第4話 【エリス視点】この世でいちばんの邪悪

sideエリス


「エリスはすごいな」

「すごい!生まれて4ヶ月でハイハイしてる!」

「今度は立ったぞ?!」


私は天からいくつものモノを授かって生まれてきた。


魔法の才能はもちろん。


剣術。

身体能力。

頭脳。

美貌。


全てを授かって生まれてきた。

そして何より抜きん出ていたのは。


魔法の才能だった。


初めて魔法を使ったのは3歳の頃。


「すごい!3歳で魔法を使ったぞ!この子!」

「この子天才よ!」

「それに比べて姉の方は出来が悪いな」

「違うのよ。エリスが天才なだけなのよ」


そんな言葉を聴きながら幼少時代を過した。


自尊心はどんどん肥大化していった。


誰もが私を称え誇りを持ち。


誰もが私の美貌に酔いしれる。


そして、誰もが私にへりくだる。


私を持ち上げる。


私の自尊心の肥大化は止まることを知らなかった。

そして好機が訪れた。


「エリス様。あなたに勇者パーティへの加入要望が届いております」

「えぇ、いいでしょう」


笑顔で承諾した。


勇者パーティが結成された。


パーティメンバーにはロールが与えられた。

私には【賢者】というロールが与えられた。


当然でしょうね。


私が一番魔法が上手いんだから。

古今東西。

歴史を見ても私ほどに優れた魔法使いなんていなかった。


誰もが私を賞賛していた。

喝采していた。


だからこそ私は己の絶対性を信じきっていた。


あの時までは。


「その程度か。私はまだ実力の1割も出しておらんぞ」


討伐に向かった先の魔王に我々勇者パーティは完敗した。


惨敗したのだ。


この上ないほどの敗北。


私が……


​───────今まで他の人間を踏みにじってきたように、蹂躙された。


魔王は笑って言った。


「くだらん。くだらん。この程度で私に勝とうなどと思うとは、出直してこい虫けら共」


私の自尊心を守るために逃げ帰った。


勇者パーティを連れて。


みんな直接私に何か言うことはなかった。


そしてそれからだ。


戦力の増強を図るために異世界から勇者を連れてくることになったのは。


勇者パーティは世界に散らばり元メンバーは異世界からの勇者の強化をおこなうことになった。



パチリ。

そんなことを思い出して私は目が覚めた。


「どこですか、ここは、草原?」


たしか。私はシグレという勇者に魔法を使ったはず。

そして転移させたはず。


それがなぜ、私がこんなところに?


テレポートの対象はシグレのみに設定したはず。


なぜ、私まで移動している。


「久しぶりに魔法を使ったせいで制御を間違えた?」


ふっ。


きっとそうだ。

出力を間違えて私まで範囲になっただけだろう。


その証拠に不完全なテレポートだからこういう草原に飛ばされたのだろう。


「天才だってたまには失敗くらいするものですよ」


そう呟いて、考え直す。


(珍しいことがあったものですね。私が魔法を失敗するなんて)


そう思って私はケガレ洞窟のある方向を見て


「……」


考える。


(見に行ってみますか。彼は腐ってもSランク。なにかの力に目覚めるかもしれない。それでも私よりはカスでしょうが)


もしかしたら向こうでも珍しいことがあるかもしれない。


そう思った私はケガレ洞窟の方に向かうことにした。


ついでだ。


どうせケガレ洞窟からは出て来れないだろうが、もし出てきたら連れ帰ってやろう。


あの洞窟を出られるなら使い道はある。


「あの魔王に一泡吹かせられるなら例えクズやゴミでも使えるものは使うだけなのです」


あの魔王は許さない。

私を踏みにじったことを、蹂躙したことを、残虐に拷問して泣かせて死ぬまではらわたをほじくり出して謝らせてやる。


この私に勝利したこと。

そんなこと許されないのだから。


私より強い存在などこの世界に生きていてはいけない。


この世で一番強いのは。

一番優れているのは。

一番美しいのは。


この私でいい。


この世界は私を中心に回っている。


「魔王。あなたを中心に回っているわけじゃない。それを証明してみせましょう。私を生かして帰ったこと……後悔させてあげましょう。この手で必ず」


あの魔王は、この世でいちばんの邪悪だ。


私に勝利した。

それは許されてはいけない、大罪。

未来永劫、種族単位で償い続けなさい。






このときもっと深く考えるべきだったのかもしれない。


私がなぜ魔法に失敗したのか。


なぜ考えなかったのでしょう。


シグレ ヨルが規格外かもしれないということを。

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