第22話 サガン 悲しみよ、こんにちわ

「ミツル君の指摘は物書きにとっては光栄極まる感想だ」

 ミツルはえへん、とさらに持論を展開する。

「サガンは『世代よりも私はその人自身の人生に興味がある』と名言を残している」

 サガンとは早熟少女作家の元祖ではあるまいか。十八歳で『悲しみよ、こんにちは』を執筆し、世界中でベストセラー作品となり、異次元の足跡を残した人が。

「まあ、サガンは『悲しみよ、こんにちは』で三百八十六億円ものの印税を修得し、大金のせいで人生観が変わってしまって、その後は波乱万丈な人生を送ったみたいだけど」

 そんな大金の印税、もらったなんて! もはや、国家予算並みの印税である。

「悲喜交々のサガンの言う名言なんだから説得力があるだろう?」

 確かにそうだ。サガンのように印税を獲得し、その後、波乱万丈に満ちた人生を送って、人生の大半をある意味、失ってしまった天才の言葉には妙な? 説得力がある。

「2ちゃんねるや5ちゃんねるなどの創作掲示板をなぜか、よく見ちゃうんだよね。売れない、通過できない、受賞できない、成功できない、自分に才能がない、その『ない』のオンパレードが続くとしんどくなると、なぜか、いつの間にか、開いている」

 浩二さんは苦笑ではない、ほっとするような笑みを続けた。

「僕も書き込みはしなかったけど、同じように妬みや羨ましさ、不甲斐なさを抱えて生きてきたからその鬱屈とした胸中は痛いほど分かるんだよね。その嫉妬にも結ばない、不安感を目の当たりにして、自分は所詮、レベルが低くて、存在価値もなくて、才能さえも見捨てられて、ゴミなんだって、思う僕が闇夜でひたすらに愚痴っていた。闇の中でネット掲示板やSNSなどのアマチュアの嘆きを見ると、プロの書き手には絶対にない、安心感があった」

 浩二さんの感想は痛いほどよくわかった。

「僕も一時的にそう、傲慢に近かったけど。自分という存在はただの一抹の書き手であって、たまたま物書きで食える幸運があっただけかもしれないのに、一部の人たちの中には、アマチュアの物書きや小説すら書かないのに読むのが好きな文学愛好家を虚仮にして、『新人賞に三回落選したら才能がない』とか、『ネット小説はレベルが低い』とか、悲しいことを言っていた。それにアマチュアの頃は腹が立っていたのに『月虹のアイリス』が大ヒットすると、僕も同じように思っていた」

 贋作と烙印を押されてしまって、最年少作家となった浩二さんは揺るぎなかった。

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