第8話 真実の愛

「この間は君が採掘場に行く時に声をかけてくれと言った。その時に傭兵として同行するつもりだったが、同行するだけではなく、この店自体の傭兵として雇ってほしい」


 ユースの言葉に、サインズとカロンは目を合わせて首をかしげた。


「あ、あの、ユースさんはそれでいいんですか?他にもお仕事があるんじゃ……」

「今はちょうど仕事に空きができている。何も問題はない」

「ユースがこの店の専属の傭兵、いや、傭兵というよりもここでは用心棒か。そうなるなら、おかしな客は減るかもな!確かにそれはいい提案だ!」


 サインズがユースの肩に腕をかけて嬉しそうに笑う。


(そ、それは確かにありがたいけど……)


 サインズの言う通り、ユースがこの店専属の用心棒になってくれれば、ひやかしの客は減るだろう。もしかしたらいなくなってくれるかもしれない。だが、腕の立つユースをここに常在させておくのはなんだか申し訳ない気もする。そう悩んでいると、ユースがカロンの目の前に来た。その美しい蒼色の瞳はカロンを射止めて離さない。


「君が嫌でなければお願いしたい」

「……えっ、そんな嫌だなんてとんでもない。ユースさんがいいのであればこちらはもちろん問題ないですけど。でも本当にいいんですか?」

「ああ、俺がそうしたいんだ」


 有無を言わさないユースのその迫力に、カロンは根負けした。


「早速明日からここに通ってもらえよ、カロンちゃん。ユースもいいだろ?」

「もちろんだ」

「あ、ありがとうございます!」


(なんだかとんとん拍子に話が進んでびっくりしちゃうな。しかもこんな強くてかっこいい人が店に常在するなんて、なんか緊張しちゃう)


 ドキドキと高鳴る胸を隠しながらチラリとユースを見ると、しっかりと目が合う。その瞬間、ユースがほんの少しだけ微笑んだ。


(うっ、イケメンの微笑の破壊力っ!)


「あ、そ、そういえば、ユースさんに渡したいものがあったんです!ちょっとまっててくださいね」


 ユースの微笑みの破壊力に打たれてしまいそうなのを何とかごまかし、カロンは店の奥へ引っ込んで言った。


「お前が自分から女性を守ろうとするなんて珍しいな」


 カロンの姿が見えなくなってから、サインズはユースにこそっと話かける。


「そう、か。確かにそうだな」

「どうしたんだよ、この間の採掘で何かあったか?」


 にやにやと嬉しそうにするサインズを、ユースは真顔で見つめる。


「何か……あったのか?」

「いや、だからそれを聞いてるんだって」


 苦笑するサインズに、ユースはぽつりと呟くように言葉を発した。


「ただ、どんなときでもひたむきで一生懸命なあの子を、俺が守ってあげたいとそう思っただけだ」


 ユースの言葉に、サインズが両目を見開く。


「お前、それって……」

「お待たせしました!」


 サインズが何か言いかけた瞬間、カロンが手に何かを持って奥から戻って来た。


「はい、これ。この間取った雪月光石の一部です。ユースさんにもお譲りしたくて」


 そこには、白く雪のように輝く鉱石花、雪月光石があった。


「いいのか?」

「はい、この石の鉱石花言葉は『真実の愛』なんです。この間ユースさんとお話していて、これをユースさんにあげたいなって思って。ユースさんにとっての真実の愛、いつか見つかるといいですね」


 そう言ってふわっと優しく微笑むカロンの笑顔を見て、ユースの心臓は激しく波打った。



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