第11話 騎士団

 騎士団本部の中にある武器庫でダンロットは自身の使う武器の手入れをしていた。そこには数人の騎士が同じように武器の手入れをしている。


「なぁ、聞いたか。猛朱の魔導師が戻ってきたって」

「聞いたさ。また軍勢丸ごとひとつ消してきたんだろ」

 聞こえてくるエルシュについての話に、ダンロットはつい聞き耳を立ててしまう。


「猛朱の魔導師さまがいれば別に俺たちなんて必要ないんじゃないかって思っちまうよな」

「ほんとほんと。一人で何でもできちまうんだから騎士団なんていらないって」

「めんどくさい任務は全部行ってきてくんねーかな」

「そしたら俺たち楽だよな〜、でも仕事無くなっちまう」


 それはそれで困っちまうよな〜と、嫌味とも取れるような言葉にダンロットは拳を握りしめる。だめだ、ここでいちいち反論していたらキリがないし、何よりエルシュに迷惑がかかってしまう。


 けど、それでも。やはりダンロットは腹の虫がおさまらない。

 何が楽できるだ、どんな気持ちでエルシュが任務に出向いていると思っているのか。


「猛朱の魔導師って美人なんだろ」

「美人だけど冷たいってもっぱらの噂だぜ」

「過去に国ひとつ消しちまったって噂もあるだろ。きっと人の心が無いんだろうよ」


 怒りに我を忘れてしまわぬよう、思わずダンロットは歯を食いしばる。

「人の心が無いなら国の一つや二つ消すなんて簡単だろうさ、何とも思わないんだろうな」

 その言葉にダンロットがついに我慢できず反論しようとしたその時。


「お前たちは猛朱の魔導師に会ったことはあるのか」

 低く通る声がする方を向くと、そこには虚な目をして騎士たちを見るシュミナールがいた。


「だ、団長?!なぜこちらに」

「会ったことはあるのかと聞いている」

 驚く騎士たちに再度質問をする。その声は地を這うようなまるで内臓が震えるような声だ。


「あ、ありません」

「会ったこともない人間のことを予想と噂だけで判断するのか」

「そ、それは…」


「魔法は何も考えなしに簡単に出せるものではない、それは多少の魔法を扱えるお前達もわかっているだろう。猛朱の魔導師ともなれば扱う魔力は膨大なものだ。そして高等な魔法を繰り出すほどに自身への反動もまた大きくなる。それがどういうことかわからないわけではあるまい」


 言われた騎士達は黙り込んでしまう。


「何かを成すことに反動や代償が全くないことなどあり得ない。それはどんなに優秀な魔導師でも同じだ。むしろ優秀だからこそその代償の大きさは計りしれないし、それを本人もきちんと受け入れた上でのはずだ」


 その言葉にダンロットは思わず目を見開いてシュミナールを見つめる。


「軽率な判断と発言は騎士団にあるまじき行為だ。自分をきちんと顧みて自戒するように」


 ハッ!と騎士達は威勢よく返事をし、そそくさと部屋を後にした。


 残されたダンロットを見てシュミナールはふっ、と笑う。


「お前の言いたかったことを言いすぎてしまったか」

「そんなことありません!むしろありがとうございます。俺、あのままだったらあいつらのこと殴ってたかもしれません」

「それは困るな。」


 威勢のいいダンロットの様子にくつくつと笑うシュミナール。


「そういえば団長はどうしてこちらに?」

「あぁ、お前にエルシュのことで話があったから呼びに来たんだ」


 と、突然魔法省の方角から警報が鳴り響く。

 シュミナールとダンロットは目を合わせて部屋を走り出た。




――――――――――――――――――


【あとがき】


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