第 2 話 スマホ
杉本は隊長室に連れて行かれ、直属の隊の隊長、
「自分が不時着した場所は確かにこの基地のある場所でした。ですが…」
「ですが、何だ?」
「ですが、時代が違いました。平成27年、西暦ですと2015年でした。この基地は民間飛行場になってました」
「うーーん」
杉本の話によると、3月19日の松山沖大迎撃戦において、グラマンに後方に着かれ被弾。操縦席を貫通した弾丸が肺に刺さり出血、そこにもう一機のグラマンに尾翼を撃たれ操縦困難になる。高度が失われ諦めかけていたところ紫色した発光体に機全体が覆われ発光体が消えた時、滑走路が目の前に現れそこに着陸した。
意識を失って、それからどうなったか分からないが、気が付いた時は病院のベッドに寝かされていた。目が慣れてくると見たこともない器具に取り囲まれ、身体には多数のチューブや電線のようなものが巻きつけられている。何日かして歩けるようになる。途中から一人の女学生が献身的に介護をしてくれた。美術館にも連れて行ってくれた。病院の外は見たこともない景色だったが、松山城だけはそのままだった。
時々見舞いに来てくれる老夫婦と老紳士の三人がいた。
その後、三人に松山空港まで連れて行かれ、そこから飛び立つと、また紫色の発光体に覆われ、気が付くと343空の松山基地が見えて来たという話だ。女学生は、どうしても連れて行けと言うので、操縦席の後ろの隙間に入れて連れて来たと言う。
女学生も
「松山南高校? 松山には女子が通う高等学校があるのか? 聞いたことがない」
「昔は、県立松山高等女学校という校名だったそうです。戦争が終わってから松山南高校になったって聞きました」
「うーん、とりあえず
持ち物も検査した。リュックの中から出て来たのは、数学の教科書、日本史の教科書、物理の教科書、英語の教科書、音楽の楽譜等々である。また、財布から出て来た紙幣は初めて見るものばかりで野口英世の千円札まであった。
「お嬢さんは大金持ちか?」
鴛淵大尉は千円札を手に取り表裏を確かめながら苦笑する。
「何だこれは?」
鴛淵大尉は四角い紙に包まれた物を手にした。
「それは、あのー、生理の時に使う物で……、つまり、月のものが来た時に必要な物です。返してください」
「あっ、それは失礼」
鴛淵大尉はあわてて洋子に手渡した。
「じゃあ、これは何だ?」
スマートホンを手にしている。
「これはかなり怪しいな。説明しなさい」
「スマホです。正確にはスマートホンと言いまして基本的には電話です。他に色々機能付いてますけど…」
「電話だと?」
「はい」
「どうやってかけるんだ?」
「この時代ではかからないと思います」
「かからない電話が電話と言えるか」
「確かにそれは言えてる」
洋子はくすくすと笑った。
「馬鹿もん。お前は取り調べを受けているんだぞ。もう少し、
「はーーい」
鴛淵はやる気をなくしてきた。
「他の機能というが、どんな機能だ?」
「あのー、側に行ってもいいですか?」
鴛淵大尉が返事をする間もなく、洋子は鴛淵大尉の側に来た。若い女の吐く息が頬にかかる。妙な気分になる。大尉と言ってもまだ25歳の若者なのだ。
細く白い指が画面を触ると画面が突然光を放った。
「うわ!」
鴛淵大尉は驚いて立ち上がった。
「大丈夫ですよ。爆発したりしませんから」
細い指が動くたびに次々と画面が変わってゆく。動画も見せた。
「何じゃこりゃ!」
鴛淵大尉は、思わず画面に見入った。
「保存しておいた動画です」
「………」
「大尉、その辺を歩いてみてください」
「ああ」
鴛淵大尉は言われるがまま部屋の中を行き来した。すっかり洋子のペースにはまっている。洋子はスマホをかざしてその様子を撮った。
「これ見てください」
鴛淵大尉はスマホの画面を覗き込んだ。
「何じゃこりゃ、俺じゃないか!」
二人の話の辻褄は合っていることは確かだ。鴛淵は二人の供述を源田司令に報告した。嘘をついている様子も見られない事も付け加えておいた。
整備兵の報告では、損傷を受けたであろう部分を含め、すべて完全に整備済みになっているとのこと。部分的には、新たにわざわざ造ったような
「何で三日前に被弾して行方不明になった紫電改が完全に整備されて帰って来るんだ。肺の傷が何で三日で治っているんだ。
司令官の源田は語気を荒げた。
「ですから、2015年に行って戻って来たという事さえ本当なら、辻褄はすべて合うんです」
鴛淵大尉は困った顔をして答えた。
「わしは分からん、困った」
「私も困り果てております」
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