冒険者とデュアルウィールド

 レニーの放った突きは大盾に防がれていた。レニーとボーガルの間に、大盾とメイスを持った男が立っている。レニーの正面には大盾の男と、大斧を持った戦士系の男、魔書を持ったおそらく魔法使いの男、そしてボーガルの計四人がいた。予想ではあるが、この四人がこの集団におけるメイン戦力だと、レニーは睨んだ。他はレニーたちを囲うように散らばっている中、まるでパーティーメンバーかのようにポジションが決められていたからだ。


「そんなヤワな剣で俺の盾は貫けねえぞ。この剛盾ゴウジュンの――」


 瞬間、盾を起点にして爆発が起こった。大盾を持った男が抵抗する間もなく吹っ飛び、木に背中を叩きつけられる。大盾を持った男は吐血し、そのまま地面に座り込んだ。死んだかはわからない。だが、少なくとも戦闘は続けられないだろう。


「あーごめん。話長かったから」


 レニーに影ができる。背後に、剣を持った禿頭の男が立っていた。


「もらったぁ!」


 両手で剣を振り下ろそうとする禿頭。しかし、レニーは禿頭の影を利用して、影の女王に捧ぐのスキルを発動させた。大きく振りかぶったせいで晒すことになった禿頭のわきに影の刃が伸びる。そして、刺し貫いた。


「ぎゃああああぁあああ」


 悲鳴をバックに、レニーは横に回り込む。


 シャフトを禿頭に向け、魔力の散弾を撃つ。


「スタッカークレー」


 そして禿頭をこの場から追放した。全身穴だらけになった体が、いとも簡単に吹っ飛んでいった。


わざわざ・・・・大半に背中を向けたのは」


 指を後方に向けて、影の刃をシャドーハンズに変形させて飛ばす。


「こうすれば隙に見えるからだ」


 敵の存在を把握してるのに、何も考えず突っ込むわけがない。

 影の手が無法者のひとりを捕まえる。たった今、アルリィとエルを襲おうとしていたやつだった。


「やぁこんにちは」


 レニーは指をくいっと引き寄せる動作をした。無法者の足をシャドーハンズが引っ張る。無法者は抵抗しようとするが、勢いは衰えずにレニーの間合いに引きずり込んだ。


「うおおぉお!」


 雄たけびを上げながら、無法者の顔が絶望に染まる。

 その首に向けて、剣を振るう。


「そしてさようなら、だ」


 レニーはいともたやすく、無法者の首を刎ねた。


 残りの無法者たちがざわめく中、剣を払い、血を落とす。レニーはひと息ついて、納刀した。


「たかがひとりだ! 何してやがる」


 大斧を持った戦士系の男が突撃してくる。振り返り、横薙ぎの斧をかわす。攻撃は無論、一撃で終わるわけがない。攻撃を避け続けながら、レニーは魔書を持つ魔法使いの動きを観察した。

 明らかに攻撃魔法の準備をしている。


 レニーは杖のストッパーを押す。


「三」


 シリンダーを右側に出したと同時に、カートリッジを、エンチャントカートリッジに入れ替える。


「二」


 シリンダーを戻し、ストッパーをかける。

 そして魔力を込めた。


「一」


 魔法使いが魔書を開く。


「どけ! ギーダ」


 ギーダと呼ばれた戦士は口の端を上げると、攻撃を中断し、素早く後退する。ギーダが隙を作り、準備を終えた魔法使いがトドメを刺そうというわけだ。

 しかし、ボーガルが慌てて魔法使いに叫ぶ。


「待て、ベイス! 魔力を防御に――」

「――ゼロ」


 火属性の魔弾を撃つ。二発連続だ。

 一発目はあえて弱めに、そして二発目を本命として放った。

 魔法使い系のロールは接近されたときの緊急時用に結界魔法を張っている。それで予想外の攻撃を防ぐのだ。その結界にダメージを与えるための一発目。そして相手の体ごと破壊するための二発目だった。


 魔法を発動させる前に、レニーの魔弾がベイスに着弾し、爆発した。煙が晴れると、上半身が爆発してなくなったベイスの死体だけがあった。


 攻撃の瞬間はある意味無防備だ。体はハンターのスキル、無防備な相手への攻撃を強めてくれる効果の発動条件を満たしたと認識したらしい。いつもより手ごたえがあった。


 のんびりカートリッジを元に戻す。


「ふぃー」


 今度はレニーの頭上の方から矢が飛んでくる。それをステップで避けながら、シャフトをそこへ向けた。


 魔弾を連射する。


 五発ほど撃ったか。短い悲鳴が聞こえ、木の上からマントをつけた男が落ちた。頭から落ちて、首の骨を折る。


「……こ、これが賊狩り」


 誰かが唾を呑み込む音がした。


「クソォ!」


 またしても戦士系であるギーダが突っ込んでくる。


「生憎、パワー不足は最近解消してね」


 レニーは影の女王に捧ぐのスキルを発動させながら、背中から剣を抜く。そして、剣を己の影に突き刺した。剣に影を纏わせる。

 そのまま影の尖兵のバフをかけた。


 両手で振るわれる渾身の一撃。


 それに対抗するように、影を纏った剣を振るう。


 激しい金属音と肉を裂く音が響いた。

 レニーの剣が、ギーダの攻撃を上から塗りつぶし、体を上下真っ二つに斬り裂いていた。


「ばか、な」


 吐血し、ギーダが倒れる。


「ひいぃ」


 ひとりの無法者が逃げ出そうとレニーに背を向ける。レニーは剣の柄を持ちかえた。刃と同じように真っすぐ伸びた柄は、刃の近くまで行くと斜めにその形状を変えている。そこを持つことで、刃が拳の延長線上に来るような持ち方に変わるのだ。


 そして剣先を逃げた無法者の背中に向ける。


 ――魔弾が放たれた。


 剣先からカースバレットが飛び、無法者の背中に穴を空ける。


「……逃がすとでも」


 周りを睨みつける。誰もが身をこわばらせた。


「まさか、ドランが盾構えてたのにぶっ飛ばされたのは」


 ボーガルの問いに、にべもなく答える。


「うん? あぁ、ゼロ距離で魔弾を撃った」


 左手にクロウ・マグナ、右手に剣。

 持つものは違えど、どちらも魔弾を放てる。そしてクロウ・マグナの構造の一部を、右手の剣は備えている。


 ミラージュ。

 

 それがこの剣の名前だ。


「俺と同じ二刀流デュアルウィールドってわけか」

「まぁね」


 レニーは不敵に、両手の武器を構えた。

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