おじさん、ライブに乱入してきたモンスターを無双する

『皆様へ重要なお知らせです。現在、会場内で緊急事態が発生しております。落ち着いて、スタッフの指示に従ってください』


 ライブ会場に救急事態を知らせるアナウンスが鳴り響く。


《きゃああああああああああああああ》

《おい、スタッフ早くこいよ! スタッフゥゥゥーーーー!》

《ダメだ! 周りを完全にモンスターに囲まれてやがる! 逃げ場がねぇぞ!》

《お、おわた……》

《おいスタッフ、てめぇが戦えよ!》

《僕、アルバイトぉぉぉぉぉぉ!》


 会場は大混乱だ。


 すると、みんなのスマホのアラームが鳴り出した。俺は急いでスマホを確認する。



『“モンスターハザード警報”。ただいま、⚪︎⚪︎ライブ会場付近にダンジョンが発生いたしました。近隣の住民の皆様には、直ちに避難を開始くださいますようお願い申し上げます』



『また会場近くのダンジョン付近では、大勢の負傷者がおられます。回復系の魔法が使える方がおられましたら、ただちにご協力いただけますよう、お願い申し上げます』



「新しいダンジョンが発生した──か」


 近年になっては珍しいが、昔はよく発生していたモンスターハザード。


 ダンジョンが発生した余波で、ダンジョン内のモンスターが飛び出し、人々を襲う現象を指す。


「モンスターは人が多いところに群がる習性がある。それでここにきたか……」


 俺は辺りの状況を確認する。会場のいたるところで壁に穴が開き、次々とモンスターがなだれこんでいる。


「オジ、ここは二手に分かれましょう! 私とうららは会場の外に出て、モンスターを殲滅せんめつするわ! 幸い、まだ会場内にはケガ人はいない。アンタの能力は防衛に向いている。だから、ここでみんなを守って!」


「うららも、会場の外のケガした人を治します!」


 確かにその作戦は一瞬、俺も考えたことだ。しかし──


「うららちゃんと、リッカちゃんだけでは前衛がいない。危険すぎる」


「フッ、アタシを誰だと思っているの? 天才大魔導士リッカ様よ! それにうらら回復もある」


「オジサン、私たちを“信じて”下さい!」


 2人の目には強い決意を秘めたまなざしを感じられた。


 あぁ、いつのまにか2人ともこんなに成長して──。若いってのはこんなにもまぶしいものなのか。


「分かった! ただ、2人ともくれぐれも無茶をしないこと! 何かあったら、すぐに俺に連絡をくれ!」


「任せなさい!」


「任せてください!」





「──“多重”クリエイト“シールド”」


 俺は会場の空気にクリエイトを発動させ、会場の皆に風のシールドをまとわせる。


《ん? なんだこれは? 風が?》

《きゃあああ! え? 襲われたけどダメージがない?》

《おおおお! だれかが風の魔法か何かで守ってくれてるぞ!》


 よし、これでひとまずは観客の安全は確保できた──ん?


 ステージの上からギターの音が鳴り響く。俺はそちらの方向に顔を向けると──


「レン──ちゃんか」


「私のファンたちをこんな怖い目にあわせて……。絶対に許さない、から! 『ソニックスラッシュ』!」


 ギターの音が鳴り響くと同時に、モンスターが次々と切り裂かれ、霧散むさんする。


「──これは」


「私のユニークスキル“サウンドエピック”は音に様々な効果を付与させる事ができる。こんな風に、ね!」


 彼女はゆったりとしたバラードをかなでる。するとモンスター達が一斉いっせいに眠り出す。


「────『微睡まどろみのラプソディ』。オジ様、今、だよ!』


「了解! ────“多重“クリエイト“ソード”」


 俺は会場のガレキから無数の剣を造り出す。そしてその剣達を一斉いっせいにモンスター達に掃射そうしゃした。


「────『ソードガトリング』」


『ぎしゃあああああああああ!』


 モンスター達の断末魔だんまつまが会場に木霊こだまする。


「オジ様すごい、かも!」


《あの大量のモンスター達を一瞬で!?》

《とんでもねぇ野郎だぜ!》

《た、たすかった……のか》

《あ、あれ“オジサン“じゃねーか! さすがだぜ!》

《ありがとう! 後でチャンネル登録絶対するわ!》

《おじさんつえええええええ!》


「みんな無事だな……」


 だが、まだ油断はできない。ここにまたモンスターが押し寄せてくる可能性は非常に高い。ここを離れるわけにはいかない。


 あまり離れると俺の風のバリアも解除されてしまうからな。


「しかし大丈夫なのか? うららちゃん、リッカちゃん。いや、信じるって決めたんだ。仲間を!」


 俺は助けに行きたい気持ちをグッとこらえ、目の前の防衛に専念した。


 それが仲間を信じるいうことだから。


 


 









 




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