第5話 ネットニュース

 毒舌家、久本ミツルは私の幼馴染。で、性別は男。動物学上ではホモサピエンスの男性でしかも、厄介なオタクという人種でもある。

 ミツルは史上最強の歴史マニアで、家には司馬遼太郎の全集が揃っているらしく、誰が流した分からない噂によれば、小学四年生ですでにミツルは小学校の図書室の歴史漫画を読み終え、更なるステップを目指して市内の図書館の、歴史関係の本をマスターしてしまった、という話があるくらいだから、彼の歴史に関する薀蓄には目を丸くする。あくまでも噂だから、真偽は分からないけど、かなりの歴史オタクなのは本当だし、女子なら歴女と言いたいところだけど、男子なら歴男でも言うのかな。

 幼馴染と聞くとすぐに、見かけは仲が悪そうで本当はお互いのことが気になって仕方がない、

『見た目は子ども。頭脳は大人。真実はいつもひとつ!』

 とプロローグで爽やかに正義のお言葉を言い話す、推理アニメのカップルを思い浮かべそうだけれど、別に私とミツルはそんな関係ではない。

 そのカップルは彼氏が子供に縮んだせいでいつもいるのに会えないんだ。推理アニメのような馴れ馴れしいじゃれ合いは全くの事実無根なり。

 だって、ミツルはメチャクチャとでしか言いようのないくらい、異性としてイケてなくて、アラサーになった今でも、会うたびに幻滅してしまいそうになる。うんざりするほどダサい、と言うのはこんな男を差すのか、ミツルの髪の毛はいつも、跳ねているし、校則すれすれのまるこちゃんヘアーは、まるこちゃんも臍で茶を沸かすであろう、もはや放置状態の鳥巣である。綺麗にセットしてあるとき、ミツルママが、気が向いて髪の毛を切ったくらいのもので、そこでもまた残念、ミツルママもセンスがないというのか、この方が楽だからと言って、ハサミで髪の毛を一直線に切って東京スカイツリーのように尖ってしまうのは何ともおかしい。

 部屋のタンスから近くのショッピングセンターのバーゲンで買った青と赤の線が入った長袖のシャツとジーンズを履くと、気だるい一日がちょっとは爽快な一日になりそうな気がした。昨日の温もりにさよならをして今日のスタンスを押し込めそうな気がする。学校に毎日通えていた頃は当たり前だった昨日とのさよならした、温もりが今日に限っては懐かしく思えた。淡い期待に胸を躍らせながら、靴を履いて徒歩で一分もかからないミツルの家に向った。

 ミツルの家に向かう途中、スマートフォンを開くと煽情的なニュースが飛び込んできた。



『芥川賞最年少作家でもあり、美少年作家でもあった新倉蒼の転落劇』



 

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