第4話 採掘

ユースは幼少期から剣術の才能があり、すぐに騎士団への入団が認められた。


「俺は早くに親戚の家に預けられて育ったんだが、その家には俺の居場所がなかったんだ。だからいつも剣の稽古に明け暮れていた。それで剣の腕の上達も早かったんだろうな」


 騎士団へ入団してからはメキメキと実力を発揮し、一目置かれる存在となる。だが、そのせいでユースはとんでもない目に遭うことになる。


「騎士団には貴族の息子も多くいて、親の七光で昇進する者が多い。そんな中で一般庶民である俺が実力で成り上がることが許せない連中が多かった」


 そしてそれは突然起こった。魔物の討伐に向かった際、聞いていた魔物の強さと実際の強さに大きな違いがあり、ユースは大怪我を負ってしまう。


「魔物の実際の強さを偽って聞かされていたんだ。俺を引き摺り下ろすために。何なら死ねばいいとさえ思われていた」


 その時の大怪我のせいでユースは騎士団を退団せざるを得なくなった。


「親戚に預けられ居場所のなかった俺はそもそも愛を知らない。他人との接し方もうまくできない。騎士団でも俺をよく思わない連中ばかりだった。そしてそれすらもどうでもいいと思った。俺は他人にも自分にも興味がないんだ」


 唯一家の近かったサインズは幼少期から仲良くしてくれていたが、サインズへの接し方も人として合っているのかどうかわからない。


「だから君が羨ましい。出会う人たちみんなから愛されて愛を知り、どんな時でも前向きに生きている君が」


(こんなことを突然言われても困るだろうな。だから俺はダメなんだ。どう接していいかわからない)

 ユースはそっとため息をつく。 


「そんな大事で言いにくいことを、私なんかに教えてくださってありがとうございます」

 

伏せていた目をあげると、そこには優しく微笑んでいるカロンがいた。


「ユースさんは愛を知らないと言っていましたが、きっと身近なところにあるんだと思いますよ。サインズさんとだって仲良しに見えますし」


「でもそれも本当のところはわからない。サインズだって迷惑しているかもしれない」


「迷惑に思う相手を、わざわざおすすめの鉱石屋に連れて行くでしょうか?迷惑だったらそもそも一緒に出かけたり関わったりしないと思います」


 当然のように言うカロンに、ユースは思わず目を見開く。



「私のことをみんなから愛されてるって言ってくださいましたけど、私のことを嫌う人間だってたくさんいるんですよ。

でもそんなのいちいち気にしてたら人生勿体無いじゃないですか。私は私に愛を向けてくれる人と愛を向けたい人を大切にしたいです。そうしたら、きっとその愛が広がって巡っていくんだと思います」


 雪月光石を丁寧に丁寧に採掘しながら、カロンは言葉を紡いでいく。


「ユースさんは気づかないだけで、きっとユースさんも知らないうちに愛を受け取ったり与えたりしてるのかもしれませんよ。

それに、もしかしたらこれから愛というものをはっきりと感じることが起こるかもしれませんし。いつか、ユースさんにとってかけがえのない愛が見つかるといいなって思います」


 その場がまるで浄化されるかのようにフワッと笑うカロンに、ユースの胸はドクドクと張り裂けんばかりに高鳴った。




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