冒険者と道中
レニーの隣にはフリジット、その隣にヘラ・スレイが座っていた。向かい側にはラフィエと戦士のライ、射手のテッラ、魔法使いのマールがいる。
ブオグは海岸の洞窟を拠点にしているらしい。馬車であれば一日もかからずにつく場所だ。近くに依頼主のいる村もある為、ライとテッラ、マールは旅の経験の為の付き添いだ。実際ブオグの本拠地に乗り込むのはレニーとフリジット、ラフィエにヘラの四人となる。
「レニー・ユーアーン」
「なんだい」
ヘラが話しかけてきたので返事をする。
「ありがとう」
「勝手はしないこと。ラフィエと二人一組で行動すること、繰り返すけどそれで納得してもらう」
ヘラは強く頷く。
そう、結局レニーはヘラを連れていくことにしたのだ。片手でも盗賊相手に遅れを取ることはないだろう。
ブオグを含めた賞金首四人。その相手はメインでやらせない。あくまでサポートだ。
「怒りに身を任せるようならオレがキミを殺すから」
杖を叩いて、レニーは冷たく言い放つ。
和を乱すものは生かしておく価値はない。極端な言い方だが、レニーは時にそういう判断をする男だ。フリジットへの付き纏い行為をやめなかったジェックスというトパーズの男を、レニーはトパーズ時代に殺している。事故にみせかけてであるし、殺されかけたのには違いないから正当防衛でもあるが。
多少の横暴は目を瞑る。だが、更生の余地がない、周りを危険にさらす行為を繰り返す人間は冒険者にいるべきではないと思っている。そういうやつは爆弾のようなものだ。何かで自爆して周りを巻き込む前にこっちで処理するに限る。
無論、冒険者同士の殺し合いは認められていない。殺害は立派な犯罪だ。冒険者同士の事情を鑑みた上で正当防衛等認められることもある。だからレニーも積極的にそういう手段に出たことはほぼない。
「邪魔者はいらない」
レニーの厳しい物言いに、ラフィエは小さく悲鳴を漏らし、ライたちは肩を震わせた。
真面目な顔で聞いているのはフリジットだけだ。
今回はやたら質の高い盗賊団だ。上位のモンスターを相手にするよりも厄介だとわかっているのだろう。
ヘラを参加させた理由は主に二つ。
パーティーがブオグの盗賊団の犠牲になった為に仇を討ちたいこと。それによって無茶をしないよう監視を兼ねる為。
もう一つは一度負けたパーティーのメンバー、しかも怪我が治りきっていないなら十二分に相手の油断を誘えること。
その説明は既に全員にしてある。
やがて、村にたどり着く。
全員で降りると村長らしき老人が出迎えてくれた。
「おぉ、あなた方がブオグを退治してくださる冒険者さんか」
両手を広げて、糸目の老人は眉を上げる。馬車から降りてきたのがレニーを除き、若い冒険者か女性だったからだろう。
「随分と若い冒険者さんたちだな、お嬢さんがリーダーかい?」
レニーの顔を見ながら、老人が言う。
前言撤回。レニーもふくまれていた。
「自分は男です。レニー・ユーアーン、と申します」
手を差し出すと老人は握手をかわした。
「それは失礼。村長のビディンじゃ」
村長は手で指し示しながら村を案内してくれた。通り過ぎる家の窓から、のぞく顔がいくつも見える。
「ブオグは三日後に若い娘と食料を差し出すように脅してきたんだ。できれば早急に対処してもらいたい」
村長はレニーに縋るように手を合わせた。レニーは頷く。
「今夜、行きましょう。三人仲間を村にいさせますんで、護衛にはなるでしょう」
「となると四人でブオグのところに?」
「えぇ。カットサファイア……トップクラスの冒険者もいるので大丈夫です」
レニーがフリジットを手で示すと、フリジットは頭を下げる。
「それは頼もしい」
村長は奥の家にたどり着くと振り返る。
「ここがわしの家だ。ひとまず旅の疲れを癒しておくといい」
村長の言葉に、全員が頷いた。
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