第5話 やばい奴ら
洞窟の中を進もうと思ってとりあえず周りを見てから動き出そうとしたら。
コツン。
足の先に何かが当って。
コロッ。
何かがころがった。
「何を蹴った?」
下を見てみると。
「うわっ……まじかよ」
そこにあったのは。
骨だ。
人骨。
しかも蹴ったのは頭蓋骨だった。
やり場のない気持ちが湧いてくる。
「蹴ってしまいごめんなさい……」
とりあえず謝ってみると。
「お気になさらずです」
「えっ?!うぇっ?!」
返事を期待したものじゃなかった。
なのに、返事が来たから驚きすぎてその場に倒れ込んでしまった。
声の聞こえた方に目をやると。
うっすらと幽霊のように人が見えていた。
優しそうな女の人だ。
てか
(エルフ耳ってやつか?)
耳が人間よりも尖っている人がそこにいた、っていうか幽霊みたいに浮かんでた。
(どーなってるんだこれ)
そう思いながらその人をまじまじ見てると。
「気になりますか?」
「ま、まぁ」
そう言うと彼女はこう言ってきた。
「まず私の名前からお伝えしましょうか。私の名前はノエル。とそう言います」
「の、ノエルさん、ですか」
そう言うと彼女はじーっと俺の全身を見てきて。
「なるほど、異世界人ですか」
そのあとノエルさんはうん。とかふむ。とか言ってひとりで納得していたようだ。
つか
「あ、あのー?」
「ん?」
「し、死んでるんですよね?」
「そりゃもうバッチリ死んでますよ」
そう言って俺の蹴った頭蓋骨を指さす彼女。
「あれ私の頭蓋骨です。いやーあんな形してたんですねー。久しぶりに見たから忘れてたなー」
(軽すぎだろこの人?)
自分が死んでてこんなテンションでいられる人いるんだな。
たぶん僕なら無理だけど。
ていうか死んだことを受け入れられてないのだろうか?
「な、なんで普通に話してるんです?」
「そういうものです。この世界では気合いを出せば亡霊として存在することができます」
そういうものなのか。
僕はこの世界のことまだ詳しくないからそういうことなら納得するしかない。
それからノエルさんは斜め下を向いた。
悲しそう。
「それももう少しで終わりですけどね。魔力の限界が近いのです。もうすぐこの亡霊状態も維持できなくなるでしょう」
「そ、そうなんですか」
てかなんで僕も亡霊と普通に話してるんだよ。
ま、でもひとりだったから嬉しいかも。
だから僕もとりあえず名乗ってみることにしよう。
「ぼ、僕はヨルって言います」
「ヨルさんですか。短い間でしょうがよろしくお願いします。さて、スキルはなにをもらいましたか?」
(この人異世界召喚にめっちゃ詳しいな。関係者とかだったのだろうか?スキルについてなにか知ってることはないかな?)
とりあえず【呪詛返し】のことについて話してみた。
すると彼女はこう言った。
「聞いたことがないユニークスキルですね。ところであなたはこの洞窟から抜けたい、と考えていますか?」
「それはもちろん出たいですよ」
「わかりました。協力しましょう。もともと私はここに送られてきた人間をひとりでもいいから送り返したいと思ってここにいますから」
いい人だなこの人。
でも
「出れた人っていないんですよね?」
「残念ながら」
やはりそれはエリスの言う通りらしい。
ここを生きて出れた人間はいない。
「ちなみに死んだとしても出れませんがね。ここはそういう場所ですから。死んだら地縛霊です」
この人が言うと説得力すごいな。
ずっとここの地縛霊?やってるっぽいからすごいよ。
「でも、あなたなら出れそうな気がしますね」
「ど、どうして?」
「ユニークスキルには無限の可能性がありますから」
そう言った時だった。
「オォォォォォォォォォォォ……」
地の底から響くような声が聞こえた。
「きたか……こちらへ」
そう言ってノエルさんが僕を手招きした。
ノエルさんが向かった先は横穴だった。
人がひとり入れる程度の横穴。
僕とノエルさんは重なって穴に入った。
(ほんとうに死んでるんだこの人。僕と体が融合してる)
そう思ってたらやがて何かが僕の視界の先を通って行った。
ジャラジャラと長い鎖を引きずって歩いていった。
そして鎖の先には
(鎌が2本ついてるのか?いや、違う。2本の鎌を鎖で連結させてるのか)
そんな武器を持ってその何かはちょうど僕の視界の真ん中に差し掛かった。
名前:消し去る者
レベル:758
それを見た瞬間僕の頭はフリーズした。
死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死
そんな言葉が頭を埋めつくした。
それと同時に襲ってきたのは後悔と絶望だった。
(なんで、自分がこんなことに……あぁ、あのとき鈴村さんに行かせてれば……)
そんなクズみたいな考えも過ぎる。
そのとき。
「もういいですよ」
ノエルさんにそう言われたので横穴から出た。
この人がいなければ、僕は一生この穴から出られなかったかもしれない。
ここであれに消された。
「あれは?」
「このダンジョンのユニークモンスターです。このダンジョン内を徘徊しています。かなり強いモンスターですからできるだけ遭遇しない方がいいですね。私はあれに殺されました」
(なるほど。危険なモンスターってわけか)
「このダンジョンにはあれの他にも注意すべきモンスターがいます。まず、この先に進むと現れるようになる魔法使いモンスターのリッチ。それからダンジョンボスのメデューサですね」
リッチにメデューサか。
そんなものまでいるんだなこの世界は。
「このダンジョンに安全なエリアはありません。ここはまだマシですがあのモンスターが定期的に見回りに来ますから。助かりたければ出口を目指してください。生きたければ逃げるのです」
そう言われて僕はうなずいた。
「えぇ、目指します」
そう言うとノエルさんはほほえんだ。
「その意気です。私みたいに死なないでくださいヨルさん」
そう言ってから彼女は自分の骸骨があった場所まで戻ってその近くにあった装備を手に取って僕に渡してくる。
「そうそう、持っていってくださいこれ」
渡されたのは【エルフの剣】という武器だった。
「いいんですか?」
「気にしないでください。それと、私の冒険者手帳もあげます。なにか役に立つこと書いてあるかもしれませんからね」
そう言われて俺は思った。
(ぜったい出てやる。こんなところから。もう、流されるのは終わりだ)
そう決意してたらノエルさんもこう言ってくれた。
「諦めないでください。きっと道は続きますから」
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