第7話 天才肌

 すごい、ライターさんの怒りや失望が行間から猛り立つ、ドラゴンの火炎のように満ち溢れている。私も『月虹のアイリス』や『花の下臥、残花少年』を文芸誌の掲載時から大急ぎで買って、何度も読んだ。単行本も文庫本も何度も読んだし、朗読だってした。写経だってした。何度読んだことだろう。これが十四歳の少年が書いたものか、と何度も目を疑った。嫉妬も覚え、自分が新倉蒼だったらという平凡な妄想もした。

 三島由紀夫以来の天才、神武此の方の神童、世界文学を席巻する、日本版ラディゲの天才少年、アルチュール・ランボーも地獄で驚く鬼才、と言った、天才肌を表す、きらびやかな文言に日本中が釘付けになった。

 そうだ、第三作の『盗人たち』を読むまでは。それにしても、この『盗人たち』はあまりにも酷い内容だった。障害者へのヘイトクライムを実行する少年事件の話。



 ひたすらに障害者への偏見と差別を助長し、しまいには目を覆うようなヘイト表現に一貫している。

 彼の作品の筆致の惨すぎるほどの変貌。

 実は、この『盗人たち』は新倉少年の初めて書いた自作だったのだ。世間がさらに驚愕したのは『月虹のアイリス』や『花の下臥、残花少年』は彼の叔父による作品だったという点だった。脳裏に『十四歳の少年が四十一歳のおっさんに変わった』とあっとスポーツ新聞の見出しを私は不意打ちのように思い出した。

 この文学的スキャンダルニュース、去年の十月に報道されたのにまだ、引っ張っているんだ。今は三月なのに。そりゃあ、当たり前だ。天下の芥川賞の最年少受賞者がゴーストライターによる作品だったんだから。世紀のスキャンダルに決まっているじゃないか。

 新倉蒼がその後、どうなったのか、元天才少年作家の転落劇を私のような、有象無象、海千山千、三々五々のネット民は酷く渇望していた。

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