おじさん、炎上系配信者を圧倒する

 ここはスタジアム。ヒートが指定してきた場所だ。


『うおおお、“決闘”がついに始まるぞー!』

『ウワサのおじさんvsヒート! これは見逃せない!』

『俺はヒートに賭けたぜ!』

『おもしれー勝負になりそうだ』


 スタジアム中満席の観客がざわざわとしている。


「よォ、逃げずに来たことはホメてやんよ」


 ヒートが俺の側にきてそう言った。


「しかし、まァ、“決闘”を主催するのが国とはな。世も末だぜ。ヒヒッ」


 冒険者同士の“決闘”。それを国中への“見せ物”にすることで、冒険者を志望する者を増やそうとする国の施策らしい。


「ウチの国は冒険者が圧倒的に不足しているからなァ。まぁ、ダンジョンのアイテム関連テクノロジーで、他国に遅れをとる訳にはいかねェわなァ」


 ヒートはどうでも良さそうとばかりに言う。


「俺はお前と無駄口を叩くつもりはないよ」


「ヒヒヒヒ、おォ怖い。でもよォ、テメェのペテンも今日で終わりだァ。全国ネットでてめぇの無様な姿をさらしてやらァ! じゃあな、ヒヒヒヒヒヒ!」


「ねぇ〜ヒートォ早くこんなおじさん倒しちゃてよぉ」

「ヒートならよゆーよねー」

「きゃははははは!」


 ヒートはケバそうな女性を何人も引き連れて去っていった。


「感じ悪いですね〜やっぱ」 


 うららは俺のサポートをしに同伴どうはんしてくれていた。ありがたい。


「うん、でもこれは全国に俺本当の俺の実力を知ってもらうチャンスでもある」


「“炎上系配信者を逆に利用したみた作戦”ですね!」


「あちこちにケンカ売ってる奴が、いざ自分がケンカ売られて逃げたら、カッコ悪すぎるからね。プライドも高そうだし」


 そこをついた作戦だったがどうやらうまくいったようだ。あとは──


「勝つだけ! ですね!」


「あぁ、行ってくるよ! うららちゃん」


「でも無理だけはしないでくださいね。おじさんに何かあったら私……」


 うららは不安そうな顔をしている。


「大丈夫だよ、うららちゃん」


 おれはうららの頭をポンとなでた。


「えへへ! 信じてます! どんなケガをしても私が絶対治しますから安心して下さい!」


「ああ、行ってくる!」





『さぁ、始まりました! 冒険者同士の決闘! 果たして勝利という名の栄光を手にするのはどちらだー!?』


 実況者があおり、会場がく。


《おじさん、がんばえー!》

《おじさんが、サギ師って本当なのかな?》

《なんかそういうデータあるんですか?》

《あなたを詐欺罪で訴えます! 理由はもちろんお分かりですね?》


 ネット中継も大盛り上がりのようだ。



『さぁ、やってまいりました! 昨今さっこん、世間を騒がしているのはこのオトコー! チャンネル登録者102万人“おじさん”です!」


《キタ━━━━(゚∀゚)━━━━ !!!!!》

《おじさん、やっちまえー!》

《さて、おじさんは本物か……偽物ものか……!》


『対するのは“炎上系ならこの男ぉぉぉ”チャンネル登録者数150万人! ヒートの登場だあああああああああああああ!』


《うおおおおおおお!》

《ヒート最強! ヒート最強! ヒート最強!》

《燃やせ・燃やせ・さっさと燃やせ!》

《全ての炎上族に告げる──燃やせ!》


『なお、勝利条件は相手に降参をさせるか、戦闘不能とこちらが判断した場合のみでございます! 相手を死にいたらしめる攻撃をした場合、失格となります!』


「まァ、安心しなァ。超優秀な回復術師も待機しているんだ。それが決闘の条件にあるからな。死んでもすぐにならよみがえれるさ。ヒヒッ!」


『それでは“決闘”を開始します!』





「燃やしつくしてやらァなァ! 『ヒートボール』!」


 ヒートは炎系の魔法を使い、球状の炎の塊をいくつも放り投げてきた。


《出た、ヒートの十八番! ヒートボールだ!》

《B級モンスターすらも一撃というあの……》

《やべぇぞ! おっさん、よけろ!》


「────クリエイト“ソード”」


 俺は大気中の水分から水の剣を精製し、向かってくる炎を全てを切る。すると炎はその瞬間に消え失せる。水の力のおかげだ。


《出た! おじさんのユニークスキル!》

《クリエイト系の能力は非常に珍しいですからね……》

《ましてや、あの練度! 一体どれだけの鍛錬たんれんを……?》


「俺のヒートボールを? ははァなるほど、お得意の幻術か!? ならこうしてやるぜェ! 『ファイアウェーブ』!」


 巨大な炎の波が俺に襲いかかる。幻術でどこかに隠れていると読んだヒートの広範囲の攻撃だ。


 会場には魔力障壁が張られており、観客には被害はない。


「────クリエイト“バリア”」

 

 俺の大気中の水分から、自分を囲むように球状のバリアを造る。


「ヒヒヒヒ! これならいくら隠れてようが関係ねぇだろォ……が?」


 水のバリアにおおわれ、無傷な俺を見て、ヒートは茫然ぼうぜんとしている。


「う、うそだ……うそだろ……」


《おじさん効いてねぇぞ!》

《ヒートの顔ww》

《おい、ヒート何を手を抜いてんだ! こっちはお前に賭けてるんだぞ!》


 俺はヒートに向かって走りながら近づく。


「ヒイイイイイ……! ────なーんちゃって」


 その瞬間、俺の足元で炎の爆発が起きる。


「引っかかったな、このボケがぁ! 俺のユニークスキル“炎地雷”だァ! 俺は炎の魔法に限り地面に埋めることができんだよぉ。ビビってたのはテメェを誘いこむ罠だァ!────え?」


 俺は無傷だ。この程度の火力では俺のバリアはびくともしない。


「────もう終わりか?」


「ヒッ……!」


 俺はゆっくりとヒートに近づく。


「ヒッ……く、くるな!」


 一歩。


「来るなぁああああ!」


 また一歩。


「お前のことを調べたよ、ヒート」


「な、なんだよ……?」


「お前は炎上系で話題稼ぎのために、でっち上げや誹謗中傷ひぼうちゅうしょうでいろんな人を傷つけていたそうだな」


「あ? だ、だからなんだよ?」


「中には心を病んで自殺未遂じさつみすいまでした人までいたらしい」


「しらねーよ! ちょっと俺は話を誇張こちょうしただけだ! あとは勝手にファンが燃やしただけだ! 俺は悪くねぇだろがァ!」


「人を不幸にして食う飯はうまいかよ……」


「うまいねぇ! 毎日、ステーキ、寿司、女、最高でェェェエエす!」


《聞こえないけど、ヒートがなにかわめいてるな》

《ヒートってよく訴えられないよな》

《貴重な冒険者だから、国も甘いんだよな……だからこんなことに……》

《上級国民か……》


「…………」


「雑談で油断したかァ? 死ねや、コラァ!」


 ヒートは炎の魔法放とうとしたが────


「────お前は人の心を何だと思っているんだ!」


 俺はその前にヒートを切り伏せた。


「ガァッ!?」


『勝者は、なんとおじさんです! 回復術師はすばやい治療をお願いします!』


《ヒート、ざまぁw》

《おじさんが勝ったー!》

《こいつ回復しなくていいよ》

《ありがとう、おじさん……俺もアイツに燃やされたんだよ。……ありがとう、ありがとう》

《おじさんは本物だって、はっきりわかんだね》

《やったー、俺たちのおじさんが勝ったぞー!》

《おじさん、チャンネル登録者もすげーぞ!》

《33ー4》


「終わったか……。チャンネル登録者数? げっ!」


────『おじさん』 チャンネル登録者505万人



《ヒート視点》


「俺は負けたのか……? あっ、お前ら」


 ヒートは医務室で目を覚ました。周りには取り巻きの女達がいた。


「ヒート、あんたさぁダサいわよ」


「あ?」


 ヒートの取り巻きの女たちが文句を言い始める。


「なんかなナエたわー。ないわー。シケたわー。まぁ、もういいわーあんた」


「おい、待て! どこにいくんだ!」


「つーかチャンネル登録者見てみ? あんたひどいよ?」


「あん? な、なんだと!?」


 ヒートの登録者が急激に減り続けている。


「た、たったの3万人!? くそまだまだ減り続けてやがる!」


「あんたは“終わったのよ”。じゃーね、バイーバイ」


「く、くそがあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」


 ヒートは絶叫した。喉が枯れるほどに強く。強く。


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【大事なお知らせ】


『炎上系配信者編』まで読んで下さり、本当にありがとうございました! 


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