第10話 呪詛返しの応用

「俺に考えがあるんです」

「考え?」


そう聞いてくるノエルさんに答える。


「とりあえずこのアイテムを使ってみてください。それで自分に魔法を使ってみてください。偉大な魔法使いなんですよね?」


ロックは霊体でも魔法を使っていた。

ならばノエルさんも使えると思ったんだけど。


そう言ってみると俯いた彼女。


「この世界の魔法は万能ではありません」

「え?」

「ご存知の通り魔法というのはもともと呪いです。自分に呪いなんてかけませんよね?魔法というものはもともと自分に使うようにはできていないのです」

「じゃ、じゃあ?」

「ヒールは自分には使えませんし、使えたところで大した効果にはなりません」


それを聞いて顔をうつ向けた。

それはそうか。


理屈としては納得できるしノエルさんがこう言ってるんだからぜんぶ事実なんだろう。


「行ってください。私の分まで楽しんできてください。外の世界を」


もうこの人はここから出る気は無いんだ。


そう思ったけど。

頭を激しく回転させて俺は思いついた。


「魔法は呪い。ヒールは魔法。つまりヒールも呪い、なんですよね?」

「は、はい」

「俺に回復魔法を使ってください」


そう言うと目を見開く彼女。


「あなたに回復魔法を使えば……跳ね返って私が回復する……そ、そういうことですか?」

「試してみる価値はあると思います」


俺はそう言ってノエルさんにアイテムを渡した。


アイテムを使うノエルさん。

すると体が発光した。


これが体力などを回復したときのエフェクトなんだと思う。


それから彼女は聞いてきた。


「いきますよ」

「どうぞ」


俺がそう言うと


【リザレクション】


ノエルさんは魔法を使った。


【呪詛返しに成功しました】


パーンと跳ね返って


【リザレクション】はノエルさんに当たった。

そして


シュワァァァァァァァァァァ。


「あ、あれ?」


まず最初に足の方から実態を持っていって、腰、手、胸、それから頭。

全身が実体を取り戻した。


ノエルさんはさっきまで浮かんでいたのにその場に足をついて立っていた。


これで蘇生したということだろう。


「すぅ、はぁ……」


深呼吸を始めるノエルさん。


「い、息ができる!」


そしてジャンプした。


「足がある!」


それから自分の胸を触った。


「ぷよぷよ!」


俺はそれを見て口にした。


「良かったですね」

「あ、ありがとうございます!ヨルさん!私生き返れました!」


そう言ってツーっと目から涙を流し始めた。


「い、生き返るなんて思ってもいませんでした」


そう言っていつかのように抱きついてきたノエルさん。


「うわぁぁぁぁぁぁあん!!!」


うれしすぎて泣いてるようだ。

しかし俺は素直に喜ばなかった。


(あー。なんで気付かなかったんだろう。さっきまでノエルさんを救うことで必死だった)


けど、今のこの一瞬で俺は骨身に染みて分かった。


(ヒールすらも跳ね返すのか、これ)


これじゃケガをしても



どうする?これ。


この世界でのヒールの価値が分からないけど。


現状の俺はヒール無効化どころか。


(敵をヒールさせるだけの利敵野郎になる)


あいつに回復魔法を使えば回復できるぞ!

そういう噂が立てば


(俺はこの世界で最弱になるんじゃない、のか?さいわい敵にヒールを使う場面なんてそんなにないたろうが)


俺はノエルさんを引き剥がして顔をまっすぐに見つめた。


「ノエルさん。俺と来てくれますか?」

「そのつもりでしたよ?私地上ではもう死んでる扱いなはずですし」

「俺のこのスキルのこと絶対に誰にも言わないでほしいんです。守れますか?」

「はい。誓います」


この言葉が現状どれくらい信用できるかは分からないけど。


俺はこの人に救われてここまできた。

こう言えば聞こえは悪いが


(監視下に置かせてもらおう)


そして、今後俺はこのスキルをできるだけ封印したいと思う。


現状俺のスキルの細かい性能まで知っているのは俺とノエルさんだけ。


これ以上知られちゃいけない。


俺のスキルの詳細を。


そして知ったものは


(殺さなくてはならないかもしれない)


俺のスキルの攻略法を知られてしまえば俺は一気に最弱となる可能性があるのだから。


【呪詛返し】


このスキルは圧倒的に強いんだろうけど、バレた時の性能がキツすぎる。


簡単な話。

ピーキーすぎる。


これを考えたら皮肉なことに


『使えないスキル』


というエリスの言葉は的中していたことになるな。


それに一番の問題がこのスキルをフルに使おうとすればどうしても受動的になることか。


カウンター技の宿命なんだろうが、きついよなぁ。


そう思いながらノエルさんに聞いてみることにした。


「いつまでついてこれますか?」

「死ぬまでついていきます!」


その言葉を文字通り受け取っていいんだろうか?

そう思ってたら俺の腕に自分の腕を絡ませてきたノエルさん。


いつもなら飛んで喜ぶだろうけど。

状況が状況だからな……。


まぁでも


(この人の言葉は信じてもいいかもな)


それにそこまで考えていないようにも見える。

出会ってまだ時間は経過してないが、物事を俺ほど考えない人のように見える。


そんなノエルさんに言う。


「護衛をお願いしてもいいですか?」

「え?護衛?」

「俺のスキルはカウンター系で能動的には動けないんです。ですので、護衛をお願いしたいと思いまして」

「なるほど。そういうことですか」


頷く彼女。

それから俺は聞いた。


「あとできれば剣士の仲間が欲しいんですけど、そういうのってどうやったら仲間にできるんでしょう?」

「街に行けばいいと思いますよ」


そう言った彼女。


なるほど。

なにをするにしてもここじゃだめかやはり。


そう思い俺は扉の方に向かうことにした。


とりあえずここを出よう。


そして、その扉を押し開けた先だけど……。


「うわー。きれーですねー」


俺たちの目の前には森が広がっていた。


方向がよく分からないがとりあえず洞窟を出れたことに安心しながら進もうとしたら


「なるほど。見に来て正解だった、ということですか。さすがSランク勇者というところなのでしょうか」


声が聞こえた。

そっちを見てみると。


なんでこいつがここに。


「え、エリスさん?」


そこに立っていたのは俺をここにぶち込んだ張本人だった。


ペロリと唇を舐める。

いやな予感がする。

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