第15話 平泉自害

 義経だって、最後は平泉で自害するんだ。春の夜の夢のような栄華、こんなにも儚い人生だったとは、と赤間神宮にお祈りすると、さらに実感が湧く。赤間神宮で参拝すると、平家方の墓石も参拝した。あまりにも小さい。あんなにもこの世の春と言わんばかりに栄華を極めた一門の末路は、こんな小さな墓標に葬られることだったのだ。

「小さいお墓だよね」

 ミツルがボソッと私の耳元で言った。

「僕のおじいちゃんのお墓より小さい」

 ミツルのおじいちゃんと比べても小さな墓所で葬られた平家一門。悪あがきにしかならない、負け組の弱音にもならない、ミツルの指摘。

「まるで、友里ちゃんみたい。平家に非ずんば人に非ず、だ。奢り高ぶって勘違いして、万能の神にでもなったような夢見心地になって。本当、儚いよね」

 ミツルの毒舌は的を射ている。私は不快には思わない。毒舌を呟くミツルは今でもこうやって、連れ添ってくれるし、何より、それが真実だからだ。

「新倉蒼のこと、進展があるんだって」

 私は平家一門の墓石に手を合わせながら言った。

「新倉蒼が来週、記者会見するんだよ。帝国ホテルで」

 私は来週までに合田さんに会いに行かないといけない。この千載一遇のチャンスを逃すまい、と私はお釈迦様が垂らした蜘蛛の糸にしがみ付こうとする。

「どうなるんだろうね。天才少年作家がついには撃沈か」

 天才少年作家。その異名も今では滑稽な紛い物に聞こえる。誰もが一度は天才だと思いたいんだ。仮にデビューできても、自分が天才だ、と人は思いたいし、選ばれし者、神に愛された神童だ、と物書きならば、一度くらい甘い言葉が囁かれた夜はあるだろう。平凡だった私が奇才で、ケチが付けようがないダイヤモンドの原石で、磨けば磨くほど、燦然と輝き、その眩いまでの栄光は何億光年先まで見えるんだ、と凡愚らしい、達成感を欲しいていた。

 新倉蒼は何故、叔父さんの書いた小説を勝手に投稿し、最年少作家となりたがったのだろうか。真相は闇のままで、記者会見で明らかになる。あの美麗な比喩を駆使して執筆した叔父さんこと、新倉浩二さんはあんな筆力を持ち合わせながら、なぜ、プロの作家として成就出来なかったのか、謎は深まるばかりだ。

「寄りたいところがあるんだ。神戸に」

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