下読み判官小説 業が深い物書きを求む。
詩歩子
第1話 成れの果て
AM 9:26
平日の遅い朝からだらしない、耳をつんざくような怪奇な音楽が枕元に波打っている。やかましいアラーム音はこの上もなく不機嫌で、私の憂鬱をさらに加速させる、永久機関のようにとどめをさせまい、と画策している。布団の中の温もりだけが至福の幸せを残してくれる、桜月、とっくの前に私以外の同世代は新たな春を待っているのだろう。
考え出すと孤島に取り残されたような不甲斐なさを感じた私には、高校一年生のときに敬想文学賞を最年少受賞(当時十五歳)し、一躍有名になった黒歴史がある。黒歴史? いいや、あんたは自慢したいのか、と駄目だしする、ネットユーザーも多くいるに違いないが、黒歴史、と私が宣言したのはとある悲惨な理由がある。女子高校生作家として華々しく脚光を浴びた私は図に乗り、転落人生を歩む羽目になった……、というシナリオを期待した人も多いと思う。
少女だった私はまさか、あの頃、勉学逃避の趣味の一環だった小説を執筆して、腕試しに書いた小説が入賞するとは露も覚えず、投稿していたことさえも忘れていた七月の初旬、いきなり、携帯に知らない電話番号があったので、用心深くかけ直すと、『最終候補になりました』と編集者さんの声を聴いた。あれよ、あれよと受賞決定の電話を受け、最年少受賞者として、その秋の文芸誌、『敬想』に掲載され、そのデビュー作は何と芥川賞のノミネートされたのだ。
まるで、あの某文芸漫画みたいな展開じゃないですか、と突っ込みもそのはず、浮かれた盛りの付いた野良猫のような私は雑誌やネットニュースの取材に飛び入りで引き受け、瞬く間に私は文壇の寵児になった。時代の申し子になった私は学校でも顔があまり可愛くないのに学校中のシンボリックリンクなヒロインとなり、犬も歩けば棒に当たり、サインをねだられ、文化祭でも私が主役の舞台をやり、はっきり言って、定型的な傲慢少女になっていた。
高校二年生の冬、人生が薔薇色だった私は廃人とはいい妙で、文字通り、人間失格を書いた太宰も驚く、現代の閉鎖病棟にいた。理由は簡単。芥川賞最年少受賞の夢を絶たれ、落選したのだ。選評は酷評で、年齢だけで文学を舐めるな、と某大御所作家の、名前は伏せずに、磐崎柚葉氏から厳しい批判をもらい、その他の先生たちも同様、私に𠮟咤激励していた。
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