冒険者と好み
「キミ、随分髪型違うのにしたね」
報告書を提出しながらレニーはフリジットにそう言った。
フリジットは胸を張りながら耳をなぞる。
「えっへん! 思いきって切ったんだー! ショートカットの私も似合うでしょ」
「なんで今嘘ついたかわからないけど似合ってるよ。印象がサッパリするね」
「あれバレちゃった?」
てへ、と片目を瞑るフリジット。パッと見は髪を切って短くしたように見えるが物言いと態度的に結んだりしてショートカットに見せているのだろう。
「驚かせようと思ったのになぁ」
「驚いてはいる。凄いよ技術が」
「がんばりました、褒めて」
「凄い凄い」
「ありがとー」
レニーはフリジットの隣に目を向ける。
隣のモーンはニコニコしたまま、他の冒険者の対応をしている。もうすっかり馴染んでいた。そも、最初からあまり違和感がなかった。
「あの、さ。レニーくん」
目を泳がせながらフリジットが言う。
「好きなものって、ある?」
「好きなもの?」
フリジットが頷く。
「うん。お世話になってるからヴァレンティーナのとき渡そうと思って。嬉しいでしょー?」
「手間だし、別に用意しなくていいよ。仕事だし」
もらえること自体は嬉しいが、忙しい仕事の合間をぬってあれこれ考えるのも面倒だろう。そう思って返答すると、フリジットにドン引きされた。
「うわードライ……」
「レニー様。せっかく用意してもらえるんですから言うだけ言ってみては? タダですし」
モーンが明らかに困り顔になりながら促してくる。レニーは顎に手を当てて、考え込んだ。
……といわれても。
「ほしいものは買うし……」
「た、食べ物とか」
「大体好きだね……」
「ほ、ほら最近買い直したいものとか」
「いやぁ、揃えたんだよね……ついこの間」
特に何もなかった。
「何か思い出のものとかないんですか。思い出の味とか」
モーンの問いに記憶を掘り起こす。
「うーん……ラム肉の燻製とか、カエル肉のソテーと塩レモンのエール」
完全保存食や酒場の料理でしかなかった。
「おっわぁ……」
「ちなみにレニー様はプレゼントするときの基準とかあるんです?」
その質問は、自分の好みよりも答えやすかった。
「気兼ねなく捨てられるもの」
「は、はぁ」
「例えば、どんなものなの」
「特別なものじゃないよ。普段使いできていつかガタがきて捨てる理由ができるやつとか食べ物とか、なくなっても困らないやつ」
飾らなければいけないものや売ることをためらうようなものは渡したことがない。そも、プレゼントすることが少ないのだが。
冒険者なんてフラッといなくなる人間だ。渡すものなんて限られている。相手を気負いさせないように捨てる理由がつくりやすいものと、安くて捨てやすいもの等を意識して探す。
それだけだ。
「わかった。参考にするネ」
棒読みでフリジットが言う。参考になる話をした気がかけらもしないので、納得の反応だった。
「当日、楽しみにしてて」
にっこり微笑むフリジットに、レニーはぼんやり頷いた。
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