第29話 早熟作家の光と影
「芥川賞最年少を期待された10代作家は今まで実際に6人いる。実際に受賞できたのは綿矢りささんだけだ。新倉蒼もいたけど今や幻になった」
その受賞できなかった10代作家の中に自殺した人もいたって言っていたか。
「特に壮絶な死に方をした、芥川賞最年少落選作家がいる。それは久坂葉子。彼女は18歳で同人誌に発表した作品で芥川賞最年少候補となり、落選、その後、21歳で列車に飛び込み、轢死している」
私は開いた口が塞がらなかった。まるで、私じゃないか。私は私の幻影を見上げた気がした。何のために書いていたのだろう。わずか、21歳で自ら命を絶って、何も残せなくて、何が芥川賞最年少候補だったのだろう。
「ほかにも酷評されて、人生が狂った人も多くいた。年齢だけで選ぶな、と友里ちゃんのように言われて必要以上に叩かれて傷ついた芥川賞最年少候補もいっぱいいたわけだ」
もし、綿矢りささんも、その葉子さんのような道を歩んだかもしれない……と思うと嫉妬だけじゃない、苦しみが生まれた。水澤麻鈴さんのように追い込まれて、自ら命を絶つなんて、自分事のようにぞっとする。
「それを言うなら、三島由紀夫だってあんな死に方をしたじゃないか」
そうだった。私が掴んでも、掴んでも追い付けられない、光の速度のように文才を光らせた三島由紀夫も壮絶な自死をした。そうか。
「もし、万年一次落ちだったとしても生きていれば、どうなるか、誰にも分からないのに死んだらそこで人生ゲームは強制終了だ」
残酷な現実、という新書が流行ったが、あの本の内容よりも残酷な現実は、自ら命を経ってしまったその早熟作家だったかもしれない。苦労人の芸人さんが50歳という遅咲きでM1グランプリに優勝した、というニュースを知ったとき、私は水澤麻鈴さんの事を思い出した。私がどちらかの人生を選んだとしたら、迷わず、50歳で優勝した芸人さんを選ぶだろう。別に水澤麻鈴さんが嫌いと言うわけじゃなくて、死にたくない私もいるんだ。
「古い例では19歳でデビューした『島田洋次郎』という作家もいる。19歳で『地上』が文芸誌に掲載され、一躍時の人となった島田は、その後、周りを小馬鹿に行動する、傲慢な作家になり、文壇から嫌われ、29歳の若さで、精神科病棟で自死に近い、死に方をする。ほかにも『二十歳のエチュード』を書いた原口統三は19歳の東大生で、『日本のランボー』と呼ばれたが、彼もまた自死してしまう」
……多いな、若くてデビューできて、私みたいに失墜よりも可哀想な目に遭った人たちが。と言うより、10代や二十歳前後でデビューしたら、ろくでもない風に人生の羅針盤が傾いてしまうのかな。恐ろしい……。
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