第20話 手料理

 カロンとユースが雨宿りをして少し経つと、雨がやんだ。雨が降っている間、ずっとユースはカロンを抱きしめたままで、カロンは心臓がドキドキと鳴りっぱなしだった。

 雨がやむと、ユースは静かにカロンを腕の中から解放する。カロンはドキドキする胸をごまかすように、ユースへ笑顔を向けた。


「通り雨だったみたいですね。すぐにやんでよかった」

「そうだな」


 ふとユースがカロンを見て手を伸ばす。


(へえっ?何?)


 カロンが驚くと、ユースは手をかざして風魔法を使う。カロンとユースの周囲に生暖かい風が吹いて、二人の服や髪があっという間に乾いた。


「濡れたままだと風邪をひく」

「あっ、そうですね!ありがとうございます」


(ユースさん、不愛想だけどいつもちゃんと色々なことに気を配ってくれてる。いつもユースさんの優しさに助けられてるな)


 カロンの心がほわほわと暖かくなっていると、突然ぐうーっとお腹が鳴る。


(どうして!このタイミングで私のお腹は鳴っちゃうの!)


 思わずユースを見ると、ユースは一瞬目を丸くしてからすぐにククク、と静かに笑い出す。


(あっ、笑ってる……!)


 楽しそうにカロンを見ながら、ユースは口を開いた。 


「ここで一旦昼にしよう」

「そうですね、レーヌさんからもらったお弁当がありますから食べましょう」


(ユースさんが笑って楽しそうにしてくれるなら、お腹が鳴ったのも悪くなかったかな、恥ずかしかったけど)




「いただきまーす!」


 近くの拓けた場所に持参したシートを広げ、カロンとユースは昼食を取り始める。レーヌからもらったお弁当にはサンドイッチや空揚げ、卵焼き、角切りフルーツなど色とりどりで、手軽に食べられそうなものばかりだ。


「レーヌさんのお弁当、美味しい」


 カロンは嬉しそうにそう言って、もぐもぐと頬張っている。


(頬にいっぱい詰め込んで、まるでリスのようだな)


 カロンを見ながらユースはフッと笑い、サンドイッチを一口かじる。


「レーヌさんの料理は本当に旨いな。宿で食べた食事も美味しかった」

「ですよね!レーヌさんの料理目当てにあの宿に泊まるお客様も多いんですよ。私もレーヌさんみたいに料理が上手くなりたくて、宿に泊った時は料理を教えてもらうんですけど、レーヌさんみたいな味はやっぱり出せなくて」

「カロンは自分で料理をするのか」

「はい、なるべく自炊するようにしてます。その方が安上がりだし、体にもいいかと思って。それに、料理するのってなんとなくストレス解消にもなるんですよ。無心で材料を斬ったり、煮込んだりすると頭がクリアになる気がして」


 ほう、とユースはカロンの話を聞きながら弁当に手を伸ばす。


「偉いんだな。俺は食にあまり興味がないから外食ばかりだし、いつも最低限のものしか口にしない。でもカロンの手料理なら食べてみたい」

「ユースさんは体が資本のお仕事なんですから、栄養バランスとか考えた方がいいですよ。今度作りましょうか」


 深く考えずにそこまで言って、カロンはハッとなった。


(私、何を自分から料理作りましょうかだなんて口走ってるの)


「あ、いや、でもレーヌさんみたいに美味しいかどうか保障はもてないので……」

「ぜひ作ってほしい。カロンの料理が俺は食べてみたい」


 ジッと見つめられながらユースにそう言われてしまい、カロンは思わず赤面してしまう。だが、カロンが返事をするまでユースは視線をそらさない。


「わ、かりました……あまり期待しないでくださいね」


 カロンの返事に、ユースは満足げにうなずいた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

鉱石花〜愛を知らない元騎士の傭兵は捨てられ令嬢の女店主を守りたい 鳥花風星@12月3日電子書籍配信開始 @huu_hoshi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画