第21話 ジェノサイダー
辿り着いたカナミザワ漁港。ウルトラボードは相変わらず変態の最中らしいが、迂闊に近寄れない理由を見つけた。
それは、辺りに散らばっている、カーマの残骸だった。
天真PMCの赤。
警察の青。
自衛隊の緑。
日本が誇る戦力を、おそらくはあの暴走ウルトラボードは、ことごとく返り討ちにしてしまったのだろう。
「お前、
上空に退避していた姉さんの真紅のカーマ、ナイトフェニックスが、隣に並ぶ。
「あぁ。姉さん、状況は?」
「見ての通りだ。私が率いていた三小隊と警官隊に自衛隊……全滅だ。生存者もいない」
「そっか」
姉さんの声は、いつも通り平淡としたものだった。
「自分トコの部下がいないのは、なんで?」
「避難民の誘導に当たらせている。もう終わったようではあるが、こっちに来ても無駄死にするだけだろうから、そのまま防衛に当たらせているよ」
「賢明だね」
よく見てみたら、確かに撃墜された赤い機体のマークは、姉さんの部隊のものじゃない。
「さて、あいつの相手はお前に任せて良いのか?」
「良いけど、よくそういう気になるね。さては事前にじーちゃんから情報もらってる?」
「無論。ブラックゲイルのパイロットがお前になることも、その理由もな」
「あぁ、そうですか……」
やはり、姉さんも事前に事情を把握していたみたいだ。たぶん、ロッタのことも聞かされていたんだろう。だから、あそこまで手厚く保護していたんだ。
「ならばここは任せたぞ。私はここからある程度離れたところで、中継地点の役割を受け持つことにしよう」
そう言い残し、姉さんのナイトフェニックスは都心の方に飛び去った。
「はぁ……」
さっきのやりとりを思い返し、ため息をついた。なんか、改めて蚊帳の外だな~って思った。がっかりして気が抜けてくる。
『いい具合にリラックスしたところで、気を引き締めてくれ』
「えっ?」
『来るぞ』
ヴェインの言葉を証明するように、白く輝くウルトラボードは、やがて八本足の蜘蛛に人間の胴体がつっくいた様な姿の化け物に姿を変えていた。四本ある腕の内左右一対が人間の、もう一対はカマキリの鎌のような形状を見せている。頭部は、そのまんまアセイシルのそれだった。全体的にメタリックな外観でなければ、完全に妖怪と間違えられていただろう。
『ウルトラボードの最終防衛システムだ。あの状態になったウルトラボードを、送り主どもはジェノサイダーと呼んでいるようだ』
「ジェノサイダーねぇ」
その名の通り、周囲の生命体を根こそぎ始末するつもりでいるみたいだ。
『来るぞ!』
胸部が左右に開き、そこからガトリング砲が二丁、その銃口をのぞかせる。
「まぁ、生物よかロボット寄りなんだろうけど!」
咄嗟にレバーを引き、ペダルを踏む。ブラックゲイルは僕の思った通りに後退し、ジェノサイダーが発射したガトリング砲を回避してくれた。
「一応聞いとくけど、いくらブラックゲイルでも、あいつの攻撃は受けちゃダメだよな!?」
『当たり前だ! 同じ材質で、しかも向こうのがしっかりしたシステムの元、構築されているんだからな! 腕の差でカバーできる範囲とはいえ、性能は負けていると思え!』
「わかったよ!」
ならば、人間が機械に負けないのだということを、証明して見せようじゃないか!
「つッ!」
手始めに、マテリアムキャノンを装備して、ジェノサイダーに『弾丸』をぶつける。しかし、敵は大鎌を一振りすることで、『弾丸』を切り払う。そして、お返しとばかりにガトリング砲を撃ち返してきた。
ブラックゲイルの踵に当たる部位には、ホバーとジェットが付いている。それにより、スキーを滑るように滑らかな動きで左右に移動し、相手の攻撃を避け続けることが出来た。
そうしている間にも、考える。
「ヴェイン」
『なんだ?』
「こっちの攻撃は、通用すると思う?」
『するに決まっている』
ヴェインは断言した。
『避ける必要のない攻撃は、あのように切り払う必要なんかないだろう?』
「同感!」
戦闘開始直後ということで少し緊張が入ったけど、おかげでほぐれたと思う。
さて、ここからが本番ってところだ!
「じゃ、まずは弾幕を封じるとしますか!」
マテリアムキャノンを構えて、念じる。
相手の動きを止めたい。威力はこの際抑えめでも良い。早過ぎても意味が無いだろう。相手に、防御させることが目的なのだから。そこで、例えば先程のように切り払われたり、あるいは油断してそのまま受け止めた状態で、命中した部位を凍結させる……。
頭に思い浮かべたのは、読んで字の如く、『氷結』。気体の物質化を促す特殊な冷気を凝縮させて放ち、ぶつけた対象を固まらせる特殊な弾丸だ!
「まずは、そこ!」
さっきのように大鎌を動かしやすそうな位置に、『氷結』を撃つ。左側の大鎌で『氷結』を切り裂いたジェノサイダーは、そこで自らのミスを自覚したようだ。左の鎌は振り下ろした状態で凍り付き、そのまま地面に突き刺さった体勢で固定される。ちょうど道路のコンクリートに突き刺さったところで氷が広がってくれたのは、実に運が良い。命中して完全に凍り付くまでに三秒かかるというのは、覚えておいて損は無いだろう。
『止めるな! 続けろ!』
「くっ!」
そうだ、ここで止まっちゃいけない。
続けざまに、今度は胸部のガトリング砲めがけて、『氷結』を発射した。動けない状態だからか、ジェノサイダーは回避も出来ず、素直にこちらの攻撃を受けた。砲身が完全に凍り付き、回転させることが出来なくなった。
「チャンス!」
今度は、『弾丸』を撃つ。これにより、二丁のガトリング砲は破壊されるだけでなく、敵の内部にまでダメージを与えることが出来たはずだ。
『ウゴ、ガガガ……』
突如、ジェノサイダーが壊れたラジオのような声を上げ始める。不自然に体を揺らしたせいか、凍り付いた左の鎌を自ら切断して、上半身を逸らす。そして、元の直立に態勢を立て直したところで、顔面にひびが入り出した。
「なんだ、あれは?」
『気を抜くな! 攻撃かも知れないんだからな!』
メタリックな銀色の顔面が破裂した――と思ったら、その裏には肌色の人間の顔があった。
それは、アセイシルのものだった。
「ウルトラボードって、中身を巨大化させる能力もあるんだ……」
『どうでも良過ぎて気付かなかったな……』
「た、助けてくれ……!」
アセイシルは涙を流しながら、嘆願してきた。
「悪かった……俺の、せいなのだ……おオブブブブブ!」
「ありゃ? 頑丈だなぁ」
マテリアムキャノンはもったいないので専用拳銃でヤツの顔面に穴を空けてやろうと思ったんだけど、跳ね返ってしまった。やっぱり、この世界の地球人の兵器は、宇宙から来た連中にはほとんど意味が無いと思えてしまうな。
「痛いじゃないか! せめて話を聞いてくれ!」
「聞く意味ある?」
これは、ヴェインに対する質問だ。
『まるで無いな』
まぁ、予想通り。
「決まり」
出来るだけ痛ぶってやりたいので、あえて銃で攻撃を続ける。
前言撤回。地球の武器は、相手に嫌がらせをするのにちょうどいい。
「ふゴッ!? や、やめてくれ……鼻に入った……!」
「なるほど。弱点は鼻か」
『自ら急所を明かすなど、つくづく愚かなヤツよ』
「頼む! せめて話を聞いてくれ!!」
なんか必死なので、一応マテリアムキャノンに持ち替える。
「えっ!? なんで!?」
「つまらなかったら吹っ飛ばそうと思ってね」
「……ひとまず、聞いてくれるものと解釈させてもらおう」
ちょっと泣きそうな顔をしているが、
「私は、ロウザ姫を愛していた……だが、親友であるお前から彼女を奪っても、自分の弱さを変えることは出来ず……彼女を守れなかった」
『ん? ロウザは死んだのか?』
「……あぁ。エイムの強襲に、巻き込まれたんだ」
『そうか。残念だったな』
ヴェインの声は、無機質だった。同化している僕だからこそわかることだけど、ヴェインは本当に何とも思っていない。彼の中では、アセイシルやロウザって人との関係は、完全に過去のものになっている。
『それで、お前は何が言いたいんだ? 懺悔ってのは教会でした方が良いんじゃないのか? こちとら神父でも何でもないぞ?』
「ただ、知っていてほしかったんだ。私の本心を」
「ヴェイン、あいつ始末して良いかな? 身勝手な言い分にイライラしてきた」
「な、なんだ貴様は!?」
『俺の並行同位体で、俺をこの世につなぎとめてくれている、一心同体の仲間さ。悪いが、俺でもコイツは止められない。機嫌は損ねない方が身のためだぞ?』
「わ、わかった……どうすればいい?」
あくまで自分の希望を通したいみたいだけど、ちょうどいい。こっちも確認したいことがあった。
「こっちの世界に来た理由を……ロッタに固執するわけを答えろ」
ロウザ姫ってのとねんごろしたっていうヤツが、ロッタを狙う理由がわからない。
「彼女には、力を貸してもらいたかったのだ」
「力って、前にも言ったけど、あのぐーたらが何の役に立つってんだ?」
「き、君にとってはそのような人間なのかも知れないが、彼女は最後の王族なのだ。アトラステア王国の復興に、彼女は欠かせない存在なのだ! 王と王妃もエイムに殺された。後は、彼女に立ってもらう以外に方法は無いのだ! そうでないと国民は認めない!」
なんとなく、引っかかりを覚えた。
『わからんな、アセイシル』
ヴェインも同様だったようだ。
『王族が全て死に絶えれば、後釜を決めることになるはずだ。そこに、お前の名前は無いのか?』
「……私とロウザとの関係は、非公式のものだ。認められるわけなかろう」
『だから、ロッタなのだな?』
「…………」
あぁ、言い切った。
ヴェインは、アセイシルがアトラステア王国の次期国王になるために、ロッタを利用したいと思っているのだと言いたいんだろう。そして、アセイシルは否定しなかった。
きっと、そのために必要なのは、ロッタとの婚姻。
そりゃ、ロッタも嫌がるわけだ。
「はぁ……どこまでも腐ったヤツだな」
「国を助けるためには、必要なのだ! 無論、彼女には手を出さないし――」
「王族が後継ぎを残さないのは問題あるだろうが」
「そ、それは……」
「いい加減にしろ。こんなムカツク話に付き合わされるくらいなら、まだ正直に自分の野望を語った方が男としての株が上がるってもんだよ。ていうか、そもそもなんでお前が王になることが前提なんだよ? そっからしておかしいだろうが!」
悪役としても、成り上がろうとする者としても中途半端だ。
中途半端に首を突っ込むから、他の連中に迷惑をかける。
他の連中がどうなろうが、自分のせいだとは思わなくなる。
自分のせいじゃないとわかったら、そこで思考を停止して、再発防止にまで気を回さない。
もう、生産的な話は出来そうにないな。
「……最後に、もう一つだけ聞かせろ」
一方的に、話題を変える。最後の質問だ。
「ロッタは、お前と自分の姉ちゃんとの関係を、知っていたのか?」
ロッタの、アセイシルへの拒否感はとても強かった。ただ、嫌いなだけなら、あそこまでにはならないと思う。あの嫌悪感の表し方には、絶対に何かしら根拠があるはず。
「……おそらくは、承知していた」
やっぱり。
「夜の庭園で、ロウザと抱き合った時、窓から彼女が私達を見ていた……と思う。見間違いでなければ、あの時私達を見た人物は、ロッタ姫だ」
「そっか……」
ロッタがヴェインに申し訳なさそうにしていた理由が、これでわかった。
きっと、彼女が真相を伝える前に、ヴェインはいなくなってしまったんだろう。
「ヴェイン、もういいかな?」
一応、了解はとっておく。
『あぁ。思いっきりやっちまってくれ』
「ごめんね。あんたの復讐なのに」
『なに、君がここまで怒っているのが意外だったから、かえって冷静になれた』
互いの黒い感情が重なり、マテリアムキャノンに強大な力を注ぎ込む。せっかくだ、出し惜しみ無しでいこう。
出来るだけ、残酷な方法で。
「『回天』……!」
確実に始末するなら『波動』だけど、それだと一瞬だ。せめて、アセイシルには自分のしたことを後悔してもらいながら、ヴェインやロッタ、アトラステア王国の人々に詫び続けながら、死んでもらうことにしよう。
だが、その前にジェノサイダーは瞬時に左腕の鎌を再生した。そして――
自ら、頭部を切断した。
「えっ?」
驚いた表情のまま、アセイシルはそのまま動かなくなり、砕け散った。それに伴い、ジェノサイダーは再びその身を光で包み、アメーバのように体を歪ませていく。
「あっけない最期だったね」
『所詮は道化だからな』
生きている人間であれば、法で裁くのが人道というものなんだろうが、生憎と今は戦争中で、しかもお相手は異世界の人間。しかも、ウルトラボードの一部になった後ときた。ここは、始めからいなかったことにしておいた方が、僕らにとっても政府のみなさんにとっても良い事だろう。
知らぬが仏、とはよく言ったもんだ。
『問題はここからだぞ』
「うん、わかってる」
アセイシルという不純物を排除した影響か、ジェノサイダーはさらなる変貌を遂げていた。
「……ビーバー?」
そう、ビーバー。念のために解説しておくと、カイリだとかウミダヌキという別名をもっている、水中の生活に適応しているげっ歯類のことだ。
無論、三十メートルに近い全長をもつビッグサイズで、かつ毛色がメタリックブルーに輝いているので明らかに地球上の生物ではないとわかりはするものの、先程の化け物のような姿をした後にこんな風になってしまうのだから、さすがに拍子抜けしてしまう。
区別をつける意味でも、目の前のヤツは、『ビージェー』と呼称しよう。ビーバーとジェノサイダーの頭をつなげただけの呼び方だけど、仮称なんてそんなもんだ。
『なるほど、考えたな』
ヴェインの感想は、僕と違って肯定的みたいだ。
「適応したってことなの?」
『そうだ。ビーバーの内側にびっしりと生えた毛には、皮膚に水がしみるのを防ぐ役割があるらしい。そういう性質から、ビーバーの毛は防寒具の材料にされていて、そのせいでビーバーは人間に乱獲されたことだってあるんだ』
「うん」
『もし、機能中枢を担うウルトラボードが、さっきのお前の『氷結』を警戒して耐性をつけたとしたら、どう思う?』
「メンドクサイね、間違いなく」
論より証拠、ということで『氷結』を発射した。弾丸はビージェーに命中したけど、さっきのようにビージェーの身体が凍り付くようなことにはならなかった。
それどころか、振動して熱を発し、全方位に針を発射しだした!
「しま――ぐあッ!」
反応できず、まともに攻撃を受けてしまった。一応、同じ材質ということで貫通したりすることは無かったけど、黒板をひっかいた時に出る嫌な音を何度も聞いた気がした。目視したわけじゃないけど、きっと全身に擦ったような跡が付いているはずだ。装甲の隙間を通ってフレームを折られなかったのは、不幸中の幸いだった。
『この攻撃に加えて、げっ歯類特有のあの出っ歯……元のビーバーの歯にも鉄分が入っていると言われているし、あれも見掛け倒しというわけではないのだろうな』
「そう見るべきだね!」
ビージェーは俊敏に陸と海とを移動し続け、陸に上がるたびに、周囲の建物を破壊しまくり、破片を海に投げていく。それは、次第に大きな壁となっていき、ダムのような形状になっていく。そういえば、ビーバーは持って生まれた本能的な行動でダム作りをすることから、「自分の生活のために周囲の環境を作り替える、ヒト以外の唯一の動物」であるとも言われているんだったな。
ビージェーは、自ら造り上げたダムを、今度は陸上にもつなげていき、円状にしてこちらの退路を塞いだ。その形状は、まるでイタリアのコロッセオのようだ。
「逃がさないって意思表示かね?」
空を飛べるから、意味は無いんだけど。
『それ以上に、こちらを確実にぶっ殺す! っていう確固たる意思表示だと思うがね』
ビージェーは全身から撃ち出した針を、上空にあげる。それが落ちてくる時、重力を乗せた重い一撃になると思われたため横に移動しようとしたけど、囲まれていることに気付く。無論、飛び越えようとしたけど、そこをビージェーが逃がすわけが無かった。まるでスーパーボールのように壁にぶつかっては飛び跳ねる、といった動作を数えきれないくらい繰り返し、すれ違い様にこちらを前足のかぎ爪で切り裂いていく。
さすがに頑丈ではあるものの、これ以上攻撃を受け続けては、いくらブラックゲイルでも、いずれはスクラップにされてしまう。
『来るぞ!』
ビージェーがリングから飛び出た直後、上空の針が僕達を襲う。『斥力』で機体を飛ばそうにも、セッティングが間に合わない!
(南無三!)
心の中でそう唱えた時、目の前が赤く染まった。
「大丈夫、蒼次郎!?」
少しして、視界が元通りの光景を映し出す。空を見上げると、薄暗い曇天が広がっており、その中に小さな赤いカーマ――ナイトフェニックスを見つけた。
「肩に02……
「うん、間に合って良かったわ!」
聞き慣れた、凛とした声の持ち主は、間違いなく瑠華だった。
「無事ですか、蒼次郎!? ヴェインも!」
「あれ? なんでロッタもいるの?」
「なぜだか、いても経ってもいられなかったのよね」
「彼女のマテリアムが必要になる可能性も考慮して、一応同行してもらったわ」
「そっか……ま、間一髪で助かったけどね」
機体サイズ以外では、ブラックゲイルの機体性能は、全てにおいてマテリアムヴェインを凌いでいる。パーツの欠損を始めとしたアクシデントが無い限り、乗り換えるメリットは思いつかなかった。
『いや、これは好機だ!』
「ヴェイン?」
『蒼次郎! 私をロッタ姫の所に送り届けてくれ!』
「えっ? どうやって?」
『投げれば良い!』
「投げるって――あぁ、そういうことか!」
僕の左目が義眼だから、そこにヴェインが宿れば、あまり遠くに離れなければ、彼が消えることはないってわけだ。
『だから、ロッタ姫に届ければ、私の魂を媒体に、彼女のマテリアムも使用できる! ここは、我らのコンビネーションを見せてやろう!』
「よぉし……ならば!」
僕は機体胸部のハッチを開けて、随伴するナイトフェニックスを見上げる。
『ロッタ姫、聞こえますな!?』
「ヴェイン? ……はい、聞こえます!」
『今より、蒼次郎があなたに義眼を投げます! それが私です!』
「は、はい!」
全面的に信頼している男の言うことなので、ロッタは二つ返事で了承した。
しかし、問題は姿勢制御、そして風圧だ。ゆらゆら動く相手に正確に投げるだけでも難しいのに、空の上ということで、地上より風が強い。義眼なんて軽すぎるから、簡単に吹き飛ばされてしまう。
「蒼次郎!」
瑠華が僕をまっすぐ見る。目で、「あなたに任せる」という意思が伝わってきた。
ならば、僕が考え得る確実な方法を取らせてもらおう。
「落とした方が早いよ」
「えっ――」
僕はブラックゲイルをナイトフェニックスに隣接させ、相手をひっくり返す。コクピットが開いた。操縦席のシートベルトに固定された瑠華は何ともないが、何にも掴まっていなかったロッタは、開かれたハッチから機体の外に転がり落ちた。
「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
悲鳴を上げて落ちるロッタ。ここから、やたらスロー再生のように時が経つのが遅く感じられた。
「これでOK!」
『接近できれば、こちらのものだ!』
僕はヴェインの宿る義眼を左目から取り出し、落ちるロッタに投げつけた。それと同時に、身の回りで感じていたヴェインの気配も消える。
『よし! いくぞ!』
落ちるロッタの周りに、赤い光が飛び回り、彼女の身体を飲み込む。
ロッタと光が一体化し、真紅の巨人が現れた。
ロッタのマテリアム――マテリアムヴェイン、本来の姿だ。見た目に違いは無いけれど、本来の媒体を得たことで、明らかにパワーが上がっている。
『では、蒼次郎……我らで終わらせよう!』
「はいよ!」
もう、考えるのも馬鹿らしい。わかっているのは、目の前にいる青い毛むくじゃらを始末しなければ、死ぬということぐらいだ。
なら、そうすれば良いだけだ。
『蒼次郎……後で覚えてなさいよ……!』
ぼんくら女の恨み節は、とりあえず無視した。
後で詫びはするから、今は協力してくださいな。
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