2日目・夜
2日目の夜。やっぱり飲んで騒いでいた私たちは、再び「夜の散歩に行こう」という話になった。
2日目は1人か2人かを宿に残して、ほとんど全員で散歩へ行くことになった。
時間は深夜近く。けれど1日目の夜と違って霧は出ておらず、見通しはいい。
人数が多いことも相まって、不安は欠片もなかった。
おしゃべりしながら道を進んでいくうち、道はアスファルトから段々砂へと変わっていった。
道の先は砂浜。
昼間の狭い浜辺とは違い、おそらく最盛期は人で混雑するだろう広い砂浜だった。
誰もいない砂浜を、先頭の誰かのあとを着いていきながら進んでいく。
10分ほど進めば、海の家と、砂に埋もれそうなアスファルトが見えてきた。
当然真夜中近くなので誰もおらず、私たちの声以外には波の音しか聞こえない。
海の向こうは夜空と溶け合い、暗く沈んで光を飲み込んでいた。
私は海の家に近寄っていった。
海の家の裏手に、ひっくり返ったサンダルが片方だけ落ちていた。
誰かの忘れ物か、物さびしさを感じさせていた。
さて、それじゃあそろそろ戻るか、という話になって、私たちは海の家そばのアスファルトの道を進んで行った。
砂に埋もれそうだったアスファルトが完全に顔を出している。十字路に差し掛かった、その時。
「 」
7人か8人かいたというのに、振り返ったのは私を含めて数人だった。他の人らは不思議そうな顔をしている。
「急に立ち止まってどうしたの?」
「聞こえなかったの?」
「何が?」
「だって今、声が、」
「おーい」
ぞ、と総毛立つ。今度は全員が聞こえたようだった。
怖がりの先輩がパニックに陥る。
「なに、なんで、誰もいなかったよね」
同期含め、責任感の強い真面目な人らが引き返そうとする。
「溺れて助けを求めてるのかも」
「絶対違う!」
私を含めた幾人かが、戻ろうとするメンバーを捕まえて引き止めた。
助けを求めている? そんなわけがない。
見える範囲の浜辺に人はいなかったし、わざわざ道路まで戻ってから助けを求めるのも変だ。
もし本当に助けを求めていたとして、呼んだのが人間だったとして、こんな夜中に、あんなに暗い海に入るのもおかしい。
私は時計を持っていた先輩に時間を聞いた。
深夜1時の少し前だった。
だいたいただの大学生が、戻ったところで何が出来るわけもない。
なにより、本当に切羽詰まって助けを求めているのならば。
あんな平坦な声が出せるわけがないだろうに。
結局私たちは浜辺に戻らず、足早に宿に戻った。
慌てる私たちを見て、宿に残った人らが不思議そうな顔をする。
「どうしたの? 戻ってくるの早いね」
事のあらましを説明したら、その後はなぜか怖い話大会になった。
怖がりの先輩は不参加だった。無理もない。宿までの道中、ずっと怯えて同期の腕にすがっていたので。
浜辺に戻ろうとした真面目な同期は、怖い話大会の最中、ずっと声の正体を考えていた。
同期は助けを求めた説を唱えていたが、隣で私はそれを否定し続けていた。
だったら何なんだ、と聞かれても、私には答えられなかったのだけれど。
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