冒険者と原稿
数日後。
ギルドの掲示板近くに小さなテーブルが置かれ、「ギルドロゼア取材原稿」という名のスペースができていた。
紙の束になって置かれたそれは冒険者達が行列を成して読む……ほどではなかったが、ちらちら読む人間がいた。
パーティー単位で「おい、これ俺らのことだぜ」とか話をしていたり、「お前のこと話になってるぞ」と他の冒険者同士で交流し合ったり、読んだあとの行動は様々だ。
レニーは軽く紙の束をペラペラめくり、受付嬢の「こんな冒険者はいやだ」のコーナーや、自分とルミナのページに捏造がないか確認して、あとは適当に読み流した。
レニーがポストに提案したのは、酒場で酔っ払って気分の良くなっている冒険者と相席をし、英雄譚のように自慢話を語らせるように煽るというものだった。
こんな場所ができているあたり上手く行ったらしい。記者と言っていたがそれに適したスキルを持ち合わせているだろう、会話していてあまり不快感もなかった。
酒に酔って正常な判断を失った冒険者ならいくらでも話すだろうし、本になると聞けば自分の名を売れる。
依頼についてくるわけでもないから面倒事というほどでもない。依頼を受けようとする冒険者の思考を邪魔することもない。
話しかけやすい冒険者を見分けるのは彼女の力量だ。
相当酔っていたメリースを捕まえられたらしくツインバスターの記事もあった。リンカーズのダイナドラゴ討伐の記事もある。
大々的だったのはワイルドハントの記事だろうか。受付嬢だけではなく他の冒険者の感想や戦ったメリースやノア、ルミナの話も事細かにのっている。無論、レニーも質問には答えたのでレニーの話ものっていた。
ところどころ誤字脱字があったり、ミスらしい文法があるのはご愛嬌だろう。
そもそも原稿であって完成品ではない。
これから冒険者に読んでもらったりギルドの精査を受けて徐々に推敲されて洗練されたものになってから製本されるのだろう。
自分のことが記事にされるのはなんだか実感がなさすぎて気持ち悪い気もするが、ギルドの宣伝にもなるし、しっかりと内容に捏造や過剰表現がないようにギルド職員のチェックも入るだろう。文句はない。
冒険者側で不満がある場合は支援課へ来るようにと注意書きされている。ギルドから冒険者側にもいくらか配慮されているらしい。
内容の精査までフリジットの仕事だろうか。
レニーは掲示板から商品配送の護衛の依頼を取ると受付に向かう。
「これ受けるよ」
赤髪の受付嬢に依頼書を渡す。
「護衛依頼ですね。冒険者カードの提示をお願いします」
「はい」
すっと冒険者カードを提示して、依頼の手続きを済ませる。
「依頼人はこの宿にいらっしゃいますので直接お話を聞きに行ってください。こちら証明書になります」
「ありがとう」
依頼の受理を済ませてギルドを出る。
本が出たら記念に買ってもいいかもしれない。
ソロ冒険者レニーはそう思った。
数ヶ月後、紆余曲折を持ってその本は発売された。
題名は、冒険者たちの小さな英雄譚。
売れ行きはレニーには興味なかったが、少なくともギルドでは非常に好評になる出来であった。
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