第7話 このスキル最強なのでは?

次のフロアに行きながら考えてた。


さっきのファイアが跳ね返ったことについて。


まず最初に仮定する。

それは





ってことだ。


そうして仮定してみれば全部説明が上手くいく。


俺の【呪詛返し】が反応したのは魔法が呪詛だからってことで説明が着く。



つまりこの世界において。



【呪い】というものは特定のデバフ状態やそれを与える魔法のことを指していて。


【呪詛】というものは上記に加えて魔法すらも効果範囲内にしてしまう。

そういうことなんじゃないだろうか?



この仮定が正しいのであればなんの不思議もない。

それなら魔法も跳ね返せるに決まってる。


「さっきから難しい顔してますねー?」


そう聞いてくるノエルに頷く。


「俺はゴミスキルとしてここにきたんです。でも、もしかしたらこのスキル実はめちゃくちゃ強いのかもしれない。だからいろいろ考えてるんです」


考えてもみてみよう。

もし、このスキルが僕の考え通り魔法を跳ね返すことが出来たら?


(俺は魔法じゃ倒せないってことになる)


剣と魔法の世界。

だと思うんだけどそのうちの1つの魔法という攻撃手段まるまる1つのダメージソースが消えることになる。


そうしたら


(剣術も極めたら無敵に近いんじゃないのか?これ)


しかしいろいろ課題はある。

モンスター相手ならまだいいが、知能の高い奴がこんな僕に魔法を使ってくれるかどうか、だよな。


そこはどうにか使わせるように誘導するしかないか。


「剣術だな」

「はい?」

「剣術を学びたいと思ってます」


そう答えてさらに歩く。


とりあえず目先の話をするか。

剣術を学びたいというのはまだ先の目標だ。


それよりももっと目先の問題。

この洞窟を抜けないといけない。


先に進む俺に声をかけてくるノエルさん。


「ユニークモンスターの消し去る者に気をつけてください。私は消え去りましたから。てへぺろ。あ、面白くなかったですか?」


(ブラックジョークってやつか?これ)


この人底抜けに明るいよね。


まぁでもそんなノエルさんがいてくれるから俺の精神は割とおたがやかだった。


たぶんこの人がいなかったらもっと沈みこんでただろう。


そのときだった。


ふよふよ。


なにか浮遊するような音がしてそちらに目を向ける。


「おいおい、こんなところに生者かよ。久しぶりに見たわ」


ノエルさんみたいにふよふよと浮いてる幽霊が目に入った。


(こいつも地縛霊か?)


そいつは右目に眼帯をしてて盗賊みたいな姿の男だった。


その風貌を見て思い出した。


『悪人を処刑するのにも使っていました』


この洞窟にはも送り込まれたこと。


「触っていい?触っていい?俺はロックってんだ。ここ地縛霊しか基本的にいねぇから。生きた人間と話すの久しぶりなんだよ」


そう言ってからロックはノエルさんに目をやった。


「おい、ノエル。言ったよな。生存者がきたら知らせろって。いつもみたいに逃がそうとしてんのか?」

「そ、それの何がいけないんですか?」

「むりむりむりむりむりむり。むりー。ここから逃げるなんてできませーん。どうせ地縛霊になるのがオチでーす」


ノエルさんを小馬鹿にしたような顔をするロック。


俺にはここのことは分からないし口は出さないでおこう。


まぁ分かったこともあるけどね。


(こいつは嫌なやつだ)


例えるならそうだな。

生田が近いんだろうな。


そういえば生田はどうなったんだろう?


あれからなんの進展もないような気がするが。


「おい、人間」


そのときロックが声をかけてきた。


「その体くれよ」

「は?」

「俺は体ないからさ。その体くれって言ってんのよ」

「????」


どういうことだ?

こいつら体を乗っ取れる、ってことなのか?


「けけけ。おいおいおい先に言っておいてやるよ人間。そこのノエルもお前の体奪う気なんだよ」

(えっ?)


ノエルさんに目をやった。


「そ、そんなわけないじゃないですか」

「なに聖人ぶってんだよ。ノエル。こんなところに来たのはお前がクズだからだろうが。えぇ?反逆者ノエル」

「ち、違います!私は!」


話が見えない。


そう思っていたらロックが魔法を使ってきた。


「【ソウルイーター】」


俺に向かってくる謎の光弾。

しかし、それを


「ぐあっ!」


ノエルさんが代わりに受け止めてくれていた。


「行ってくださいヨルさん。ここは私が……食い止めます」

「へぇ?ノエル。お前この魂喰いのロックとやろうっての?」

「えぇ。彼はなんの関係もない」

「ピュイーーーーー!!!」


ロックがとつぜん指笛を吹いた。

すると、そのときだった。


ゾロゾロ。

周囲を埋め尽くすのはリッチの群れ。


10匹くらいはいるだろうか。


「俺と一緒の盗賊団にいた連中だ。俺の言うことだけを聞くぜ?」


そのときノエルがこう言ってきた。


「先に進んでくださいヨルさん」

「え?」

「これはあなたにはなんの関係もないことだ。進んでください!」


そう言って俺を突き飛ばしてきたノエルさん。


(俺に触れるんだ……?)

「これで分かったでしょう?私たち死者はやろうと思えば生者に干渉できます。この男はほんとうにあなたの体を乗っ取るつもりなんだ」


そう言われて俺はロックを見た。

凶悪な顔をしていた。


テレビニュースでよく見てきた



そして、そんな顔でこう言ってくる。


「くれよ、その体。女を陵辱して、物を盗んで、人を殺して。まだまだやりたいことがたくさんあるんだよぉぉぉ!!!俺はァァァァ!!!」


「う、うわぁぁあぁあ!!!!」


本物の悪意を見て俺はその場にいられなくなってノエルさんを置いて逃げた。

逃げ出してしまった。


そうしてノエルさんを置いてきて少し、ほんの三秒くらい歩いたところ。

また後悔が襲ってきた。


そのときだった。

ポロッ。


ポケットから冒険者手帳が落ちた。

ノエルさんのものだ。


『なにか、役に立つかもしれません。持っていってください』


にっこりとそう言われたのを思い出した。


その笑顔を思い出して、俺はこう思った。


「戻ろう」


これが、最後の貧乏くじで、最後のお人好しだ。

少なくとも俺はいちど命を救われた。


(恩を仇で返すわけにはいかない)


あの人を助けられるやつがいるとしたらそれは俺だけだ。

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