“煉獄崩壊”
……………………
──“煉獄崩壊”
「講和会議が襲撃された……!?」
アレステアたちはシーラスヴオ大佐から聞かされた言葉に目を見開く。
「はい。先ほど入った情報では講和会議が偽神学会に襲撃され死傷者を多数だし、一時中止されたとのことです。今後の経過次第では我々にも何かしらの任務が下されるでしょう。備えてください」
「はい」
やっと戦争が終わると思った。
だが、戦争はまだ終わるまいと粘っているかのようだ。
「シーラスヴオ大佐殿。移動命令です」
「ふむ」
そして、ここに来て司令部から移動命令が発され、葬送旅団はモーントヴァルト領のゲルプベルグ空軍基地へと移った。
「どうなるんでしょう? 講和はできるのでしょうか?」
「分かりません。魔獣猟兵と偽神学会の協力関係が破綻したのだとすれば今後偽神学会の間との戦いになる可能性も」
「そうですか……」
レオナルドの言葉にアレステアが項垂れる。
「皆さん。これより我々は移動して新しい任務ついてのブリーフィングを受けます。トラックに乗車してください」
「了解」
アレステアたちはトラックでモーントヴァルト領にある帝国陸軍の駐屯地に向かった。そこは既に厳重な警戒態勢にあった。
「え……!」
アレステアたちが基地の中に入ると予想外のものが目に入った。
「久しいな、アレステア」
「セラフィーネさん……?」
そこにいたのは魔獣猟兵のセラフィーネとエリヤだ。
「皆、よく集まってくれた」
そしてさらにはハインリヒがシコルスキ元帥とともに姿を見せる。
「皇帝陛下。何があったのですか?」
「新しい戦乱の危機だ」
アレステアが尋ね、ハインリヒが答えた。
「シコルスキ元帥。説明を」
「はい。先ほど魔獣猟兵に加担していた民間軍事会社スピアヘッド・オペレーションズとその上部組織である偽神学会が魔獣猟兵から離反。魔獣猟兵と連合軍の双方と戦闘状態に突入しました」
民間軍事会社スピアヘッド・オペレーションズと偽神学会はこれまで魔獣猟兵を支援していたが、それが突如して裏切りに出た。
「彼らの一部がこのモーントヴァルトで行われていた講和会議を襲撃。連合軍、魔獣猟兵の双方に多大な被害を出しました」
「こっちはネルファやソフィアがやられた。死んでいないが重傷だ」
シコルスキ元帥に続いてセラフィーネが告げる。
「では、どうするのですか?」
「偽神学会を倒します。そのためにまずは魔獣猟兵との停戦を──」
シコルスキ元帥がそう説明しようとしたとき少女が現れた。
「ゲヘナ様!」
「アレステア。そして地上のものたちよ。危機だ」
ゲヘナの化身が姿を見せると深刻な表情でそう言う。
「この戦争で大勢が死んだ。その魂は等しく我が冥府に落ちるはずだった。それが落ちていないのだ。魂はずっと地上に留まり続け、それによって世界の秩序が、神々の協定が破綻に向かいつつある」
「それはどういう……」
「死者が暫し眠ったのに冥府に向かうというのは神々が定めた協定だ。それが無視され、履行されていないならば神々の協定は機能不全になっていると判断される。そう、協定が機能不全だと判断されれば破棄される可能性がある」
「そんな!」
神々の協定は世界の秩序そのものだ。それが破棄されれば無秩序が訪れる。
「これは何としても避けなければならない。これを引き起こしている死霊術師を倒すことによって」
「しかし、その死霊術師というのは」
死霊術師は偽神学会という組織を構築しているが、その中の誰が“煉獄崩壊”を起こそうとしているのかが分からない。
「ルナ・カーウィン」
そこでエリヤがそう言った。
「ルナ・カーウィンが偽神学会のトップだ。間違いなく彼女の仕業だろう」
「カーウィン先生が!?」
「知り合いなの?」
アレステアが驚愕するのにエリヤが意外そうな顔をした。
「え、ええ。僕たちの部隊の軍医でしたから」
「それはまた。どういうことだろうね」
エリヤがアレステアの説明に首を傾げる。
「どうあれルナ・カーウィンを倒さなければ世界は旧神戦争以前に戻る。いや、もうそこにすら行きつかないな。神々が地上を去った今、神々の協定が破棄されれば、世界は永遠に無秩序なままだ」
「そうだ。地上からあらゆる理が失われてしまう」
セラフィーネとゲヘナの化身が相次いでそう発言。
「問題はどこにルナ・カーウィンたち偽神学会が拠点を置いているか、だね。これについては俺たちにも詳しい情報はない」
「一体どこで……」
エリヤの言葉にアレステアたちが考え込む。
そこで帝国空軍大佐がシコルスキ元帥の下にやってきて資料を渡した。
「皆さん。偽神学会について情報が入りました。帝国安全保障局が傍受した情報です。偽神学会はスピアヘッド・オペレーションズをアーケミア連合王国ロストアイランド領に呼び出しています」
「ロストアイランド領。そこにカーウィン先生が」
帝国安全保障局は無線傍受でスピアヘッド・オペレーションズの動きを把握し、そこから偽神学会の拠点について分析した。
「すぐにそこに向かえ。“煉獄崩壊”を阻止するのだ。そうでなければ世界が終わる」
「はい、ゲヘナ様」
ゲヘナの化身が命じ、アレステアたちが頷く。
「我々も手を貸すぞ。世界が終わっては困るからな」
「俺もね」
そここでセラフィーネとエリヤがそう言った。
「ありがとうございます、セラフィーネさん、エリヤさん」
アレステアはふたりにそう礼を述べた。
「シコルスキ元帥。すぐに作戦立案を」
「はい、陛下」
ハインリヒが命じ、シコルスキ元帥が頷く。
それからすぐ作戦が立案された。
「これよりロストアイランド領における偽神学会勢力の制圧を目指します」
シコルスキ元帥が説明を開始。
「我々は第1連合空中艦隊とともにロストアイランド領へ空挺降下。ロストアイランド領の敵戦力をねじ伏せます。ロストアイランド領はそう広い場所ではなく、一定の戦力があれば制圧可能です」
シコルスキ元帥が言うようにロストアイランド領は広い場所ではない。降下部隊が一定数いれば制圧可能である。
「ゲヘナ様からの情報によれば“煉獄崩壊”はそれを引き起こそうとしている死霊術師を排除できれば阻止できるそうです。我々は恐らくその死霊術師であるルナ・カーウィンの暗殺を目指します」
そのシコルスキ元帥の言葉をアレステアは険しい表情で聞いていた。
「魔獣猟兵との合同作戦にもなりますが、魔獣猟兵の方々には連合軍の指揮下に入っていただきます。よろしいですね?」
「ああ。異論ない」
シコルスキ元帥が確認し、セラフィーネたちが頷く。
「作戦名はラグナロク作戦と呼称。何としても任務を達成しましょう」
……………………
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