冒険者と地下牢
ベラベラと吐き出される下賎な話に辟易としながら盗賊に連れられる。
やれこの間抱いた女はだの、今いる女と比べてレニーはどうだろうだの……正確にはリディアだが。本当にウンザリするような話ばかりだ。
村からだいぶ離れたのでここらで正体を明かして誰かひとりを脅し、本拠地に案内してもらって乗り込んでもいいのだが、それだと不意打ちにならないというか手間なので大人しくついて行っていた。
無論、手を出してきたら容赦しないが。
やがて舗装された山道に入り、登り続ける。木々に囲まれた道を通り抜けると、ひらけた場所にたどり着いた。
村だ。いくつかの家々が点在しており、中心には屋敷がある。屋敷に連れて行かれるようだった。
近くを川が流れていた。水には困らなそうだ。狩りをすれば肉も得られるだろう。
畑もある。育てられている野菜の質はいまいちそうだが、自給自足の生活をできているようだった。
屋敷の門番らしき人間とリーダーが話し合い、レニーが引っ張りだされる。
屋敷の扉が開き、中にいたのは右目に眼帯のある女だった。
鋭く赤い瞳に、すっきりとした顔。乱雑に切られた黒髪。肌は白く、体は細身だ。黒いズボンに、白い上着を着ており、腕と腹がむき出しだった。ぱっと見るだけども引き締まった筋肉がついている。
「来い」
レニーは周りを見渡しながらも少しずつ女に歩み寄った。
縄を掴まれ、強引に体を寄せられる。
「ひっ」
レニーは後ろに下がろうとするが、それを襟を掴まれて阻まれる。
「さっさとしろ」
氷のような温度のない声だった。
「は、はい」
女に引っ張られて、屋敷の中を歩かされる。後ろで扉が閉まる音がした。
廊下を歩いていく。そしてすぐの階段のところで、女はレニーの体を押し出すと、その腹を蹴った。
「けほっ!?」
下り階段を突き落とされる。
バレない程度に受け身を取ったから問題ないが、いきなり随分な扱いだった。
随分と暗い地下だった。木製の屋敷と明らかに毛色が違う。
スキルのフクロウの目で暗闇を見る。
「立て」
だるそうに降りてきた女がフードを掴み、無理矢理立たせてくる。
乱暴な人だな、とレニーは思った。暗い道を進む。
左側は壁だったが右側が牢屋になっていた。四部屋分ほど空室が続く。行き止まりとなる五部屋目には女がいた。鉄格子の間からでは性別くらいしか認識できない。
レニーは真正面の五部屋目に放り込まれた。乱雑に投げられ、地面を転がる。
「そこで待ってろ」
牢屋の扉が閉められる。無論鍵がかけられた。
女が離れていく。
薄暗い牢屋の中で、ため息を吐く。
「ねえキミ」
声をかけられて目を向ける。
憎悪に満ちた瞳が、レニーに向けられる。おそらく憎悪は盗賊に向けられたものだろう。長い年月で染み付いてしまったらしい。
粗末なツギハギと穴だらけの服に、傷ばかりの体。
髪は痛みきっていて、獣のような瞳と息遣いだけが生気を感じさせた。
レニーとは違い、壁に繋がれた手枷をつけられている。
「新入りだよね」
「うん」
「名前は」
「……リディア」
「リディア、か。いい名前ね」
まぁ自分のものではないのだけれど。
「私はセツ。ねえ、ここで生きるアドバイスほしい?」
「あるの?」
「簡単よ、抵抗しないこと」
カチャリと手枷が鳴る。
「快楽におぼれて後先なーんも考えないの。そうすれば牢屋になんか入れられないし、苦しい思いもしないで済む。最初は痛いだろうし、苦しいだろうけど、その内それも良くなってくるから」
「……そういう割に牢屋にいるのはなんで」
ギリと歯ぎしりの音がした。
「仲間を殺されたのよ! 死んでもあいつのモノになんかなるもんか!」
あぁ、冒険者か。
レニーは納得した。たまたま容姿を気に入られたのだろう。最後の生き残りか、はたまた他の冒険者は屈したのか。
「出れたら復讐するの?」
レニーの問いにセツは首を振った。
「無理よ。私はパール。あいつらは元トパーズ級冒険者だもの」
「元トパーズ級?」
ということはつまり。
「全員がカットトパーズの実力者よ。シガットだけじゃない。あんたをここに連れてきたファングも」
「……へぇ、ファングっていうのか。他のメンバーは」
「聞いてどうするの」
「参考までに」
レニーは手の縄を解いた。手を自分の口に突っ込み、舌の裏に仕込んでいた針金を出した。
セツの手枷にある鍵穴に針金を突っ込み、鍵を開ける。
「……え」
「うーん、鉄格子の方はどうするか。どうせ来るしなぁ」
解放された己の両手を見て、セツは唖然とする。
「あんた……何者?」
「ただの冒険者さ。ちなみにリディアは替え玉になってあげた子の名前」
それで、とレニーは続ける。
「他のメンバーは?」
「まさか勝つ気なの? 無理よカットトパーズのやつらよ」
「情報さえあれば」
レニーは鉄格子の隙間から南京錠へ針金を持った手を伸ばす。
そして鍵を開けた。
カラン、と。音が響いて扉が開く。
「よし、あとは待つか」
レニーは手を叩き、部屋の角に座り込んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます