第2話 幻
この文学的訃報にネット民はざわつき、私は今世紀最大の落伍者として、汚名を注がれる羽目になった。2ちゃんねるや5ちゃんねる、Twitter、Facebook等のSNSを開けば、どんな些細な情報でも私の個人情報が垂れ流しになり、絵に描いたような罵詈雑言、法律すれすれの誹謗中傷が飛び交い、この小娘が、と画面上の読者たちは図に乗った私を一斉に非難していた。あの頃の私は出演したテレビ番組でクソ生意気な批判で『世界一なテレビ』の番組の司会者を生番組中に虚仮下ろし、場の雰囲気を白けさせ、しまいには自分と同じ世代のアイドルグループのセンターを『ブス!』と罵り、多くの人から顰蹙を買ったのだ。
あの頃、受けた非難はごもっともだった。所詮、十五歳の小娘が書いた雑文を受賞させてくれた敬想社も生易しすぎたのだ。しかも、敬想社は最年少受賞が近年更新するのが読書家の中では通例だったようで、また最年少受賞かよ、という非難めいた指摘に私はまんまと誤解していたのだ。
閑話休題、今はアラサーを迎えつつある、二十九歳の春、ちょうど、針で指を突かれたように痛苦が口に広がったようにも思える、イガイガしさ、そんな血潮の隠し味を私は文壇から忘れ去られた今でも、味わい続ける。
朝寝坊が習慣になり、凋落した私には、自分以外の人間が明るいまっとうな人生を歩んでいる普遍性なんて、一切関係ないのにふと、脳裏には生暖かい、後ろめたさしか覚えなかった。ゴロゴロと使い込んだ毛布と格闘しながらの遅い春の朝にベッドから下りて、西側の窓に目をやると、近くの学校から相打ちしたかのようにチャイムの音が聞こえた。
健全な人はとっくに一日をスタートさせているな。学校なら一時間目が終わったくらい?通勤時間の満員電車でストレスを日々、溜めているサラリーマンが耳元で愚痴る、愚痴る、愚痴る、――一日中家でゴロゴロしているアラサーよ、あんたは贅沢だ。俺に半分でもいい、三分の一でもいい、分けてくれ。いいか、これは命令だ。
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