冒険者と痴話喧嘩
一通りメリースの話を聞いた後、ルミナは口を開いた。
「ただの痴話喧嘩」
「なっ……ただのって何よ! マジで怒ってるんだから」
ストレートに言うルミナに、メリースはむくれる。
「好きな人に強いも弱いも関係ない」
レニーに目を向けながら、ルミナが言う。レニーは心の中で同意した。
「ノアにとってキミはいつまでもお姫様なんでしょ」
「お姫様ってねぇ! …………へ?」
お姫様と単語を繰り返し、メリースの顔が赤くなっていく。
「え、アタシが? ノアの?」
メリースが自分を指差す。レニーもルミナも、同時に頷いた。本人がここにいれば間違いなく頷くだろう。
「……えへ」
メリースは身を縮めながらもじもじとしだす。
「一回ちゃんと話しなよ。戦闘でどうこうじゃなくてさ」
「でも……ノアにもっと頼られたいし、どうすればノアにわかってもらえるかな」
「キモチ、伝えればいい」
ルミナがキッパリ返す。
「ペアだからわかる。なんて思わず。言ったらいい」
メリースは人差し指を合わせながら、心配そうに言う。
「話をするって言っても……ずっと冷たい態度取っちゃってたんだけど大丈夫かな? 嫌われたりとか」
「ない」
ルミナが断言する。
「大体ヴァレンティーナの時もそうだけどなんで別々でオレのとこに来る? 二度手間なんだから二人で話し合って困ったら二人で来なよ」
「それは……アンタが話しやすいし変に話をばら撒くこともないから……って。待って……二人?」
「うん」
メリースはキョトンとする。しばらく固まっていたので、ルミナがメリースの目の前で手を振った。
「ノアが来たの? アンタのとこに? 昨日?」
「昨日だよ」
「……それでいなくなったのね」
頬を赤くして恥ずかしそうにするメリース。レニーはメリースが何を思ったのかまではわからなかったが、この感じを見ると仲直りできそうであった。
「メリースが他の男にとられないか心配してたよ」
「なっ! そんなことあるわけ無いでしょ!」
「ないなら早く話をしてやれ。そんだけお互いに好きならすぐ元に戻るでしょ」
メリースはしばらく唸ってから観念したようにため息を吐いた。
「……わかったわ。アタシも変な意地張ってたみたい。ありがと、付き合ってくれて」
メリースが立ち上がる。
「付き合わせたお詫びに払っとくわ」
「待って」
立ち去ろうとするメリースにルミナが呼び止める。ルミナは真剣な表情で重々しく口を開く。
「ボク。まだ何も頼んでない」
メリースとレニーでズッコケた。
──次の日、やたら上機嫌なノアと落ち着かない様子のメリースを見かけた。
レニーは何も聞かなかった。
とりあえず問題が解決すればいいのだ。
○●○●
一気に酒を飲み干してフリジットは笑顔でジョッキを掲げる。
「かーっ! デジーさんもう一杯追加ー!」
向かい側に座っているレニーは頬杖を付きながらちびちびとエールを飲んでいた。
「この間ノアさんとメリースさんがケンカしてたの知ってる?」
キラキラとした瞳で尋ねられる。
「知ってる」
「いやぁいいよね。ケンカするほど仲が良いってああいうのを言うのかなー! 仲直りしたら距離感縮まっててさーもう可愛いなって」
チョコを頬張って、頬に手を当てるフリジット。実に楽しげであった。
「いいなぁケンカとかしてみたいなぁー」
「えぇ……どこがいいのさ」
いざこざは面倒だ。レニーがそう思いながら聞くと、フリジットは鼻を鳴らす。
「だってさぁ。本音をぶつけ合ってもっと仲良くなったってことでしょー?」
「ならしてみるかい?」
なん抜きなしにレニーが提案するとフリジットはニッコリしたまま、
「へー、レニーくん私とケンカできるんだ」
と低い声で言った。
……想像してみるが勝てる気がしなかった。
降参の意を込めて両手を挙げると、フリジットが吹き出す。
レニーも釣られて笑った。
「ケンカしなくとも十分大好きですよーっだ」
そう言って舌を出すフリジット。
「そりゃ光栄だ」
いつか終わるものでも、今続いていること。続いていくんだと思えることに心の底から感謝しながらエールを飲んだ。
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