ラグナロク作戦

……………………


 ──ラグナロク作戦



 アレステアたちはアンスヴァルトへと乗り込んで出撃準備を始めた。


「これがお前たちの母艦だったのか」


 アンスヴァルトにはセラフィーネとエリヤも乗り込んでいる。


「ええ。とてもいい飛行艇ですよ」


「期待させてもらおう。お前とともに戦えることを嬉しく思うぞ」


 アレステアが自慢するのにセラフィーネがにやりと笑った。


『総員、本艦はこれより離陸する』


 アレステアたちが乗ったアンスヴァルトは離陸した。


「艦長。第1連合空中艦隊が合流しました」


「よろしい。何としても葬送旅団をロストアイランド領に届けるぞ」


 空中戦艦ミョルニルを旗艦とする第1連合空中艦隊がアンスヴァルトと合流。


 アンスヴァルトが第1連合空中艦隊とともにロストアイランド領に向かう。


「レーダーが不明目標複数を探知!」


「確認急げ」


 ここに来てアンスヴァルトのレーダーが不明な空中目標を探知。


「目標を視認。ドラゴンです!」


「ドラゴンだと」


 魔獣猟兵は今や連合軍の側に立っているはずだ。ドラゴンが敵として現れるなどありえない。そのはずだった。


「ドラゴン、高速で接近中!」


「対空戦闘用意!」


 無数のドラゴンが迫るのにアンスヴァルトと第1連合空中艦隊が対空戦闘を開始。


 近接信管で炸裂する主砲弾がまずは放たれ、それから両用砲と高射機関砲が連続して猛烈な砲火を発揮する。


「クソ。あれは真祖竜だぞ。どうして……」


 迫りくるドラゴンたちは真祖竜を多く含んでいた。


 しかし、事情が異なることはすぐに分かった。


「艦長! 接近中の真祖竜及び亜竜は死霊術によって操られているようです!」


 そう、ドラゴンたちは死霊術で操られているものたちだ。つまりロストアイランド領を防衛線とする偽神学会の戦力である。


 それに対して空中戦艦ミョルニルを始めとする飛行艇が次々に砲火を浴びせるが死せるドラゴンたちは鋼鉄の嵐の中を突破すると連合軍に襲い掛かった。


「空中戦艦ミョルニルが攻撃を受けています!」


「なんてことだ。だが、我々だけでもロストアイランド領に辿り着かねば……!」


 空中戦艦ミョルニルは無数のドラゴンたちに襲われ、砲撃を行うことができなくなり、ゆっくりと高度が落ちつつあった。


「最大戦速! ロストアイランド領に向かえ!」


 テクトマイヤー大佐が叫び、アンスヴァルトが加速する。


「ロストアイランド領が見えました!」


 そして、ついにロストアイランド領が見えた。


「さらにドラゴンです! 数は膨大につき測定不能!」


「分かった。では、降下艇は使用しない。本艦が直接ロストアイランド領に乗り付ける。我々の作戦の成否に全てがかかっているのだ」


「了解です、艦長!」


 アンスヴァルトは急速に高度を落としてロストアイランド領へと突入し、その岩の剥き出しになった地形に強引に滑り込んで着陸する。


「本艦はロストアイランド領に到着した。上陸せよ!」


 テクトマイヤー大佐が命じる。


「上陸だ! 急げ!」


 葬送旅団及び魔獣猟兵がロストアイランド領に上陸。


「ロストアイランド領には廃城がある。他に地上施設はない。となれば、ここに偽神学会が拠点を持っていると考えられる」


 シーラスヴオ大佐が作戦に参加するものたちを前に説明。


「最悪、ルナ・カーウィンさえ暗殺できれば作戦は成功だ。誰かがこの任務を果たしきることを望む。では、向かおう」


「了解」


 アレステアたちはカラカル装甲兵員輸送車に乗り込み、ロストアイランド領にある廃城を目指して進んだ。


「前方から屍食鬼多数!」


 ここに来て屍食鬼がアレステアたちの行く手を遮ろうとする。


「さらに戦車を確認しました!」


「偽神学会の連中。こっそり装備を盗んでいたな」


 ケルベロス装甲擲弾兵大隊の兵士が叫ぶのを聞いたセラフィーネが口角を歪める。


 偽神学会の地上部隊には魔獣猟兵も装備するルーン戦車が配備されていた。


 ルーン中戦車の主砲が火を噴き、アレステアたちを狙う。


「目標敵戦車! 撃て!」


 アルデルト中将の戦車部隊も偽神学会と交戦を開始し、砲弾が飛び交う。


「突破するぞ。軍団レギオン!」


 セラフィーネがここでゴーレムの軍勢を創造し、生み出されたゴーレムが一気に魔獣猟兵の地上部隊に向けて突撃していく。


 ゴーレムによって屍食鬼は薙ぎ倒され、戦車も撃破されて行く。


「進め、進め! 急がなければ!」


 急がなければ“煉獄崩壊”によって神々の作った秩序は無効となり、存在する世界秩序が消滅してしまう。


「……本当にカーウィン先生を殺すんですか?」


「ええ。そうなります。ですが、アレステア君が行う必要はないのですよ」


 アレステアがカラカル装甲兵員輸送車の中で尋ねるのにレオナルドが答えた。


「信じられないです。未だに。カーウィン先生が世界を滅ぼそうとしているなんて」


「理由はあるだろうね」


「その理由が知りたいです」


 アレステアたちを乗せたカラカル装甲兵員輸送車は屍食鬼と戦車部隊による防衛線を突破しようしていた。


「何か来るぞ」


 しかし、そこで何か高速で駆け抜けてくるものが葬送旅団に迫った。


「デュラハンだ! 応戦しろ!」


 現れたのは巨大なハルバードを握った女性だ。


 それがアルデルト中将指揮下のレーヴェ重戦車に肉薄すると刃を叩き込み、レーヴェ重戦車が爆発炎上。


「なんてことだ。応戦せよ! 友軍のカラカル装甲兵員輸送車を狙われたらひとたまりもないぞ!」


「了解です!」


 アルデルト中将たちが必死に応戦するも女性には通用しない。


「シーラスヴオ大佐殿。新しい敵の脅威です。いかがしますか?」


「1個中隊の残して応戦させ、我々は廃城を目指す」


「了解」


 ケルベロス装甲擲弾兵大隊から1個中隊が降車してデュラハンの女性との交戦を開始。その隙にアレステアたちは廃城へとひたすらに進んだ。


「そして、ついに連中はここに来たというわけだ」


「そのようだな」


 廃城ではスピアヘッド・オペレーションズの最高経営責任者サイラスと偽神学会のアザゼルがいた。そして、巨大な真祖竜も。


「ヘリオガバルス。戦う準備はできているか?」


「できている。戦わなければ殺されるだけ。そして私は死にたくはないのだ」


 アザゼルが尋ねるとヘリオガバルスと呼ばれた真祖竜が答える。


「冥界にはゲヘナがいる。私はゲヘナとずっと対立してきた。奴のいる冥界は恐ろしいのだ。何をされるのか分からぬからな。故に私は死ねない。死はとても、とても恐ろしいものなのだ」


「俺たち死霊術師は死をねじ伏せて来た。ならばこれからもそうするだけさ。やろうぜ。花火を派手に打ち上げ、新しい世界に乾杯だ。神も神々の作った秩序もない自由な世界を作ろうじゃねえか、ええ?」


 ヘリオガバルスの言葉にサイラスがそう言って笑った。


……………………

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