おじさん、大人気ガールズバンドの美少女ボーカルのライブを楽しむ

「今は活動休止している“シャドウローズ”なんだけどね。最初は全然、売れなくて……。それで流行りのダンジョン配信を取り入れてみようって、みんなで決めたんだ」


「へぇ、“シャドウローズ”って最初は売れてなかったのね。意外ね。てっきり、デビューしてからすぐに売れたのかと思ったわ」


 リッカはようやく落ち着きを取り戻したようだ。


「その配信が結構バズっちゃってね。女の子のガールズバンドがダンジョン配信ってのがモノ珍しかったの、かな。そこから私たちは勢いに乗ったんだ」


「それに親近感を感じて、うららとレンさんは仲良くなったんですよね〜」


 うららはウンウンと、うなずいている。


「バンドもダンジョン配信も絶好調で、あの時は本当に楽しかった。歌詞もメロディもノリノリで作れたんだ」


 レンは昔を懐かしむような、遠い目をしている。


「それで収入もドカッて入ってきてね。それからみんな変わっちゃたの、かも」


「変わったって?」


 俺はレンにたずねる。


「みんなバンドの練習に来ない事が増えて、遊んでいる事が多くなったんだよ……。ダンジョン配信も面倒だからパスってことで、配信することもなくなっちゃったんだ……」


 レンは悲しげな表情をしている。


「まぁ、よくある話よね〜。なまじお金が入っちゃうと、人間どうしても楽な方に楽な方に流されて行っちゃうものだから。アタシも一時期、配信サボって“ペヤ⚪︎グ”ばっかり食ってたもの」


「そんなの聞いたら、お腹が空いてくるじゃないですかー! リッカさん!」


「それから、バンドもダンジョン配信も頑張りたい私と、メンバーの間に亀裂きれつが入っちゃってね。それで活動休止になってしまったんだ……」


「そんなことがあったんだね……」


 大人気ボーカルと言えど、そんな過去があったなんて、思いもよらなかった。


「問題はここからなんだけど──。それから私、ソロで歌の活動を初めたんだ。ダンジョン配信の方は1人では危険だと判断して、休止はした、けど」


「レンさんはホントに頑張り屋さんなんですよね……。偉い、偉い……」


 うららはレンをなでている。


「ありがと、うらら。そこからソロ活動を始めたんだけどね。急に、上手く歌詞とメロディが作れなくなっちゃったんだ……。昔はアレほどスラスラ作れたのに……」


 レンは自分の手をぎゅっと握る。


「いわゆる“スランプってヤツかな?」


 スランプとは今まで出来ていたことが、急に出来なくなってしまう現象のことだ。


「うん、多分スランプだと、思う。外部委託するって手も考えたんだけど、やっぱり自分の考えた歌詞とメロディをお客さんに届けたいんだ。それが私の歩んできた道。──信念、だから」


 そこだけは絶対に譲れないないのだろう。彼女の目には力が入っている。


「だからオジ様たちには、どうしたらスランプ脱出を出来るかってアドバイスして欲しくて、今日はわざわざ来てもらったの」


「なるほど、分かったよ。俺たちでよければ考えてみる」


「この天才大魔導士リッカ様に任せない!」


「うららも頑張って考えます〜!」


「みんな……ありがとう。あっ、でも急いでいるって訳じゃないから、ゆっくりでいい、かも」


「そうだね。俺たちでなにかできることがないか考えてみるね」


「うん、ありがとオジ様。話しただけでもだいぶスッキリできた。だから今日のライブを招待したのはほんのお礼。少しでも楽しんでくれると嬉しい、かな。VIP席だからよく見えるよ」


 彼女はにっこりと微笑んだ。


「VIPってなんかいい響きよね〜。フフッ、優越感を感じるわね。なんかこう、きもちくなるわ!」


「えへへ〜楽しみにしてます、レンさん!」


「ライブなんて久しぶりだ。存分に楽しませてもらうよ」





 レンがステージで熱唱をしている。ついにライブが始まった。


 バックライトが七色に光り、会場を盛り上げている。


『暗闇に咲き誇れシャドウローズ 闇をまといていざ散華さんげ あでやかな黒に染まるとき 十六夜いざよい彼方かたなにさぁ、いこう♪』


《わー! レンちゃん最高ー!》

《動画で見るよりめちゃくちゃ可愛いじゃねーか!》

《か、かっこいい……》

《レンしか勝たん》

《きゃー!レンさん結婚してー!》


『みんなー今日は私のライブに来てくれてありがとうー! 楽しんで行ってねー!』


 俺たちVIP席からライブを鑑賞している。


「やっぱ生でみると迫力が違うな!」


「わぁ、レンさん衣装かっこいいですー!」


「なにこれ最高じゃない!」


 会場のボルテージも最高潮だ──が


 ドーーーーンと会場が揺れた。


『え?』


《な、なんだ?》

《うわあああああ、モンスターだああああ!》

《に、逃げろぉぉぉぉ!》

《きゃあああああああああああ》


『な、なにが起きてる、の?』




 

 






 

 



 






 


 

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