第9話(3)ダンジョンクッキング(レナ視点)
ダンジョンで食べる料理って、信じられないほどおいしいらしいの。
あたしはちゃんとしたダンジョン料理、食べたことないけど。
たまーにダンジョンの宝箱からお菓子やお茶が出るけど、それもすんごくおいしい。
ふしぎだよねー。見た目はなんてことない普通のお菓子やお茶なのに、とってもおいしい。これってダンジョン効果?
あー。ダンジョンでキョウの料理が食べたいなー。絶対死ぬほどおいしいに決まってる。
ってなると、やっぱ、「食材入手」特性がついたアイテムが必要。
だけど、このダンジョンの宝箱で、食材入手がついた武器ってみたことも聞いたこともないんだよねー。
ここって難易度10倍のわりに、出るアイテムはけっこうケチなの。
やっぱ上層では上層にでるアイテムしかでない仕様なんだろーなー。
しばらくはおあずけかぁ。と思いながら、あたしは11階層をぶらぶらしていた。
カモを狙って。
他のダンジョンから来る奴らって、けっこうレアな特性つきの装備もってるから。
装備の強奪してるのバレたら、説教仮面が激怒になって100時間くらい説教されそうだから、こっそり見つからないようにやらなきゃだけど。
そんなこと思ってたら、すんごいキモイおっさんと遭遇した。
いやらしい目でこっちをねめまわすように見ながらニチャニチャ笑ってんの。
(うわっ。きっしょー)と思いながら、あたしは気が付いた。そいつの手に握られている包丁。
あれって、ひょっとして、あれじゃない?
「そこのお嬢さん。いくら欲しい? 金でもアイテムでもなんでもやるぞ」
ニチャニチャと笑いながら、キモイおっさんがそんなことを言ってきた。
「え? くれんの? じゃ、その包丁ちょうだい」
「ふふふふふ。じゃあ、まずは服をぬげ」
「あ、そういう意味? あたしパパ活はやらないよ。でも、あえて見積もりいうなら、100兆円くらい? いいから、早くその包丁ちょうだい。のろのろしてると説教仮面くるかもしんないから」
説教仮面のやつ、最近、夜や休日はたいてい11階層のパトロールしてんの。うっざー。
「おとなしく言うことをきけばいいものを。ならば、殺さない程度に銃弾を撃ちこんでから、ゆっくり愉しみながら肉をこそぎ取ってやる。すぐには死なないようにたっぷりと時間をかけて肉をとるのだ。ああ。お前の、早く殺して、と泣き喚く声が聞こえる……」
キモイおっさんは、ニチャニチャしゃべりながら、自分の世界にはいって恍惚としていた。
だけど、たしかに、あいつが手にもつ銃の攻撃力はわりと高そう。アレに状態異常を付加してきたら、けっこうやばいかも。
こういう時は、先手必勝。
あたしは対人戦用に装備している腰のムチを手に取り、一気に振りぬいた。
敵の全身に何度も何度もムチを打ちつける。
「うっ、ぐっ、ぐぁっ、体が……動かん……」
このムチ、威力はかなり低い。だけど、マヒの効果付き。打てば打つほど、状態異常の効果も強まる。
さらに、このムチには、もう一つ大事な特性がついてる。
その特性の効果で、キモイおっさんの手から、銃が落ちた。そして、どんどんと装備が外れていく。
そう。このムチにつけているのは「装備解除」……という名のぶんどり特性。
銃に続いて包丁が敵の手から落ちた時、あたしは、念のためファイヤーボールをうちこんでから距離をつめて、敵のでかい腹をけって吹っ飛ばした。
落ちた包丁と銃を拾って、それから、装備がすべてはずれた状態で地面に倒れたまま動けないキモイおっさんに、あたしは近づいた。
ひらひらと包丁をふって見せながら、あたしはお礼を言った。
「これ、あんがとね~。さっそく試してみよっと」
あたしは包丁をデカい腹の肉に刺した。
泣きわめく声が響く中、あたしは感動した。
「あ、ほんとに肉がとれた!」
地面に肉塊がポロリと落ちた。なぜかちゃんとラップみたいなのに包まれた売り物っぽい状態で。これ、人肉のはずだから超不気味だけど。
「ダンジョンって不思議……」
あたしが感慨にふけっている間、腹に穴のあいたキモイ男が泣きわめいていた。
「やめてくれぇ。たすけてくれぇ。金ならいくらでもやる。やるから……」
あたしは記憶の中を探りながら言った。
「お金なんていらないって。で? なんだっけ? 早く殺して、と泣き喚くまで、ゆっくりと肉をはいでいくんだっけ?」
・・・
「くっせー! なんだよ。この臭いと煙。この階層中に充満してっぞ!」
休憩室に入って来るなり、忍者マスターが叫んだ。
そして、料理をしているあたしを見つけて、詰問するように言った。
「おい。なんだよ、その気色悪い物体」
シンですら、かなり引き気味に、あたしが持つフライパンの中身を見ていた。
あたしは小さな声で答えた。
「ハンバーグの練習……」
とたんにキョウが言った。
「はぁ? ハンバーグ? どうやったら、そのグロくて刺激臭する物体になるんだよ。ぜってぇ、毒物だろ。てっきり毒調合してんだと思ったよ」
嫌味とかじゃなく、本当に心底驚きあきれているのが声から伝わってくる。
「僕も料理はへただけど、これは……」
シンにすらそう言われた。
「あたしが悪いんじゃないもーん。食材が悪いんだもーん。たぶん」
あたしはゴミ箱に料理を捨てながら一応そう主張してみた。
食材は、見た感じおいしそうなモンスターの肉だったんだけど。
あー、もー! あたしもわかってる。
あたしに料理はムリ。絶対ゴミしかできない。
ダンジョンだったら自動で料理できるかと思ったのにぃ~。
あたし、「器用」のパラメータはかなり高いんだよぉ?
なんなのよ! あたしに「料理下手」とかなんか変な隠し特性でもついてんのぉ!?
……はぁ。やっぱ、あたしは食べるの専門。誰かに作らせよっと。
あたしはかわいく、キョウにたずねた。
「ねぇ、食材入手特性付きのナイフあげよっか?」
「条件は?」
不信感ありありの声でキョウはたずね返してきた。
「ダンジョンであたしに会うたびに料理をしてくれること!」
こいつらは毎日ダンジョンにいるから、この条件であたしはほぼ毎日キョウの料理にありつける!
だけど、キョウは瞬時に言った。
「断る」
「なんでよ」
「毎回お前のために料理なんて作ってられるか。んなにひまじゃねぇ」
「え~? 本当にいーの~? ダンジョンの料理は一時的にパラメータUPとか、特性付与とかしてくれるって知ってる~? これを逃したら手に入らない、貴重なアイテムですよ~? それが今ならタダ! ちょっと料理をつくってくれるだけでタダ!」
表情は見えないけど、キョウが皮算用している気配を感じる。
「俺が料理を作っているところに、偶然お前が来た時は、食わせてやる。この条件ならいい」
あたしは譲歩案をだした。
「休憩室のある階層で会った時」
「いやだ。お前のために食材探したり料理するのはめんどい」
「あーあ。しかたがないなぁ、もう。じゃあ、今日これから料理つくってくれたら、次からはたまたま料理中に会った時でいーよ~」
「OK。ディール。だけど、スパイスとか食材とか、あるのだせよ」
「いーよ~。けっこうスパイスはそろってるんだぁ。はい。ナイフ」
あたしはキョウにかわいいネコちゃん模様のナイフを渡した。
あのおっさんの肉切り包丁はなんかイヤな感じだったから、わざわざ特性をほぼ100%うつせる貴重なアイテムつかって武器錬成して、手持ちのナイフに「食材入手」特性だけうつしといたの。
こうして、あたしはその日、デビルラビット(ウサギ)とマッシュル(キノコ)のステーキ、それから同じ食材のスープをいただいた。シンプルだけど、超おいしかった。
もっと食べたーい。
だけど、次はもういつダンジョン料理にありつけるかわからない……とその時は思ったんだけど。
実はけっこうよく料理中のキョウに遭遇した。
あいつ、すっかりダンジョン飯にはまったみたい。
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