第 5 話 鹿児島県鹿屋基地
四月になった。1945年4月4日、343空は鹿児島県鹿屋基地に移る。主な任務は
「これが特攻隊か……」
「やっぱり何か変、おかしいよ」
洋子はまたつぶやいた。
特攻に飛び立ったと言っても、必ず帰ってこないという訳ではない。敵機動部隊を発見できなければ引き返してくることになる。この日は昼過ぎに飛び立った特攻機と直掩機が一緒に帰って来た。敵機動部隊を発見できなかったのだ。
「よかった」
洋子は機影を見て思わず手を合わせた。
「ダメだ。敵さんも隠れるのが
護衛をしていた紫電改から降りてきた
「曇りの日に見つけるのは難しい。明日は晴れの様だ。明日は見つけられるだろう」
「ああ、明日は大丈夫だろ」
杉本も応ずる。
だが、側でこの会話を聞いていた洋子がたまりかねて叫んだ。
「あなたたち、何が大丈夫よ。人が死ぬのよ。平気なの。どうにかしてるよあなたたち。日本は負けるのよ。原爆落されて負けるのよ。杉本さんだって分かってるんでしょう」
杉本は思わず洋子の口を手でふさいだ。そして、
「何も言うな。俺だって分かっているさ。しかし、これが歴史なんだ。どうしようもないんだよ」
その日の夜、洋子、杉本、嶋田の三人は基地の近くの砂浜に来ていた。嶋田が洋子の発した言葉を嶋田は聞き逃していなかった。ちゃんと説明しろと言ってきたのだ。
四月と言っても夜になると海岸沿いは冷え込む。打ち寄せる太平洋の波が月の光を刻んでキラキラと照らす。三人の薄い影が砂浜に伸びて重なる。
「日本は負けるのか。お前の行ったとかいう2015年の世界じゃ、日本は負けたことになってるのか?」
嶋田は杉本に尋ねた。昼間の興奮から覚め意外に落ち着いている。
「そうよ、負けるのよ。もう……」
杉本は言いかけた洋子を制して話し始めた。
「俺も最初は信じられなかったさ。だが、あれは夢でも幻でもない。本当の世界だ。日本は8月6日に広島、8月9日に長崎に原子爆弾を落とされ、8月15日に無条件降伏するんだ。俺は入院中に病院から抜け出して図書館で調べたんだ」
「無条件降伏?」
「そうだ」
「そんなこと絶対あらへん。貴様の見たのは幻や。悪い夢や。俺は信じんぞ、そんな事」
「信じろ。本当だ」
「信じられるか。大日本帝国が負ける訳ないやろ」
嶋田は、杉本を突き倒すと、月夜に白く浮かび上がる砂浜を一人駆けて行った。
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