第28話 盗作疑惑……。

 だって、新倉蒼の『盗作疑惑』も週刊誌が報道したのだから。芥川直木賞の膝元である週刊誌が親玉である、文学賞に噛みつくのは相当、勇気がいっただろうに、下手をすると仕事を解雇されるかもしれないのに、その記者さんは命を懸けて抗議したのだ。私は救われたんだ。

 週刊誌の中ではタブーがあるという。それは芥川直木賞作家などの『作家タブー』である。作家がどんなに不祥事を起こしても、週刊誌は報道しないのが決まりらしく、(だって、同じ会社内だから)今までも盗作疑惑で揺れた純文学作家たちを震撼させず、虱つぶしに蓋をした。

「昔ね、文学界新人賞の最年少少女作家に『木原双葉』という作家がいたんだ。1994年、彼女は『ゆるり』で17歳、名門女子高校在学中に華々しくデビューし、最年少作家の名を恣にした。しかし、200×年の文芸誌で発表した作品の内容が、とある漫画の内容と酷似し、盗作と判断され、彼女は消えた」

 その作家タブーも盗作に対しては容赦なかった。

「ほかにも水澤麻鈴という文学界新人賞作家がいたのだが、彼女は昭和5×年、当時最年少デビューした18歳の少女だった。女子大学作家として何度も芥川賞最年少受賞を期待された彼女」

 水澤さんの小説はブックオフで買ったことがある。何か、好きだったんだよね。彼女の透明感のある文体に。

「しかし、デビュー作の『湖畔の虹』はとある漫画の内容に酷似していたらしい、と疑われた。僕はそうは思わないけど、疑いをかけられた彼女は結局、盗作認定はされなかったのだが、その後、何度も芥川賞にノミネートされても、その余波が響いて、憎まれ口をたたかれたように落選続きだった。彼女は30歳のとき、自死してしまうんだ」

 自死してしまった彼女に、同じように死にたがって、自殺未遂をした私が畏れ多くもシンパシーを覚えたんだ。

「アルコール依存症でかなり追い込まれていたらしい。このように10代作家に本当に盗作だったり、その後、自死という名の夭折を余儀なくされたり、……惨いだろう?」

 惨い。死んでしまうなんて惨い。

「水澤麻鈴も木原双葉も本当は、文学が好きな少女だったかもしれないのに、重圧に負けて、盗作の禁断の果実を噛んでしまったり、自ら命を絶ったり、そしてね、10代で芥川賞最年少ノミネートされた人の中には自殺者が3人もいるんだよ。これは何を意味すると思う?」

 自死。私もその禁断の果実を噛んだことはある。もちろん、苦すぎてすぐに吐き出した。だから、生き延びたのだ。

「直木賞作家で最年少の『堤千代』は年齢の詐称が今でも疑われ、実質的な最年少作家じゃないと後世には作品の有無より、それで片付けられてしまったんだ。誰かが彼女の作品を面白いと思ってくれた人がいたかもしれないのに。悲しいよね。彼女が書いた『小指』も今となっては入手できない」

「青空文庫では読めるよ。たぶん」

 私はスマートフォンでタップする。

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