第4話 採掘

「あぁ〜やっぱり綺麗!!!」


 ゲラルド渓谷にある採掘場に訪れたカロンは、歓声を上げる。そこには花のように白く輝く雪月光石がたくさん散りばめられていた。


「本当に美しいな」


 ユースもほうっとため息をつく。


「でしょう!この瞬間が本当に最高なんです」


 目を輝かせて言うカロンの姿を、ユースは眩しいものを見るように見つめていた。


(鉱石花も美しいが、この子もとても美しいな)


 ふと目が合うと、カロンはあわてて目を逸らした。


(どうして目を逸らしてしまうのか、まだ俺のことが怖いのだろうか)


 ユースの心がなぜか痛む。なぜ痛むのかわからないが、ユースはその痛みが気になって仕方がない。


「カロン、どうして目を逸らすんだ?」

「はひぃっ?」


 ユースの突然の質問に、カロンから思わず変な声が出た。


「え、いえ、あのその、ユースさんとても素敵なので目が合うとちょっとその、無理です……」


 顔を真っ赤にして言うカロンの姿に、ユースはホッと胸を撫で下ろす。


(なんだ、俺のことが怖いわけじゃないんだな)


 そう思って安堵してから、ふとカロンに言われ言葉に気がつく。


(今、素敵、って言ったか?俺のことを?いや、そんなはずはないか)


 採掘するために背負っていた荷物からいそいそと道具を取り出すカロンを眺めながら、ユースは胸の中に湧き上がる不思議な気持ちに戸惑っていた。

 




「あ、あのそういえば、ユースさんは傭兵になって長いんですか?とてもお強かったので」


 採掘をしながらカロンが尋ねと、ユースの顔が曇った。その顔を見て、カロンは聞かれたくないことだったのだろうかと慌てる。


「すみません!あの、言いたくないことでしたら言わなくても……」


 そう言われたユースは、カロンの瞳をじっと見つめて言った。


「いや、いい。むしろ君には聞いてもらいたい。俺は元々騎士だった」





ユースは幼少期から剣術の才能があり、すぐに騎士団への入団が認められた。


「俺は早くに親戚の家に預けられて育ったんだが、その家には俺の居場所がなかったんだ。だからいつも剣の稽古に明け暮れていた。それで剣の腕の上達も早かったんだろうな」


 騎士団へ入団してからはメキメキと実力を発揮し、一目置かれる存在となる。だが、そのせいでユースはとんでもない目に遭うことになる。


「騎士団には貴族の息子も多くいて、親の七光で昇進する者が多い。そんな中で一般庶民である俺が実力で成り上がることが許せない連中が多かった」


 そしてそれは突然起こった。魔物の討伐に向かった際、聞いていた魔物の強さと実際の強さに大きな違いがあり、ユースは大怪我を負ってしまう。


「魔物の実際の強さを偽って聞かされていたんだ。俺を引き摺り下ろすために。何なら死ねばいいとさえ思われていた」


 その時の大怪我のせいでユースは騎士団を退団せざるを得なくなった。


「親戚に預けられ居場所のなかった俺はそもそも愛を知らない。他人との接し方もうまくできない。騎士団でも俺をよく思わない連中ばかりだった。そしてそれすらもどうでもいいと思った。俺は他人にも自分にも興味がないんだ」


 唯一家の近かったサインズは幼少期から仲良くしてくれていたが、サインズへの接し方も人として合っているのかどうかわからない。


「だから君が羨ましい。出会う人たちみんなから愛されて愛を知り、どんな時でも前向きに生きている君が」


(こんなことを突然言われても困るだろうな。だから俺はダメなんだ。どう接していいかわからない)


 ユースはそっとため息をつく。 


「そんな大事で言いにくいことを、会ったばかりの私なんかに教えてくださって、ありがとうございます」

 

伏せていた目をあげると、そこには優しく微笑んでいるカロンがいた。


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