第3話 見え始める片鱗

「では、最後の仕上げと行きましょうか」


そう言うとエリスは僕たちのいるブロックの前に立ってこう言った。


「出なさい」


なんで僕達なんだ?

そう思いながら鈴村さんに目をやりながら出ていく。


ここで暴れたら最悪生田みたいになるのは目に見えてるからな。


この女はマジでイカれてる。


しょっぱなからあれを見せられたせいで普段はイキっているようなヤンキー連中がなにもしてないのが現状だ。


ひたすら目をつけられないように震えてる。


エリスはそこで杖の先端に火をつけてそれでグルーっと地面に円を描いた。


「どちらかが入りなさい」

「え?」


僕がそう聞くとこう返してきたエリス。


「決まり事なのですよ。勇者様ガチャが終われば最低ひとりはお帰り願いなさいという決まりが」

「に、日本にってことですか?!」


そう聞く鈴村さんに笑顔で首を横に振るエリス。


「いえ、違いますよ。この円に入った人間が帰るのは【ケガレ洞窟】という場所です。罪人などが沢山放り込まれてきた危険な場所です」

「ひっ……」


おびえる鈴村さんに詰め寄るエリス。


「私としてはあなたがいいんですけどね。そっちの彼は腐ってもSランク勇者様です。なにか使い道があるかもしれませんからね。でもあなたはいりません」


そう言っているエリスに追従するのはAランク勇者たちだった。


「鈴村!入れよ!」

「そうだそうだ!エリスさんの邪魔をするな!」

「手間を取らせるなよ!」


鈴村さんへのブーイングが始まる。


(こいつらも腐ってるな)


そうして鈴村さんは僕に目を向けてきた。


僕はその目を見てこう思った。


(このまま鈴村さんに決まればいい、って)


でも、そうはさせなかった。

ザッ。ザッ。


歩いて僕は円の中に入った。


「僕が行くよ」


エリスに声をかけた。


「そのかわり鈴村さんはもういいだろ?」


一瞬迷った。

敬語を使うかどうか。


でも、こんなやつに使う必要なんてないだろう。

鈴村さんから目を逸らして僕を見るエリス。


「まさか自分から入るなんて。初めて見ましたよあなたみたいな人」

(この召喚はやっぱり初めてじゃなかったか)


面白いものを見るような目で見てくるエリス。


それは珍獣を見るような目、というのが近いだろう。


まさに今の僕は珍獣だと思う。


「この先に何があるのか知った上で名乗り出るなんて。面白い。その優しさがSランク勇者として認められたのでしょう」


なにも答えずにこう言った。


「早くしてくませんか?長々と話を聞くのは好きでは無い」


長いのは校長の話だけでいい。

それにもう決まったことをグチグチとなにか言うつもりはない。


今の状況を簡単に説明するなら身体中束縛されて銃を頭に向けられてるようなものだろう。


反抗してもしなくてもなにも変わらない。

それなら


(ここで【ケガレ洞窟】とやらに向かった方が速いだろう)


その時だった。


ザッザッ。

足音と声が聞こえる。


「おもろいこと言うなぁお前。気に入ったわ。時雨、やったっけ?」


コテコテの関西弁の女が近寄ってきた。


たしかAランク勇者と認定されていた女だったはずだ。


「ウチも連れてってくれやエリスさん。決まりでもあるんか?ふたり、帰ってもらったらあかんっていう」

「はい。お帰りいただくのはひとりと決まってます。そしてその対象はAランクからは絶対に選びません」

「ちぇっ」


舌打ちして僕に目を向けてくる女。


「ウチの名前知らんやろから教えとくわ。西条や。期待しとけや。ケガレ洞窟ってとこまで助けいったるから」


そう言って一歩下がってこう言ってきた。


「せやから。せいぜい、それまで生き延びてみーや。時雨。なっ?鈴村」

「う、うん!必ず助けに行くから!」


そう言ってきたふたり。

こいつらは、いいやつなようだ。


そう思ってから僕は女神に目をやった。


「では、決まりにより、ヨルさんをお返しいたします」


そう言うと僕の足元には魔法陣が広がった。


「動かないでくださいね。私はこの世で最高峰の魔法使い。無駄に苦しむことになるかもしれませんよ?」


それと一緒に


「【テレポート】」


杖を向けて僕に魔法を放ってきた。

その時だった。


【呪詛返しに成功しました】


そう表示された。


エリスの姿が消えた。

そして文字が切り替わった。


【呪詛返しに失敗しました】


(失敗?)


そして、そのあとに


【呪詛返しのレベルが上がりました。Lv1→Lv9999】


そういう文字が見えたけど、次の瞬間僕の体は光に包まれたのだった。



僕の体は薄暗い洞窟の中にあった。


「……ほんと、お人好しだよな」


あのまま鈴村さんを見捨てていれば僕はこうなってなかったというのに。


「……なにしてんだろうな。ほんと」


自分でもたまにイライラすることがある。


自分のお人好しを。


自分さえ我慢すれば全部うまくいく。

そう思ってやっているのは分かるんだけど、


「その結果がこれかよ……」


突っ立って拳を握った。


お人好しのせいで、貧乏くじを引くのはいつも僕だ。


初めはそれでいいと思ってた。

でも、やっぱ後悔するんだ。


それで今回こそ思う。


(もう、お人好しはやめよう)


次は自分のために自分がいい方向にいけるような選択をしよう、って。

でも次があるか分からなくなってきた。


「それより先にステータスを確認してみよう。生き抜くのが最優先だ」


エリスは最初にやっていた。

生田のステータスを見せてきたよな。


だから多分この世界ではステータスを見れるんだと思う。


(それと、気になることがある)



【ステータスオープン】

名前:ヨル シグレ

レベル:1

体力:15

魔力:15


スキル:呪詛返しLv9999(パッシブスキル)

称号:Sランク勇者


「よかった。レベルは上がったままなんだな」


それを確認してから僕はひとつの文字を思い出していた。


「そういえば、ここに来る前」


【呪詛返しに失敗しました】


「って表示出てたよな」


あれはどういうことなんだろう?


呪詛って呪いって事だと思うんだけど。


そう言えば言ってたよな?エリスは。


『【呪い反射】とかは範囲が狭すぎますよ?』


って。


(なぜ俺のスキルである【呪詛返し】っていう言い方をしなかったんだ?同じものだと思ってるのか?)


でも


(【呪い反射】と【呪詛返し】はべつべつのスキルだと思うんだよな)


同じスキルなら【呪い反射】を授かるだろうに俺が授かったのは【呪詛返し】


ということは。


(【呪い】と【呪詛】も違うものだと思う。同じならどちらかに統一したらいいもんな)


とは言え現状はわからないことだらけだ。


(このへんは要検証ということか)


それよりも


(【ケガレ洞窟】だっけ?ここを出ないとな)


ここ、あきらかにヤバそうな場所だし。


言葉にするならそうだな。

ダンジョンだ。


焦らず、ゆっくりといこう。

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