなくてはいけないことだが、私は別にアリウムちゃんが苦しんでいるところを見たいわけではないのである。


 なんだかんだで、それぞれの環境に親しめば魔法の適正も多少上がっていくし、エルフご飯と比べたら誤差程度とはいえ全く意味がないわけでもないのだ。私?死ぬほど焼け死んだから、自然と火の適正は高くなっているよ。

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