第11話 三島由紀夫、早熟

 部屋は期待したよりも狭かった。改築して無理やり入れ込んだ部屋のだろう、いびつで変な設計になっていた。ミツルが電気を点けると、何やら如何わしい内容の本やどこで買ったのか是非とも知りたい、魔法のグッズが見えてきた。

 聞いたこともないような出版社の本が小さな平然と本棚に並んでいる。『ペニスの歴史』や『処刑器具と西洋文化誌』や『オカルトとノストラダムス』など。これを一瞥しただけでも、ミツルの怪異な趣味が判別できる。『悪徳の栄え』や『目玉の話』、それと『地獄の季節』などなど。

 タイトルだけで中二病が炸裂しそう。それらの怪奇本は一冊が三千円以上はしそうでアカデミックな装丁が施されていた。その中に『ウギャナの歴史』という艶本。何だ、こいつは、デリカシーの欠片の一つもないのか、全く冗談じゃないぞ。なるほど、ミツルはこの艶本を熟読して真夜中の秘事をゴソゴソと決行しているのだ。何とも居たたまれない気持ちになる。

「今日は久しぶりに敬想社の合田さんに会いに行くため、東京へ行くの。合田さん、編集長になったんだって」

「そうか、あの合田さんに会いに行くんだ。あの新倉蒼の盗作疑惑で落ち目にならなかったのか」

 よくぞ聞いてくれた友里ちゃんと言わんばかりにミツルはぴんぴんとはねている髪の毛を手で直して、緩みかけた口を一回閉じた。合田さんもあの一件で相当叩かれていたし、身辺が気になってしょうがない。

「三島由紀夫は十三歳のときに初めて書いた小説『酸模』があまりにも早熟、と後の世の物書きまでも震撼させた。現在、『酸模』は新潮文庫でも読める。これが十三歳と小説、しかも、初めて書いた小説とは思えぬ早熟さで、始めた読んだ二十歳の僕は、友里ちゃんが最年少作家だった偉業なんて霞む、とあっさりと思えたよ。よくぞまあ、自分が天才なんて百枚原稿用紙を埋めただけで、甚だしい勘違いをしたものだ」

 

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