第19話 一次落ち
「そうだよ。あの作品は僕が四十歳のときに書いた小説だ。敬想新人文学賞や三林文学賞、星火文藝賞、島尾敏雄賞、……ああ、出した文学賞も忘れたくらい、取り合えず、五大文学賞にはほぼ応募したんだ。どれも一次落ちだった」
まさか? あの『月虹のアイリス』が? どういう意味なの? ええ? 私は一言一句同じ台詞を吐いてしまっている。
「冗談でしょう?」
私の本音に浩二さんは意に介さなかった。
「万年一次落ちだった僕は大して驚かなかったけど、やっぱり骨身に応えたよ。二十五年間、文学賞に投稿し続けて、ついには日の目を見なかった。もう、僕には才能がないと諦めて、甥の蒼が興味を持ってくれたからデータを上げたんだ。そうしたら、蒼が蒼の名前で新人賞に投稿したら当選したみたいで、僕はかなり驚いたよ」
嘘だろう。某文芸漫画にも同じような下りがあったけど、実際にそんな珍事ってある? 文学賞ってやっぱり、年齢なの? その疑問符が浮かんだ同時に私はミツルの辛口な指摘を思い出した。私の受賞も最年少作家だから価値があっただけだったのだ、と。
「敬想新人文学賞に僕が送った『月虹のアイリス』は一次落ちだった。何の音沙汰もなかった。当たり前だと思った。四十歳のおっさんが書いた少年小説なんて誰も読みやしない。当たり前だと思った」
浩二さんの名前で投稿したら一次落ちで、十四歳の新倉蒼の名前で投稿したら初投稿で初受賞。どういう意味?
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