第5話 思い
「ユースさんは愛を知らないと言っていましたが、きっと身近なところにあるんだと思いますよ。サインズさんとだって仲良しに見えますし」
ふわっと微笑みながら言うカロンの言葉に、ユースは戸惑う。
「でもそれも本当のところはわからない。サインズだって迷惑しているかもしれない」
「迷惑に思う相手を、わざわざおすすめの鉱石屋に連れて行くでしょうか?迷惑だったらそもそも一緒に出かけたり関わったりしないと思います」
当然のように言うカロンに、ユースは思わず目を見開いた。
「私のことをみんなから愛されてるって言ってくださいましたけど、私のことを嫌う人間だってたくさんいるんですよ。
でもそんなのいちいち気にしてたら人生勿体無いじゃないですか。私は私に愛を向けてくれる人と愛を向けたい人を大切にしたいです。そうしたら、きっとその愛が広がって巡っていくんだと思います」
雪月光石を丁寧に丁寧に採掘しながら、カロンは言葉を紡いでいく。
「ユースさんは気づかないだけで、きっとユースさんも知らないうちに愛を受け取ったり与えたりしてるのかもしれませんよ。
それに、もしかしたらこれから愛というものをはっきりと感じることが起こるかもしれませんし。いつか、ユースさんにとってかけがえのない愛が見つかるといいなって思います」
その場がまるで浄化されるかのようにフワッと笑うカロンに、ユースの胸はドクドクと張り裂けんばかりに高鳴った。
「……だったら、その相手は君がいい。君からの愛を受け取りたいし、君に愛を与えたい」
「……へ?」
ぼそり、とユースが言うと、カロンは目を丸くしてユースを見つめる。
(今、なんて?私の聞き間違い?だよね?)
ユースはカロンの視線に気付いてハッとする。そして手で口元を隠すと、視線をそらす。
「いや、なんでもない」
そう言ってから、カロンに背を向けてユースは雪月鉱石の採掘を始めた。
(どういう意味だろう?やっぱり私の聞き間違いかな?そうだよね、そうに決まってる、うんうん)
カロンはユースの背中を見つめながら、ドキドキと鳴り止まない胸をおさえていた。
◇
「ふー!豊作でしたね!ユースさんのおかげです、ありがとうございました!」
採掘を終え店に戻ってきたカロンは、机に背負っていた荷物を置いてユースへお礼を言う。
ユースも、荷物を机の上に置いてうなずいた。
「一人だと持って帰れる量が限られてしまいますけど、ユースさんが一緒だったのでこんなに持って帰れました!幸せすぎます」
えへえへ、と嬉しそうに笑うカロンを見て、ユースはいつの間にか微笑んでいた。その微笑みを見たカロンは思わず胸が高鳴る。
(やばい、顔が赤くなっちゃう)
慌てて視線をそらし、あっ!と何かに気付いて手を叩く。
「そうだ、お茶を飲んで行きませんか?ユースさんも疲れてますよね、少し休んで行ってください」
胸の高鳴りをごまかすように、カロンはそう言ってパタパタと店の奥へ駆けて行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます