[3] 管理課
それにしても勉強不足を恥じる。少しぐらい調べて来ればよかった。吉崎くんの話を聞いてれば聞いてるほど迷宮に関する疑問が次から次へと湧いてくる。吉崎くんは中のことには詳しくなかったが、行政が迷宮をどう扱ってるかについては丁寧に教えてくれた。
ざっくり以下の通り。
迷宮とひとくちにいってもいろいろある。その内部の構造がどうなってるのかは入ってみないとわからない。中はおおよそ平面が重なった形をしている。地上を1階として、入り口からすぐのところを地下1階、そこから地下2階、3階と下がっていく。たまに綺麗な階層構造を作らないものもあるが作っているものが大半。
浅いもので地下1階で終わる迷宮もあれば、深いもので地下100階でもまだ先がつづいている迷宮もあるという。なぜそこで迷宮が終わっているとわかるのか。迷宮の最深部には迷宮核というオブジェクトがあるからだ。直径1Mの青い光を放つ球体で見逃すようなものではないらしい。
迷宮はその迷宮核を破壊することによって消失する。行政は基本的に迷宮核を発見した場合、それを破壊することを推奨している。迷宮を放置していれば魔物が外部にさまよい出てくる危険性があるからその処置は妥当であると考えられる。
けれどもこれは実は意見の分かれるところがあって、大規模な迷宮については積極的に迷宮核を破壊しなくていいのではないかという考え方をする人もいる。十分に注意して運用すればなんらかの資源として活用できる可能性があるということらしい。
なんにしろぽこぽこ生まれてくるような小さな迷宮は積極的につぶせという点に関しては概ね合意がとれている。またそうした小さな迷宮については核破壊の報告がなくとも勝手に消失していることがあって、未報告なだけなのかそれとも自然に消えることもあるのかそのあたりは不明だという。
管理課では迷宮をおおよそ3つに分類している。大規模迷宮、中規模迷宮、小規模迷宮の3つだ。具体的な基準は定められているが、おおざっぱに言ってしまえば発見後1年以内に消失した、しそうなものは小規模、30階以上が確認されたものは大規模、その間が中規模みたいな感じになる。
宮原大迷宮はもちろん大規模迷宮で吉崎くんから話を聞いた時点で地下62階まで確認されていた(これを書いている時点では65階まで到達、核は未発見)。市唯一の大規模迷宮で管理課でも宮原大迷宮に関する仕事がほとんどを占めている。ほかの迷宮に関する仕事はおまけみたいなものだ。
中規模迷宮は市内に7つ確認されている。吉崎くんは管理課に配属されて3年だそうで、その間に1つが消失して、2つが新たに認定された。時期によって違いはあっても5~10個ぐらいというのは変わらない。調査の進行によっては大規模迷宮に格上げされそうなものはあるがそのような事例はまだないらしい。
最後に小規模迷宮について。市役所ではその正確なところを把握できていないのが実状のようだ。なにしろ小規模迷宮はすぐ生まれてはすぐ消える。レアなケースだが自宅の裏庭に小規模迷宮ができていた、なんてこともあったそうだ。
管理課にはわりと私有地に小規模迷宮ができてどうすればいいか困るという相談も持ち込まれる。といっても管理課では実際に迷宮に立ち入られないのでできることは少ない。書類を書いてもらって一応登録した上で対処は他所にまかせているという。
一応50の小規模迷宮を管理課では確認しているが、吉崎くんの感覚では市内に100以上は存在しているはずだという。だれにも知られず生まれてそのままだれにも知られず消えていく迷宮がある可能性もあって、そうなってくるともうわけがわからない。
ちなみに迷宮の跡地について、何かそこに迷宮があったというような痕跡は特に残らない。例えば穴があって迷宮があったときはそれに入れば広い空間に通じていたが、迷宮がなくなった後では本当にただの穴で狭くて中に入ることすらできなくなっている。
酒が入っていることもあって話しているうちに頭がだいぶ混乱していったのだけれど、一方で固まっていった思いもあってそれは自分も迷宮に入ってみたいということだった。けれども管理課の吉崎くんでも入っていないのに、俺なんかが入れるものなんだろうか。わからないので正直に聞いてみた。
「迷宮に入りたいんだけどどうすればいい?」
「うーん、入るなら大規模の浅いところがいいと思います。宮原ならある程度の地図もできてますから。あとは調査なり探索なり理由がしっかりしているなら許可はでるんじゃないですかね。そっちは警察署の管轄なんではっきり言えないですが」
途中途中で考えながら吉崎くんがしっかり教えてくれる。やはり許可がいるのか。まあ逆を言えば、許可があれば誰でも入れるということでもある。ますます入りたくなってきた。
吉崎くんが明日も仕事だというので飲み会は早めに切り上げ。別れ際に「僕より迷宮のことに詳しくて、実際に潜ったこともある人知ってるんで紹介しましょうか」と言われた。
適当に知り合いをたぐったところから上手いこと縁がつながっていく。その場で吉崎くんの名刺の裏にその人の名前と連絡先を書いてもらった。非常にありがたい。
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