第6話 偽りの祈り

 ネットニュースの一覧表に一際、神々しく奇怪に光っていたタイトルは、誰もがタップすればタップしたくなる見出しに私も迂闊なネット民同様、タップした。



 去年の令和×年に史上最年少、十六歳で芥川賞を受賞した新倉蒼は受賞後、とんでもないスキャンダルに見舞われ、ネット民から火だるまにされ、見事に失墜した。

 新倉蒼のデビュー作、『月虹のアイリス』に盗作疑惑が発生したのだ。そもそも、この作品は当時十四歳で書いたとは思えぬ、高水準の語彙力や滑らかな比喩表現、巧みな言語感覚に審査委員は圧倒され、『これが本当に十四歳の少年が執筆したのか?』ととある審査員は後に弁明している。

 十四歳の少年とは思えぬ筆力にデビュー作は新人作品ながら、五十万部を超え、その年の三島由紀夫賞の最年少作家となった。快挙はまだまだ続き、芥川賞受賞作となった『花の下臥、残花少年』は芥川賞史上、最高部数の三百万部の売り上げとなった。

 彗星の如く現れた、新倉少年に疑惑が向けられたのは、芥川賞第一作の『敬想』に掲載された『盗人たち』の前作とはあまりにも豹変した作品からだった。前作の二作からの独特の比喩は哀切な言語感覚は消え、十八歳で書いたという、この『盗人たち』は差別表現や障害者に対する侮辱で溢れ、掲載当時から障害者団体や人権団体から多数の抗議を受けた。

 たちまち、社会問題になった新倉少年は謂われもないクレームがあったと憤慨し、逆に障害者団体に抗議し、しまいには訴訟し、さらに報道は過熱した。

 しかし、とある文芸評論家があまりにも文体のズレに違和感を覚え、密かに我が週刊誌記者と共に調査したのち、『月虹のアイリス』と『花の下臥、残花少年』が新倉の作品が新倉の叔父、新倉浩二氏によるものだと判明した。



 盗作どころか、大人のゴーストライターによる、芥川賞最年少受賞だったのだ!



 

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