おじさん、炎上系配信者と対決する

「冷蔵庫の中身が少ないな。さて、スーパーの買い出しにでも行くか」


 俺は支度をし、スーパーへと向かう。


「あのぅ、すいません……」


 途中でかわいらしい女子高生から声をかけられた。


「はい、どうしました?」


「“おじさん”ですよね? 動画配信者の」


「え? 俺のこと知ってるの?」


 俺はびっくりする。今までこんなことなかったから。


「はい、私、おじさんのファンなんです! チャンネル登録もしてます! だからもしよかったらサイン下さい!」


「え? 俺なんかのサインでいいの?」


「当たり前じゃないですか! ネットは今、おじさんの話題で持ちきりです! この前の配信も見ました。とってもかっこ……よかったです……」


 彼女は顔を赤くし、うつむいて、もじもじしている。


 今、俺、そんなに話題になってたんだ……。ここのところ、コラボやらなんやらで忙しくてネット見てなかったから知らなかったよ。


「おじさんのチャンネル登録ありがとね。じゃあ、なんかサインするのものとペンある?」


 女子高生はパァと表情を明るくして、カバンから急いでペンとノートを取り出す」


「ノートにお願いします!」


「あいよー」


 俺はノートにすらすらとサインを書く。


「ありがとうございました! 一生の宝物です!」


 彼女は嬉しそうに帰っていった。


「ふっ、まさか無名の時代からサインの練習をこっそりしてたのが役に立つとはな……」


 売れた時のことを妄想して、サインの練習をする。

 

 だれだって通る道だ。通る道……だよな?

 

 ただのイタイおっさんじゃ……ないよな?


「きゃー! あれおじさんじゃね!?」


「ほんとだ、おじさんだ! マジ、パナい!」


「おじさん、サインくれー!」


 見ると俺の周りにはいつのまにか、人だかりが出来ていた。


「え!? オイオイオイ……」





「ふぅ、やっと家に帰ってこれた……」


 出来るだけサインには応じたが、あまりに人が集まり、もみくちゃになったので、逃げ帰ってきた。


「こんなに有名になるなんて……。てか勇名人って案外、大変なんだな……。今度、スーパー行く時は軽い変装しないと……」


 結局はスーパーには行けなかった。とほほ。


 プルルルルルル。スマホの音が鳴り響く。


「ん? うららちゃんからか。はい、もしもし」


「おじさん、大変です!」


「え? いきなりどうしたの?」


「とにかく今からおじさんの家に向かっても大丈夫ですか!?」


「え? あぁ、うん、いいよ」


 彼女の声は相当にあせっている。


「よかった! それじゃあURLを送っておくので、この動画を見ておいて下さい!」


 ツーツーとスマホの通話が切れる。かなり慌てている様子を見てだったけど、一体どうしたんだろうか。


 俺は送ってきたURLをタップする。すると動画配信サイトに飛ばされ、動画が流れ始める。


『いよォ、ショクン! 燃える男“ヒート”の炎上チャンネルへ、ようこそォ!』


「こいつは確か──」


 炎上系配信者で人気の“大葉火糸おおばひいと”。


 ────『大葉火糸』チャンネル登録者数150万人


 燃える様な赤髪に全身にタトゥーを刻んでいるチンピラの様な男だ。


「確か有名人や配信者にあちこちちょっかいを出して、炎上をさせることで再生数をかせぐ男だったハズ……」


『今日もとびっきりの火種を見つけたぜェ!』


《うおおおおお! ヒート最強! ヒート最強! ヒート最強!》

《早く燃やしたくて、ウズウズするぜ!》

《燃やせ! 燃やせ! さっさと燃やせ!》


『今日、見つけたやべェ火種はこいつ! “おっさん”だァ!』


「──俺?」


『こいつァ、今、ダンジョン配信者で世間を騒がしてるが、ハッキリと言うぜ! コイツは偽物だァ!』


《おい、どういうことだ説明しろヒート!》

《おじさんがどうかしたのか!?》

《火種のにおいがプンプンするぜッーーッ!!》


『テメェらの空っぽの頭をふりしぼってよォく考えてみろ。コイツはS級のモンスターを一人で簡単に倒してたが、そんなことできると思うか?』


《いや、でも動画に残ってるし……》

《でも確かにありえねぇよな》

《上級者のパーティーがやっと倒せるか倒せないかのレベルだもんな》


『オマエラ知ってっか? 昔、S級モンスターをバンバン倒して有名になった配信者がいるんだけどよぉ』


《そういえばいたな》


『なんてこたぁねぇ! そいつは幻術を使って自作自演を繰り返していたサギ野郎だったって訳!』


《おいおい、それじゃあ、まさかおじさんも?》


『その通り! ただの詐欺師って訳だ! ガハハ!』


 動画はそこで終わっていた。


「なるほどねぇ、そういうことか。面白いな、なら逆にそれを利用してやるか……」


 俺は策を思いつき、ニヤリと笑う。




《ヒート視点》


「ははっ、おじさんの動画は大反響みたいだなァ。これでヤツも終わりだァ」


 ヒートはニヤリと笑う。


「ヒートさん! 大変です!」


 ヒートの仲間が、ゼェゼェと息を切らして入ってくる。


「なんだァ!? そうぞうしいぞ!」


「おじさんがヒートさんへのアンサー動画を! とにかくこれを見て下さい!」


「アンサー動画ァ!?』


 仲間は動画をヒートに見せる。


『えー、おじさんです。ヒートって奴の言っていることは全部、デタラメです。証拠を見せます』


《おおお! おじさんだ!》

《ヒートとか、あんな奴無視でええのに優しいな、おじさん》

《おじさん、証拠って?》


『ヒート。まぁ、ケンカ売られてる訳だから敬語はいらねぇよな。そのケンカ買うぜ。お前に“決闘”を申し込む』


「決闘だとぉ!?」


 日本では決闘は法律で禁止されているが、冒険者のみは、ある特定の条件を満たした時のみ許可がおりる。


『場所と日時はそっちの都合が合うところでいい。なんなら俺の体調が悪い時だって構わないぜ? まさか、逃げるなんて言わねぇよな? 逃げたらチキンだぜ? じゃあ、いい返事を待ってる』


《おい、ヒート逃げんなよ!》

《まさか、あれだけ人にケンカ売って、自分の時は逃げたらカッコ悪すぎるでしょ》

《逃げるなら、ヒートは終わりだな》


「上等じゃあねぇか! ぶっ殺してやらぁ!」


 このケンカを買ってしまったことがヒートの人生をどん底に落とすことになることを、彼はまだ知らない。

 


「なぁ、うららちゃん、ヒートへのアンサー動画撮ったけどさ、ちょっと俺の口、悪すぎやしない? これ大丈夫?」


 俺はうららが考えた動画を台本を読んだのだ。


「相手がケンカに絶対乗ってくるように、あおる必要があるんです! それにケンカ売ってきた相手に、そんな気づかい無用です!」


 うららはヒートの動画に対して、ぷんぷんと激しく怒っていた。


「ありがとう、うららちゃん。俺のために台本まで書いてくれて」


「パーティーの仲間なんですから、当然ですよ!」


 俺は俺のために怒ってくれる人がいることに感謝した。


 


















 


 






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