第6話 専属の傭兵

「これ、今回の支払いです。それと、お茶をどうぞ」


 そう言って、ユースの目の前にお礼金とお茶を置いた。ティーカップからは良い香りが漂っている。


 カロンはユースの目の前に座り、自分もお茶を飲む。


「ありがとう」


 ユースは静かにそう言って、お茶を一口飲んだ。その美味しさとあたたかさ、良い香りに疲れた体がほぐれていく。


「また、今後も他の採掘場へ行くことはあるのか?」

「そうですね、お客様からの依頼があれば行きますし、新しい情報が得られたときにも行くことはあります。それも仕事のひとつですし、何より鉱石花に出会うのは楽しいですから」


 にっこりと笑ってそう言うカロンを、ユースは黙って真顔で見つめ、静かに口を開いた。


「それなら、その時は俺を連れて行ってほしい」

「ユースさんをですか?」


 カロンの疑問にユースはうなずく。


「今回はお金を受け取るが、今後のお礼は、俺にも鉱石花を少しわけてくれればそれで良い。それから、こうしてお茶を飲ませてもらえれば」

「ユースさんがそれで良いなら……」


 カロンがためらいがちにそう言うと、ユースはそっと机の上に置かれたカロンの片手を優しく握る。


「俺は、君を一人で採掘場へ行かせたくない。危ない目に合わせたくないし、君を守りたいと思っている」


(えっ、ええっ?)


 すこしざらついた皮膚、大きな手から伝わるユースの体温。

 男性に手を握られたことのないカロンは、ユースのあたたかい手に包まれて、自分の体温がどんどん上昇していくのがわかる。

 ユースの美しい蒼色の瞳は店内の灯りに照らされて宝石のように輝いている。

 

 カロンが驚いて顔を赤くしながらユースを見つめると、ユースはハッとして手を離した。


「……すまない、突然女性の手を握るなんて失礼だったな」


 気まずそうに顔を伏せると、ユースはお茶を飲み干して席を立った。


「お茶、とても美味しかった。何かあればいつでも連絡してくれ。俺は普段ここに寝泊まりしている」


 そう言って、文字の書かれた小さな紙切れをカロンへ渡す。そこにはユースの傭兵としての経歴と所在地が書かれていた。名刺のようなものなのだろう。


「それじゃ、また」


 そう言って、ユースはカロンの店を出ていった。カロンは一人、店内でぽかんとしている。


(い、い、今のは一体何?)


 ユースに握られた片手をじっと見つめて、先程のやりとりを思い出す。


(男の人の手ってあんなに大きいんだ)


 顔を赤らめながら、カロンは胸の前で両手を握りしめた。

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