おじさん、レンとデートする

「オジ様、今日暇だったら、一緒に買い物に行って欲しい、かも」


 レンが珍しくお願い事をしてきた。


 今日はオフの日だ。うららとリッカは自分の仕事で忙しいようで、今日はうちにはいない。


「そうだね。今日は暇だし、俺でよければ付き合うよ」


「ありがとオジ様。ふふっ、楽しみ、かな!」


 彼女の不意な笑顔にドキリとする。


 普段、クールで無表情なこと多いから、こう言う時に破壊力あるんだよな……。


「じゃあ、軽い変装でもして買い物に行こうか。俺たちだってバレたら騒ぎになっちゃうからね」


 有名人になるって、昔は憧れてたけど、いざなってみると大変なこともいっぱいあるんだよな……。


 うっかりそのまま外出しようものなら、大騒ぎになってしまう。


「うん、じゃあ少し準備して行こう。オジ様」





 俺たちは普段とは少し違う格好かっこうをして、街を歩き出した。


 ──するとレンは両腕を俺の右腕に絡めてきた。


「お、おいおい……」


「オジ様、ダメ、かな?」


 レンが上目づかいでこちらを見つめてくる。


「だ、ダメじゃないけど、ちょっと気恥ずかしいかな……ハハ」


「ナンパ避けになるからお願い、オジ様」


「へ? 変装しててもナンパとか、されるもんなの?」


 俺は興味本位でいてみる。


「うん、すっごいされる。うららとリッカもよくされるから、困ってるって言ってた」


 女の子って大変だな……。まぁ俺は変装したら一つも声かけられてないですけどね、ハハっ……。


「分かった。このままで一緒に行こうか」


「いいの? 嫌じゃない?」


「まさか。レンちゃんがいいなら問題ないよ」


「フフッ、ありがと、オジ様」


「最初に行くところはCDショップでいいんだったよね?」


「うん、お願い」





 俺たちは目的地のCDショップへと到着した。CDショップはガランとしている。


「CDショップなんて久しぶりに来たような気がするな……。CDショップって、すごい勢いで減ったよなぁ」


「うん、サブスク全盛期だからね。CD買う人はレア、だね」


 レンは少し寂しそうな表情をしている。


「そうだな。俺もサブスクで音楽聴いてるし、CD買ったりレンタルしたりなんか、しなくなっちゃったね」


「でも、サブスクじゃあアーティストに還元される金額はほんのちょっとだから、好きなアーティストにはCDを買って応援してあげたい、かも」


 レンは好きなアーティストのCDをたくさん買おうとしている。


「そっか、そういう考えもあるんだね。じゃあ、俺も好きなアーティストを──っと」


 俺は目立つ位置に陳列ちんれつされていたアルバムを手に取る。


「あっ、オジ様、それ……」


「あぁ、レンちゃんのソロデビューアルバム。俺の応援したいアーティストだからね」


「!? そ、そういう不意打ちはズルい、かも……。その、あの、あ、ありがと……オジ様……」


 レンは耳まで顔を真っ赤にしながらもじもじしている。


 よっぽど嬉しかったんだろうか。喜んでくれるなら俺の方まで嬉しくなるな。





 次はレンのリクエストでゲームセンターにきた。


 ジャラジャラとコインの音や、ゲームの音が店内に鳴り響いている。


 そんな中、レンはクレーンゲームとにらめっこをしていた。


「むむむ、あー! また取れなかった、かも……」


 プクッーとレンのほっぺたが膨らんでいる。


 どうやら狙いはクマのぬいぐるみのようだ。


「前にも狙ったけど、取れなかったからリベンジに来たの。ここのクレーンゲームのアーム、少し弱過ぎる、かも!」


「俺もちょっとやってみていい?」


「うん」


 俺は百円玉を入れ、アームを動かす。


「狙うは首じゃなくて、足の方──だな」


「? 首の間を狙うのがいいんじゃない、かな?」


「アームが強ければそれでもいいんだけどね。この強さなら、足を狙って浮かせて、落とす。この繰り返しで、地道に、前に前に動かす感じで行くと────っ取れた!」


 300円目で見事、クマのぬいぐるみを獲得することができた。


「オジ様、すごい、かも!」


 レンは目を丸くして興奮している。


「それじゃあ、はい。クマのぬいぐるみをどうぞ」


「──え? オジ様いいの?」


「ああ、レンちゃん欲しかったんだろ? 俺はぬいぐるみなんてがらじゃないし、レンちゃんがもらった方がこのぬいぐるみも喜ぶよ」


「やったあ! めちゃくちゃ嬉しい、かも!」


 レンはクマのぬいぐるみを大事そうに抱えて、飛び跳ねている。


「あぁ、喜んでもらえてよかったよ」


「ふふっ、大事にするね。今日、ベッドに飾って寝よう、かな」


 彼女は満面の笑みを浮かべている。この笑顔が見れただけでも300円は安いもんだな。





 昼ごはんはレンのリクエストでラーメンにした。


 女性1人では入りずらいからとのこと。


 ラーメン屋選びは俺に任せてもらい、とんこつラーメン店にすることした。


 一応、いてみたところ、レンもとんこつラーメンは好きみたいだ。


 熱々のとんこつラーメンに高菜をたっぷりかけて頂く。


「あつあつ、かも! でもおいしい!」


 レンはフーフーしながら、ゆっくり麺をすすっている。どうやら猫舌のようだ。


 俺もとんこつラーメンを勢いよくすする。


 ズルズルズルズルズルズルズルズル!


 ごちそうさまでした! そろそろ健康診断が怖いね、うん。





 最後は2人でカラオケに来た。


「カラオケなんて久しぶりだな……」


「今日は、みんなのためじゃなくて、オジ様のためだけに歌う、ね?」


 レンはウィンクをした。


 彼女の美声がカラオケルームに広がる。


 この歌声をこんな間近で聴ける俺はとても幸せ者なのかもしれない……。


 歌が終わるとレンが俺に寄りかかってきた。


「お、おい……」


「アレして?」


「あ、アレ?」


「うららによくやってる“頭なでなで”……。私にもして欲しい、かも」


「好きなの? なでなで?」


「分からない。でもうららいつも気持ちよさそうにしてるから。超気になる、かも……」


「じゃあ……」


 俺はレンの頭をなでなでする。


「ふぁ、これ気持ちいいかも。安心……する。うららがよくねだってる理由が分かる、かも」


 レンは気持ちよさそうに目を閉じている。完全に猫だなこれ。


「…………」


「…………」


 少しだけ甘い時間が流れた。





「次はオジ様の番、だよ?」


 レンがマイクを差し出す。


「いや、俺はやめとくよ……。俺の歌声、ジャイ⚪︎ンだから……」


「あはは、ウケる、かも! そんな人いる訳──」


「ぼえ〜!!!!!!!!!」


「きゃああああああああああああああ!」


 ほら言ったじゃん!





《レン視点》


 オジ様達のパーティに加わって以来、曲と歌詞が作れないスランプが脱出できた。


 理由はなんとなく分かってる。


 やっぱり私は歌も好きだけど、それと同じくらいのワクワクする冒険が好きで──


 だからその刺激が、いい歌詞やメロディにつながってたんだと思う。


 だからさ、私は歌も冒険もどっちも取るよ。


 ──そして恋も。


 だって私はよくばりだから、ね?



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【大事なお知らせ】


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