おじさん、大人気ガールズバンドの美少女ボーカルに出会う

 歌が聞こえる。



『暗闇に咲き誇れシャドウローズ 闇をまといていざ散華さんげ あでやかな黒に染まるとき 十六夜いざよい彼方かたなにさぁ、いこう♪』



 俺のスマホには今、大人気のガールズロックバンド“シャドウローズ”の動画が流れている。


「オジィ、何、聴いてんのよ?」


 リッカが俺のスマホをのぞきこむ。


 リッカはパーティーに加入して以来、すっかり俺の家に入りびたっている。


「ん? 聴いたことないか? この音楽」


 俺はスマホの音量を上げる。


「シャドウローズじゃない。知ってる、知ってる。黒髪ロングのボーカルの子、けっこう可愛いのよね〜。ま、アタシの方が可愛いけどね!」


「そうだね……」


「その“点点点”は何だコラァ!」


 大人気ガールズロックバンド『シャドウローズ』のボーカル“十六夜いざよいレン”。


 彼女のキレのある歌詞とメロディは日本中を熱狂させた。


 その美貌びぼうと、美しい歌声も相まって、海外にも大勢のファンを抱えているそうだ。


────『十六夜いざよいレン』 チャンネル登録者870万人


「あら? でもシャドウローズって確か最近──」


「そう、無期限の活動中止らしいね……。レンって子はソロで活動しているみたいだけど」


「もったいないわねぇ……」


「ただいまですー!」


 うららがアイドル関係の仕事が終わり、帰ってきたようだ。


「お帰り、うららちゃん」


「お疲れ〜うららー。あら、なんか嬉しそうな顔してるじゃない? 何かあったのかしら?」


「じゃーん! これ見て下さい!」


 うららは三枚のチケットを見せびらかす。


「こ、これは!」


十六夜いざよいレンのソロライブの招待券じゃない! 」


 俺たちは目を丸くする。


 「えへへー! 実はレンさんとは仕事でご一緒することがあって、それ以来仲良くさせてもらってるんです! それで招待券もらっちゃいました! みんなで行きませんか?」


「ちょうど、俺たちその話してたんだよ! そんな繋がりがあったんだね」


「いくしかないでしょ、オジィ! サンキューうらら!」


 俺とリッカはガッツポーズをする。


「楽しみですね〜!」





 ここは十六夜いざよいレンの楽屋前。ライブの本番前だ。


 俺たちに会って話してみたいことがあると、うららに頼み込んだらしい。


 俺はコンコンコンと楽屋をノックをする。


「──はい」


 するとガチャッとゆっくりドアが開いた。そこにはあの“十六夜レン”がいた。


「初めまして、小路三蔵おじさんぞうと申します」


「は、はじめまして……。お、お願いするわ」


 リッカは有名人を前にして緊張しているようだ。


「やっほー、レンさん!」


「うん、やっほーうらら。皆さん、とりあえず上がって欲しい、かな」


 俺たちは楽屋の中に入っていった。





「敬語はなくても構いませんよ、小路おじさん」


 レンがこちらを向いてそう言った。


「そうか、それはありがたい。ああ、レンちゃんも敬語を要らないよ。おじさん、かたくるしいのは嫌いだからね」


「ありがとうございます──じゃなくて、ありがとうオジ様」


「お、オジ様!?」


「なんかその呼び方が気に入ったんだ。ダメ、かな?」


 レンは小首をかしげてこちらをじっーと見ている。なんか猫みたいだな、この子。


「いや、気に入ったなら別にいいよ。好きに呼んでくれて構わない」


「ありがとう、オジ様」


 しかし、オジ様って慣れないなぁ……。


「今日は私のソロライブに来てくれてありがとう。ふふっ嬉しい、かな」


 彼女は微笑を浮かべる。


「今日のライブ楽しみにしてますよ! レンさん!」


「ま、まぁ、そこそこ、いい声してるみたいだし? た、楽しみにしてるわよ!」


 まだ緊張してるんかい……。


「それで今日は、何か話したいことがあるって聞いたんだけど……」


 今日、俺たちを呼んだ要件をたずねてみた。


「相談したいことがある、かも」


 そこで少し彼女はうつむいた。表情も心なしか暗くなったように感じる。


「何をですかー? レンさん」


「な、な、なによ……」


「ちょっと悩んでいることがあるんだ。それでうららから、オジ様のことよく聞いてたから、それで相談をしたい、かも」


「えへへー、おじさんは頼りになるんだって、よく話してたんですよー!」


 うららはドヤ顔で胸を張る。


「え、そんな話を!? 俺が頼りになる──かなぁ……」


「そんなことないですよー? ねー? リッカさん!」


「ま、まぁ私の次?くらいには頼りになるじゃないかしら?」


「だから私の悩みを少しだけ聞いて欲しいんだよ。ダメ、かな?」


「分かった。俺なんかでよければ話を聞かせてもらうよ」


 そして彼女は己の過去を語り始めた。
















 




 











 


 



 


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