第13話 神に背いた少年
ようやくバス停まで着いたら、発車時刻が何とあと一時間もあった。ミツルの誤算らしい。「ええっと、ごめん、十二時二四分の便だったあー」
ミツルが猫撫で声で、自分の過失をごまかしていたので小さく腹が立った。山の端には春霞みがかかっている。ちょうど心地よい気温でこれからスタートする新生活のプロローグに相応しい天気だった。まあ、負け犬の私たち、お気楽、春先くらいはわくわくした面持ちで迎えたい。
スマートフォンを確認。最近の私の日課は『新倉蒼・盗作疑惑』について思考は占められている。中には新倉蒼を擁護し、叔父の新倉浩二を罵倒する、怪しげなネットユーザーも現れた。揉めまくった文壇、ネット界隈は四六時中、この盗作疑惑について激論を交わし、ネットニュースからこの手の話題がない日はない。
十四歳で華々しく文壇にデビューした新倉蒼は、十五歳になるとその美貌を生かして、俳優としても活動するようになる。実際、新倉蒼少年は美少年、という呼称に相応しかった。垂れ目の奥二重に憂いのある少しこけた白い頬、蒼白なまでに悲愁とマッチした赤い唇、控えめな鼻梁にふんだんにあしらわれた長い睫毛、そして、漆黒なまでに麗しい黒髪、まるで、美少年漫画から登場したような美貌の貴公子のような持ち主だった。
彼の初主演映画となる、自作の『月虹のアイリス』はその年の大ヒットとなり、主演した新倉蒼自身も演技力は微妙だったにも関わらず、日本アカデミー賞を破竹の勢いでめでたく受賞する。少女雑誌からアラサー雑誌、マダム雑誌まで彼の偉才ぶりとその美貌に虜になっていた。
今でも美少年の彼にはコアなファンがまだ、燻ぶっており、この盗作疑惑について噛みついている妙齢の女性ユーザーも多く、アンチに対して、満月に向かって吠える狼のように咆哮するサイトも多かった。
凋落した元・天才少女作家の私だって、新倉蒼の美貌には惚れまくっていた。こんな美少年がいるなんて、しかも、こんな天使のような早熟な文章を書くなんて……、と痺れまくっていた私。今でも自分自身の人生にしがみ付くように彼が本物の文豪だ、と確信している私も混在していた。
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