第14話 変わり始める勢力図

side 剣聖アスラ(剣術の極地)


その報告を聞いたのは会議が始まってすぐの事だった。


四国会議。


それが今俺が受けている会議の名前。

四国の勇者召喚に関する最高責任者が集う会議。


普段は定期的に開かれるが、今回はエルドラからの緊急招集だった。


「今なんと言った?」


俺はエルドラの代理人に声をかける。


「アスラ様。それが大賢者エリス様の消息が完全に途絶えたのでございます」


エルドラの代理人は先程と同じことを口にした。


それには他の二国の代表者も動揺していた。


「エリスが?」

「息は無駄に長いと思っていたのですが、クズほど長生きするという話は嘘なようですね?」


ここにいるメンバーでエリスを好いているやつなどいない。


この反応がその証左だが。


しかしその実力は誰もが疑ってなどいない。

あいつは優れた魔法使いだ。


「死んでいるのか?」

「分かりませぬ。ただ先日グリンドル王国近くの森で爆発が起きたと聞きました。森一帯が消し飛ぶほどの魔法と聞いております。それにエリス様が関係していると思いますが」


エルドラ代理人の言葉に首を捻る。


「そんな大魔法を使えるのはお前の国のエリスくらいだろう?」


そう言うとひとりの代表者が笑った。


「ついに自分の性格の悪さに耐えられなくなった、とかでしょうかねぇ?この四国会議でも性格の悪さが出ていましたからせいせいしますわ」


その女は笑っていた。


それを咎めて俺はエルドラ代理人と続ける。


「先日勇者召喚を行ったと聞いたがその中にSランク以上がいたのか?」

「ひとりいました」


ピクっ。

その言葉をさらに聞いていく。


「名は?」

「シグレ ヨルですが【呪い反射】スキルです。それでエリス様がケガレ洞窟へとお返ししました」


その言葉を聞いて興味なさそうにしている二人の責任者が見えた。

内心はこう思ってるのだろう。


『あー【呪い反射】か』


と。

しかし俺は違和感を覚えた。


普段であるなら【呪い反射】と聞けばそれだけで似たような反応をするだろうが。


「……」


ひとつ考えて俺は臣下に小さな声で命令を下した。


「【ケガレ洞窟】を捜査せよ。クリア状況を確認してこい」

「で、ですがアスラ様ケガレ洞窟からの生還は考えられません」

「いいからしてこい」


(シグレ ヨルか。こいつが生きているのなら貴重な戦力になるが)


ふたたび会議に戻り代理人へと声をかける。


「代理人。次の責任者を立てておけよ」


勇者召喚にはそれを行う責任者が必要になる。

我が国で言えば俺、そしてエルドラで言うのならエリスだったがそのエリスは死んだ。


なら新しい責任者が必要になるが


「あれほどのクズは用意しなくていいぞ。エリスはゲスだ」

「はっ……分かりました」


そう言ってうやうやしく例をして代理人は会議を抜けていった。

それが合図になったように他の国のメンバーも消え。

俺も抜けた。


そして一人になった会議室で考える。


「エルドラが1人で死んだか」


各国には特色がある。

我が国で言えば、俺の名を冠するアスラ騎士団、この騎士団に所属する騎士はひとりひとりがドラゴンを狩り取れる実力を持っている。


そしてその戦闘のエキスパートが召喚した勇者を育て上げる。


そして徐々にだが強い勇者たちを育て上げていた。


一方エリスは質より量だ。


『初期値が大事なんですよ』


と言って大量に召喚してその中から光る原石のみを育て上げるというやり方をしていたが、皮肉にもこれが効率がよかった。


そして一国だけ抜きん出た成績を収めていたが、それは過去の話。


「今回のエリス死亡事件で、この世界の情勢は大きく変わることになる……か」


俺は窓から庭で訓練をする勇者たちを見た。


「我が国が次は世界を率いよう」


そう呟いてから俺はひとりの勇者を呼び出すことにした。

我が国の勇者にはひとりひとりに連絡手段を持たせている。


たしか【スマートフォン】というやつを参考にしてこの世界流に応用したものだ。



「お呼びでしょうかアスラ様」


中に入ってきたのは日本から駆けつけた勇者。

そして俺が一番気にかけている勇者だった。


名は。


「シオリ。お前に重要な役割を与える」

「はい。それはいったいどのような?」

「シグレ ヨルという勇者を探せ。お前と同じ日本人だそうだ」

「時雨 夜ですか?」

「エルドラの勇者らしく【ケガレ洞窟】を突破したそうだ。そしてSランク勇者」

「え、Sランク勇者?!」


シオリは驚いてからこう言った。


「了解しましたアスラ団長。必ずや見つけてみましょう」

「頼むぞ。見つけたらここまで連れてきてくれ。これで我が国はより強固になる」


さぁ、シグレ ヨルよ。


会える日を楽しみにしているぞ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る