冒険者と三人の戦い
ヘラはハルバートによって雑魚を薙ぎ払う。片腕しか使えないとはいえ、自分もトパーズの冒険者だ。ただの盗賊に後れを取ることはない。
己の腕をへし折ったのが槍使いの賞金首。
仲間の一人、支援術使いのラミを不意打ちで殺したのが、短剣の賞金首。
剣使いのドルアと、戦士のギラはヘラを逃がすために囮になった為、誰に殺されたかはわからない。だが、間違いなく技量も強さも、帰ってこなかったドルアとギラが、賞金首三人に劣る冒険者だとは思えなかった。
支援術使いのラミでさえ不意打ちでなければ簡単に死ななかっただろう。
全員、殺したい。
怒りに身を任せながら、力をあらんかぎりにぶつける。
冒険者には死が付き纏う。こうして自分が仇討ちに立ち会えるのさえ幸運だ。抑えねばならない。
賞金首に飛び掛かりそうになりながらも、八つ当たりのごとく雑魚を薙ぎ払った。
短剣の賞金首とラフィエが打ち合っている。
ラフィエはトパーズに上がったばかりと聞いたが、熟練のトパーズと遜色ないくらい熟練されていた。
賞金首を相手にしながらも雑魚を倒していた。
百はいたであろう賞金首たちの部下はもういなくなった。
賞金首三人とその部下らと真正面から戦えていれば、ヘラのパーティーメンバーでもこの結果は迎えられただろう。ただ、ヘラのパーティーは罠は凌げても、それによって意識を逸らされた横道からの加勢に対処できなかったのだ。
挟み撃ちと、さらに最後にやってきたブオグはトパーズの冒険者よりも実力が上だった。
そして、いつもの野盗討伐と同じだと油断した結果が、ヘラを残してのパーティー壊滅だったのだ。
今回の手口と同じようなやり方を、ヘラたちが依頼を受けたときにも受けたのだ。それをレニーに伝えようとしたが、レニーは断った。そして一人で先へ進み、罠を破壊し、手札を引き出した上でブオグを抑えに行った。
ヘラはもう賞金首との戦いに注視できるようになった。
斧使いと槍使いの賞金首はフリジットが相手をしていた。加勢すべきはそっちのはずだが、言われたのはラフィエのサポートだ。
短剣の賞金首に意識を向ける。明確に仇である相手で心底良かったと思う。
ラフィエはちらりとヘラの状況を確認すると素早く短剣の賞金首から離れた。短剣の賞金首が空振りをし、隙だらけになる。
周りをよく見ている子だ。
短くハルバートを持つ。そして突き出した。
手を離した勢いで投げるようにハルバートが延び、突きを放つ。
短剣の賞金首から見ればラフィエの背中、つまり死角からいきなりハルバートが飛んできたように見えただろう。しかも空振りして硬直した状態で、だ。
「ぐえ」
ハルバートの穂先が短剣の賞金首の喉に突き刺さる。すぐさま引き抜くとそのままハルバートで胸を割いた。
念には念を入れて確実に殺したかったからだ。
「はぁ」
倒れる短剣の賞金首を見下ろしながら、ヘラは息を吐く。
――やったぞ、ラミ。
「ヘラさん、奥に行こう!」
ラフィエは剣を納めながら声をかける。そして、レニーが消えていった奥地へ駆けだす。
ヘラは釣られるように走り出した。
○●○●
斧が振り下ろされる。
フリジットは何食わぬ顔でその一撃を弾いた。手甲から響く衝撃は、鍛え抜かれたフリジットの体には何も響かない。
「すぅ」
目の前に、斧使いの賞金首と槍使いの賞金首。
冒険者の等級で言えばトパーズ相当だろうか。とはいえ、レニーのトパーズ時代に比べれば弱いだろう。
「やるじゃねえか、嬢ちゃん」
斧使いが下品な笑みを浮かべながら両手で斧を叩きつけてくる。
フリジットはその側面を正確に裏拳で弾く。バランスを崩した斧使いに、拳で突いた。壁まで斧使いが吹っ飛び、地面を転がって頭をぶつける。
「がはっ」
「おいてめっ、女相手になんてザマだよ」
槍使いが怒鳴り、槍を下段に構える。
「おれが行くっ」
鋭い突きを放つ槍使い。迫る穂先を、フリジットは片手で掴んだ。
「へ?」
間抜けな顔に拳を入れる。槍使いも斧使いと同じように地面を転がって壁に頭をぶつけた。
フリジットは一歩も動いていない。
ドラゴン種相手でも真っ向から殴り合えるフリジットだ。そこらへんの盗賊に遅れを取るわけがない。
隙を見て飛び掛かってくる雑魚なんて避けるまでもなくデコピンで気絶させていた。
頭を振りながら斧使いも槍使いも起き上がる。
さすがに軽く殴った程度では終わってくれないらしい。
「二人とも来なよ、遊んであげるからさ」
「くそがっ」
「行くぞ、オラァ」
斧使いと槍使いがほぼ同時に攻撃をする。上段からの振り下ろしと薙ぎ払い。
フリジットは両手をかざす。振り下ろされた斧の刃を受け止め、槍も掴む。
レニーがこの場にいたとすればきっとこう口にするだろう。
もう彼女一人でいいんじゃないかな。
とはいえフリジットは本業は受付嬢だ。臨時で緊急の依頼に出ているだけで冒険者の成長を見守る立場なのだ。仕事を奪いすぎるのは良くない。あと単純に仕事量が多くて辛い。
「ウフフ」
ニッコリ。フリジットは笑う。
すると釣られたように斧使いも槍使いも笑った。
グシャ。
とても金属から出たとは思えない音を響かせて、斧の刃は砕け、槍の柄が折れた。
握り潰したのだ。どちらも、フリジットの握力のみで。
その様子を見て、賞金首の二人の顔がみるみるうちに青ざめる。
「お縄についてくれるかな?」
フリジットが優しく降伏を促す。
賞金首二人は顔を見合わせ、地に額をこすりつけた。
「ハイ、喜んで!」
息ぴったりで、二人とも降伏した。
フリジットは振り返る。首を貫かれ、胸を斬られて死んでいる短剣の賞金首と、倒れている雑魚たち。それよりも先の、レニーの消えた洞窟の奥を見る。
この場に生きているのは二人の賞金首と運よく気絶で済んでいる部下たち、そしてフリジットだけだった。
「さて、あとは任せたよ」
資格は保有していても冒険者は引退したのだ。十分仕事はしたし、残りは現役たちにがんばってもらおう。
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