おじさん、執事服を着てお嬢様方にキャーキャー言われる

「あっ、そういえばオジィ。この前、モンスターの“羊バトラー”からドロップした“執事服しつじふく”あるじゃない?」


 リッカが俺の家のソファでだらけながら、声をかけてきた。


「あぁ、確かレアドロップ品だったね。今度、売りに行って、みんなで美味しいものでも食べに行こっか?」


「アレ、せっかくだし着てみなさいよ」


「えぇ……。執事服なんか俺に似合う訳が……」


「それいいですねぇ! うららもおじさんの執事服見てみたいです! ねー、レンさん!」


 うららも乗ってきた。


「うん、興味ある、かも!」


 レンもか……。


「うーん、みんながそう言うならちょっとだけ着てみるかな……」


 やったーと女子たちは喜んでいる。


「どうせなら配信もして、みんなに見てもらうわよ、オジ!」


「は、配信!? いや、そんなの需要ないでしょ!」


「おじさん、ダンジョン配信者ってのは、ダンジョン配信だけやってればいいと思ったら大間違いなんですよ!」


 うららがぐいっと俺の肩を持つ。


「え? そうなの?」


「こういう何気ない日常シーンも動画にすることで、ダンジョン配信のハラハラやドキドキがより強調されるんです! 言うなればスイカの塩です!」


「な、なるほどなぁ……」


 確かに一理ある。むむ、仕方ないがやってみようかな……。


「さっそく取りに行ってくる、かな!」


 レンはうきうきして、ドロップ品置き場に駆けて行った。


 ────この時、女子三人の思惑おもわくは一致していた。配信すればアーカイブで何回でもおじさんの執事服を見ることができる──と。





「お待たせ致しました、お嬢様方」


 俺は執事服に着替え、みんなの前に姿を現わす。


 キャーと黄色い歓声があがる。


 ────レアドロップ品『羊の執事服』 効果 執事力が跳ね上がる。



《おじさんの執事服ww》

《結構似合ってるじゃんw》

馬子まごにも衣装ってか》

《わぁ……私もこんな執事欲しいなぁ……》



「へ、へぇ、わ、割と似合ってるんじゃないかしら? オジ」


「わぁ! すっごく似合ってますよー、おじさん!」


「ん、私の目に狂いはなかった、かな!」


「これはもったいお言葉でございます、お嬢様方」


 俺はうやうやしく礼をする。


 きゃーとまた黄色い歓声。


 ────女子三人の意見はこの時一致していた。“アリ”だな──と。


《おじさん、なりきってんなw》

《あの服、執事力上がるからそれのせいかな?》

《執事力ってなんなんですかね……?》





「アールグレイでございます。お嬢様方」


 俺は3人に紅茶をれる。


 アールグレイの爽やかな柑橘系かんきつけいの匂いが辺りに広がる。


「あっ、これおいしいです! うららの好みに合わせて砂糖とミルクも入ってます!」


「ふーん、この風味と香り……悪くないわね」


「お湯の温度、茶葉の量、紅茶の蒸らし時間……全てが高水準でないとこの味は無理。これはプロの仕事、かも……」


 3人ともうんうんとうなずきながら、紅茶を堪能たんのうしている。


「お褒めにあずかり恐悦至極きょうえつしごく……」


《だれだよ、これw》

《俺たちのおじさんを返せ!》

《これはイケオジ》

《もぅマヂ無理……。スクショしよ》





「あのぅ、おじさん、せっかくなんでちょっといいですか?」


「なんでございますか? うららお嬢さま」


「う、うららお嬢様……。えへへ、悪くないですねー」


 うららの顔が赤くなっている。


「せっかくなのでうららの憧れのシチュエーションをしてもらいたいなっ──て。サービス精神旺盛せいしんおうせいな内に」


「もちろんでございます。うららお嬢様」


「それ、いいわねぇ!」


「私もやってもらいたい、かも!」


《うららちゃんの憧れのシチュエーション……》

《これは気になる》

《一体、何が始まるんです?》


「うららの好きなシチュエーションは“壁ドン”です! 少女漫画でよくあるから、いつかされて見たいと憧れてたんです!」


《壁ドンかw》

《私もおじさんにされたいなぁ……》

《まあまあ……スタンダード》


「うらら、アンタもベタよねぇ……」


「うん、でも悪くない、かも」


「承知致しました」


 俺は壁際に向かい、思いっきり壁を叩く。するとドォンと壁からと鈍い音が鳴り響く。


「──これでよろしいでしょうか? うららお嬢様」


「あうう……その“壁ドン”じゃないですぅ!」


《うん、やっぱり中身はおじさんで安心した》

《おじさん世代の壁ドンはやっぱこれよ》

《うるさいぞ里中!》





「先ほどはお手数をおかけしました」


「じゃあお願い……します」


 俺はうららから詳細なシチュエーションを聞いた上で、実演に移る。


 うららは壁際に立っており、スタンバイはOKのようだ。


 俺はうららの顔の横にある、壁をダァンとたたく。


「っ……!」


 うららの顔が一瞬で赤くなる。


 さらに俺はうららのアゴをくいっと上げる。


「……っ!?」


「ワタクシのものになっていただけますか? うららお嬢様」


「ふにゃあああああ……」


 うららはそのままズルズルと壁によりかかり、ぷしゅーとヘタリこんでしまった。


 顔はまるでトマトのようにまっかっかだ。


「壁ドンからのアゴくいっ! これはなかなかやるわね! うらら!」


「芸術点、高い、かも!」



《ベタだなぁw》

《俺もおじさんに壁ドンされたらどうなるか分かったもんじゃねぇぞ!》

《ベタ故の王道……ですかね。眼鏡クイッ》

《85点!》





 次はリッカの番だ。俺は言われた通りにカップラーメンにお湯を注ぎ、2分でふたを開ける。


「ふふっ、特に指定はしてなかったのに、2分で開けるなんてアンタ“分かってる”わね。アタシが固麺かためんが好きだってことを」


 そのままリッカはラーメンをズルズルとすすり、あっという間に平らげた。


「ふぅ、ごちそうさま……けぷ」


「まだスープが残ってるぜ、リッカ」


 口調はリッカの指定だ。


「そうね……。でも今日はもうなんか胸がいっぱいで……」


 リッカはろくにない胸に手を当てる。


 俺はカップ麺を持ち上げて言い放つ。


「ならスープごと、”おまえを食っちまう”ぜ?」


「ああああーーー! 塩分過多えんぶんかたぁぁああ!」


 真っ赤になったリッカはソファに倒れ込む。


《えぇ……》

《えぇ……》

《えぇ……》


「これは……どうなんでしょうか?」


「性癖っていろいろあるん……だね」





 最後はレンだ。今回はとある食材がキーとなる。


 俺はレンの肩に触る。


「な、何、かな?」


「いいからじっとしてて」


 俺はレンの肩にある“ソレ”を取り、カリっとかじる。


「芋けんぴ、肩についてたよ」


「う、わ────かも!」


 レンはその場で手を顔に当てて、もだえている。


「芋けんぴ──なかなかやるわね……レン」


「女の子なら誰でも一度は憧れますよねー!」


《芋けんぴうまいよなぁ》

《俺も髪に付いてる芋けんぴ取ったら彼女できたよ》

《98点!》




 執事服を脱いだ俺は、執事服を着た回の配信をアーカイブで見直す


「……………………2度と着ない……」



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【大事なお知らせ】


『芋けんぴ編』まで読んで下さり、本当にありがとうございました! 


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