おじさん、アイドルに抱きつかれる

 


「うららは昔、アイドルユニットを組んでいました。そして4人でダンジョン配信系アイドルグループとして活躍していたんです」


「そういえば今はソロだけど、ちょっと前まではそうだったね……」


「ファンの方もたくさんついてきてくれて、楽しかったし、幸せでした」


「うん」


「でもある日のこと、うららはユニークスキル“慈愛じあいを習得しました。そこからが悲劇の始まりでした──」


「……」


「“慈愛”は強力なユニークスキルでした。“いつくしみの愛の力”が増すことで回復能力が劇的に向上され、みんなの役にもっと立てると喜んでました……」


「もしかしてそのユニークスキルにデメリットが?」


 強力なアビリティにデメリットが付くのはよくあることだ。


 彼女はこくんとうなずく。


「このいつくしみの愛の力は“敵味方関係なく”発生するものだったんです……。敵にさえ回復をしようとしてしまうんです」


「それでさっきのダイヤモンドタートルに回復を──」




《姫乃うららの回想》


「なんで姫乃ちゃんはモンスターを回復しちゃうの!?」


「ごめんなさいごめんなさい!」


「うららちゃん、ふざけてるの?」


「違うんです! 身体が勝手に……」


《うららちゃんには悪いけどさすがに……》

《うーん、フォローしたいけど……》

《姫乃、お前船降りろ》





「敵を回復してしまう私は、みんなのお荷物にしかなりません。だから私はソロでアイドル配信をやっていく道を選びました……」


「確かにうららちゃんの回復力なら下層までくらいなら、すぐに治せるから大丈夫だね」


「はい、“回復魔法使いのドタバタ配信”は人気がでて、登録者もたくさん増えました……。でも、やっぱり1人は寂しかったし、怖かったし、痛かった」


「すぐに治せるといっても、痛みは発生するわけだからね……」


「私の家は貧しくて、でも妹たちには私みたいにキュウクツな思いをさせたくなくて……。だから危険だけど私は配信を辞める訳にはいかないです!」


「そんな理由が……」


「そんな時おじさんの動画が偶然、おすすめに出てきたんです」


「うん」


「それを見て私は勇気づけられました。1人でも、チャンネル登録者がいなくても、頑張ってるおじさんの姿を見てとっても励まされたんです。おじさんは私にとっての“ヒーロー”なんです」


「それで俺のチャンネル登録とコメントをいつもしていてくれたんだね。ありがとう」


「だから私、おじさんに会えて舞い上がってしまって、コラボなんてしちゃいました……。敵を回復しないよう訓練したけど、やっぱりダメでした! ごめんなさい! ほんとにごめんなさい!」


 うららはついに泣き出してしまった。


《うららちゃん、泣かないで!》

《俺、馬鹿だから分かんねぇけどよぉ……》

《馬鹿なら黙ってろ!》

《……はい》


「辛かったね、うららちゃん」


 俺はポンと彼女の頭をなでる。無意識の内だった。


「あっ……」


「君が俺の配信をみて勇気づけれたように、俺も君のコメントにどれだけ救われたか」 


「お、おじさん……」


「だからさ、俺を信じてくれないか?」


「信……じて?」


「あぁ、君は敵を見なくていい。危ないかもしれないけど、俺が絶対に守るから。君は俺だけを見ていてくれ。俺は君の“ヒーロー”……なんだからさ」


「お、おじさん……ひっぐ、うわあああああああん!」


 彼女からは泣き出し、俺の胸に飛び込んできた。


 彼女はその小さな身体にどれだけの想いを背負っていたのだろう。


「し、信じてます……。わたしはおじさんだけを、ずっと、ずっと見てますから!」


「ああ、任せてくれ」


 俺はその辛さ、苦しみを少しでも背負ってあげたい、そう思った。


《おじさん、かっけぇ……》

《これは男の俺でもほれるわ……》

《あれ? ユニコーンが暴れない?》

《うららちゃん、ガチ恋勢意外と少ないからね》

《なんつーか、娘を見てるって感じなんだよな。放っておけないつーか》

《正直、1人でいるのはこの前の事件もあって不安だったから、ありがたい》

《おじさん、うららちゃんを守護まもってくれー!》

《私のおじさんを取らないでくれる?》

《↑うららちゃんは最古参ファンなんだが?》





《姫乃うらら視点》


 私はそれ以来、敵を回復することはなくなりました。


 だって──だって、だって、もう私の目には彼しか映らないから。


 私には慈しみ愛より、もっとずっと大切なものが出来たのだから。


 慈しみの愛より深いもの。それは恋。乙女の恋!


 私の胸のドキドキはもう止まらない────!




「S級モンスターのアンデットキングだ! うららちゃん、気をつけて!」


 不死身の肉体を持つ厄介な相手だ。


「はい! 相手は聖なる属性が弱点ですよね?」


「あぁ、だから回復魔法を俺に向かって使ってくれ!」


「はい! 『ウルトラヒール』」


「────クリエイト“ソード」


 俺は回復魔法にクリエイトを使い、聖なる属性をもった剣を造る。


『ウバアアアアアアア』


「────聖剣の一撃をくれてやる」


 俺はアンデットキングの攻撃をかわして、聖なる一撃を叩き込む。


「────『ホーリーストライク』!」


 白い閃光せんこうが辺りを包み込む。


『アアアアアア……』


 どうやらアンデットキングを無事に倒せた様だ。


 うららも敵を回復させようとすることもなかった様だ。


「やりましたね! おじさん!」


「あぁ、いい魔法だったよ! ナイス!」


 2人でハイタッチする。


《うららちゃん、よかったねぇ……》

《ついにユニークスキルのデメリットを克服したか!》

《おめでとう! うららちゃん!》

《やったな!》

《ああ……安心した……》




 

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